その7~9

- works.02 ある約束 -


その7~9を掲載しています。




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《前回までのあらすじ》


 王都への初旅行はゴブリンの襲撃あり、ショッキングな“水竜に仕えし者”の

伝承ありとパーティに休む間を与えません。

 そんな困難を乗り越え、いよいよ王都入りしたパーティを待っているものは……?


~その7 ハート司教出立~


GM:   次の日の朝になりました。今日はどうするのかな?

ラルク:  ハート司教に会うから、司祭服の汚れを落として正装します。

      武器は持たない方がいいですよね。

ヤシュト: お、ラルク。さすがに気合いが入ってるな。

ラルク:  とーぜんですよ。

      なんてったって、アガルタの総本山ですからね。

GM:   正確に言っておくとメイラレンのね。

      タリア大陸の総本山は、内陸のオルドスだよ。

ジェスタル:だけどよ、ハート司教をやっつければラルクが司教だぞ。(笑)

ケイ:   なに言ってるの。

ラルク:  ふーむ。(笑)

ヤシュト: だ~っ。お前も悩むな!

      まずは依頼書を渡して、ギルドに行ってと。

      それから町をぶらつくとしよう。

      武器屋だろ、ドラゴン教会ってのも行ってみたいな。

ジェスタル:うまいもんも食いたいしな。

      まずは下に降りてメシにしよう。(笑)

GM:   食堂ではすでに商人や、旅人たちが朝食をとってるね。

      そんな中を忙しそうに女給さんたちが立ち働いている。

      宿のでっぷり主人がカウンターの向こうでスープを煮込みながら

      話しかけてくるよ。

      「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

ヤシュト: 「ああ。ベッドで寝るのは久しぶりだったんでね」

GM:   「お客さんたちは見たところ、冒険者のようだけど仕事で?」

ヤシュト: 「いや、ギルドに入ろうと思って」

ジェスタル:「まだ駆け出しなんですよ」

GM:   「どうぞ、牛肉とブロッコリーのスープです。

       そうですか、あのギルドにねぇ」

ヤシュト: 「なんだか気になる物言いだな」

ジェスタル:「ギルドがつぶれたとか」(笑)

GM:   「いえね、ギルドのスナイパーさんはかなりのやり手ですよ。

       ただ、ランダさんがね」

ケイ:   「ランダぁ!?」

ジェスタル:ナンダぁ?(笑)

ラルク:  「どうしたんです?」

ケイ:   「まだいたのか~、そうよね、いるよね~」

ヤシュト: GM、これもプレイヤーごとに作られた過去ってやつだな。

GM:   その通り。

ヤシュト: それじゃキャラクターとして聞こう。

      「ケイさん知り合いか?」

ケイ:   「知り合いも何も、私が魔法を習ったのがランダおばさんなのよ。

       まだメイラレンにいた頃だから、もう8年も前ね」

ジェスタル:それでまだ1レベルなのかよ。怠けてたな。

ケイ:   うるさい。あんただって1レベルでしょお。(笑)

ヤシュト: 「おばさんってことは女だな」

ケイ:   「私が習った頃はお姉さんだったけど、もう30越えてるはず。

       嫌味タラタラのヤな女なんだから」

ヤシュト: 「俺たちは魔法を習うわけじゃないからな」

ラルク:  「腕は確かなんですか?」

ケイ:   「お父さんのベルディン・ベモって人が、王宮魔術師だったから

       確かでしょ。でもランダ自身は協調性がないから、

       ギルドのお偉いさん止りみたい」

ジェスタル:なんだかギルドが楽しみになってきたな。

      ほらほら皆さん。早くメシ食って出かけましょ。(笑)

ヤシュト: 冗談はさておき、アガルタ教会には行かなきゃな。

      まだまだ序盤だから、さっさと動こう。

      なんだか今回は長丁場になるような気がするんだ。

GM:   助かるよ。全員で町に出るわけだね。

      お目当てのアガルタ教会は、宿酒場のあるメインストリートに

      位置している。

      屋根の上の十字架と、真っ白な壁が目立っているからすぐ分かるよ。

      教会からは朝のミサを終えた人たちが何十人と出てきてるところだ。

ラルク:  「さすがはメイラレンですね。

       これだけの人がミサに出席しているなんて」

ジェスタル:「なぁ。

       吾輩なんか怪我した時しか行かないもんな」(笑)

ヤシュト: ほら、ラルク。エレミヤさんの使いとして、ここはお前が行かにゃ。

ケイ:   がんばって。

ラルク:  う~、コホン。

      礼拝堂の中に入って、教会の人に話しかけます。

GM:   扉の側に、ミサに来た人たちを見送っている、中年の司祭がいるよ。

ラルク:  「おはようございます。

       南トゥムのエレミヤ神父に教えを請うているラルクという者です」

ジェスタル:決まってるじゃな~い。

ケイ:   かっこいいよ。

ラルク:  「エレミヤ神父から、ハート様に依頼状を届けに参りました」

GM:   「これは遠いところご苦労様です。

       あなたたちのことは、エレミヤ神父から言付かっております。

       どうぞ、こちらへ」

      その司祭はそう言うと、君たちを奥の応接間に案内する。

      質素な部屋で待たされること少し、ドアを開いて50代の温厚そうな

      聖職者が、若い司祭に付き添われて現れるね。

ラルク:  立ち上がってお辞儀をします。

ヤシュト: 俺たちも礼をしよう。

      がさつな冒険者と思われるのは嫌だからな。

GM:   すでに眉毛も白くなった聖職者は、にこやかな笑顔で口を開く。

      「アガルタ教会へようこそ。私がこの教会の主ハートです」

      その口調にはメイラレン最高聖職者である驕りは微塵も感じられない。

      遠路はるばる訪ねてくれた客人を、心から歓待しているようだ。

ヤシュト: う~ん。さすがはハート司教。

      タカびー(高飛車)なヤツだったら、どうしようかと思ったぜ。

ラルク:  エレミヤ神父の師ですよ。

      そんなはずはありません。

ジェスタル:言うねぇ。

      ラルクは教会にいると人が違う。

GM:   「エレミヤとカチュアは元気かね?」

ラルク:  「はい。村人のために勤めています。

       これがエレミヤ神父からお預かりした依頼状です」

GM:   ハート司教は依頼状を開きながら、満足げに頷いて、

      「ラルク君、頼もしい受け答えだ。

       これからもエレミヤを支えてやってくれ」

ラルク:  「はい! もちろんです」

ジェスタル:(小声で)ラルクって、そんな立派なことしてるか?

ヤシュト: (同じく小声で)しといてやろうぜ。

ケイ:   (これまた小声で)ハート司教の前だもんね。

ラルク:  外野うるさいですよ!(一同爆笑)

      せっかく決めてるんですから~。

ジェスタル:ごめんごめん、おとなしく聞くよ。

GM:   ハート司教は依頼状を開くと、口に手を当てたまま文字を追う。

      「アレイン」

      後ろに立っている若い司祭に声をかけるね。

      「王城に出立の報告を。行き先は南トゥム。

       出発は2時間後、滞在期間は10日間と」

ケイ:   え? 2時間後?

GM:   アレインと呼ばれた司祭は驚いた様子も見せずに、部屋から出ていく。

      いつも病人が出ると、こんな調子なんだろうね。

ヤシュト: 「そんなに急ぐってことは、ミリアは危ないのか?

       じゃない、危ないんですか?」

GM:   「いや、エレミヤの報告では特に病状が悪化している訳でも

       なさそうだ。ただ一刻も早く、ミリアさんを訪れたいのだよ。

       正式な依頼状がないと王都を留守にはできないのでね。

       この教会は私が不在でも大丈夫。

       求めに応ずるに早すぎるということはない」

ジェスタル:このおじいちゃん、フットワーク軽いな!

ヤシュト: いい人みたいだな。

      「ハート司教、ミリアのことよろしくお願いします」

      ミリアの健気な姿を思い浮かべながら、頭を下げる。

ジェスタル:ヤシュトもミリアのことになると、人が変わるな。

GM:   「最善を尽くすつもりだよ。

       私はこれから旅支度だ。

       ろくなもてなしもできないで心苦しいが」

ケイ:   「とんでもありません。

       ミリアを看ていただけることが、何よりのもてなしです」

GM:   ハート司教にも君たちの思いは充分通じているみたいだね。

      「こんなにもいい友人がいるのだ。

       きっと治るとも」

      ハート司教は眩しそうに目を細めて君たちの顔を一人ずつ見てから、

      応接間を後にする。

ヤシュト: 「ふ~っ。これでミリアが治りゃいいが」

ラルク:  「大丈夫ですよ。信じましょう」

ケイ:   「私たちが南トゥムに戻る頃には、よくなってるかも」

ラルク:  「そうですね」

ジェスタル:よぉ、早くここから出ようぜ。

ケイ:   ジェスタルは精霊信仰だから居心地悪いの?

ジェスタル:いや、みんながいい人みたいで気持ち悪い。(一同爆笑)

ヤシュト: (苦笑しながら)なんだと~。

      まぁ、ミリアのことはハート司教に任せるとして、

      本業に戻るとすっか。

ケイ:   そうね。ランダおばさんに会うのは気が重いけど。

ヤシュト: この前のギーランとムールみたいな奴に、舐められたくないからな。

      確実に力をつけていこうぜ。

ケイ:   なるほどね。そう考えるとやる気が出てくる。

ラルク:  それじゃギルド行きましょうか。


~その8 かちーん~


GM:   ソードとロッドをレリーフした看板を目印に、

      場所はすぐに見つかるよ。

      ギルドは南側のちょっとした小山に埋まるように建てられている。

      入り口は両開きのドアで、今も冒険者風の男が出てきたところだ。

ヤシュト: じゃあ、ギィっとドアを開いて入ろう。

GM:   中は10畳間位の広さで、カウンターと椅子が5脚。

      奥には扉があって、壁には至る所羊皮紙が張られている。

      カウンターの向こうに20代後半の男が一人座ってるよ。

ラルク:  「こんにちわ。

       ギルドってここですよね?」

GM:   男は羊皮紙に落としていた視線を上げて口を開く。

      「ああ。

       仕事がほしいのか?」

      素人目にも分かるけど、隙のない目配りだね。

ヤシュト: む。この人がスナイパーだな。

ケイ:   でもスナイパーって本名かな?

      狙撃手って意味でしょ。

ヤシュト: いや、通り名みたいなもんだろ。

      そういう仕事をこなしてきたんだ、きっと。

      たぶんスナイパーさんであろう人に言おう。

      「俺たち、ギルドに登録しようと思って来たんだ。

       それとサーチの技術を身につけたい」

ケイ:   「私は古代魔法を」

      これでジェスタルを眠らせても大丈夫。(笑)

GM:   「ほう。冒険者を志すにはいい若さだな。

       そこに掛けてくれ。書類を作成する」

      一人一人に話しかけて、出身地や死亡した場合の連絡先、

      家族構成などを書き込んでいくね。

ヤシュト: 家族構成か……。

      GM、念のためにルグニカ、ソニカのことは隠しておく。

      連絡先は村長の家にしといてくれ。

ジェスタル:どうしてだよ?

ケイ:   あの二人はディー・バーバリアの元から逃げて来たからでしょ?

ヤシュト: そう。どこから足がつくか分からないからな。

GM:   ヤシュトの記録はそういうことで。

      一通り書類ができあがると男は羽ペンを置いて、

      「私が当ギルドの責任者スナイパーだ。

       ギルドの規約を説明したいのだがいいかな?」

ラルク:  「お願いします」

GM:   「ギルド登録者は年に100Goldの登録料を支払うこと。

       登録者にはギルド証が貸与され、通行証、身分証明証を兼ねる。

       ギルドから斡旋した仕事に関する報告は怠らないこと。

       また仕事の成功率が著しく低い場合、登録者が法に触れる行いを

       犯した場合、登録から抹消する。

       まずはこんな所だ。

       何か質問は?」

ラルク:  (元気に手を上げながら)ハイ!

GM:   はい、ラルク君。別に手は上げなくていいよ。(笑)

ラルク:  「ギルドから斡旋された仕事の最中に、

       人と戦うようなことになった時はどうなるんでしょうか?」

ヤシュト: お、いいこと聞くねぇ、ラルク。

      前回のことがあるからな。

      俺も聞こうと思ってたんだよ。

GM:   「原則として臨機応変に対処してもらう。

       もっともアガルタの司祭さまなら、まずは交渉に全力を

       注ぐべきだな。その余地がない場合、武力で排除しろ」

ヤシュト: 「相手を殺しちまっても構わないのか?」

GM:   「それが最良ならな」

      スナイパーは事も無げに言うね。

ヤシュト: おおっ、さすがはギルド。

      渋いこと言ってくれるじゃないか。

ケイ:   そお? 私はちょっと怖い。

GM:   「ただし」

      スナイパーは一度言葉を切ると、全員に視線を向けてから、

      「どんな仕事に於いても、ギルドは登録員の生還を第一優先とする。

       肝に銘じておけ」

ジェスタル:急に引き締まった会話になってきたじゃな~い。

ケイ:   あんたも引き締まりなさい。(笑)

GM:   すると奥の扉が開いて20代前半の、綺麗だけど、

      ちょっとキツそうな女性が出てくるね。

      「久しぶりね、ケイ・ハン・ショウ侯爵令嬢。

       ギルドに仕事をもらいに来るほど、財産を食いつぶしたの?」

ケイ:   この嫌味なセリフ……まさかランダ?

ラルク:  でもランダさんって、30過ぎのおばさんじゃなかったでしたっけ?

ジェスタル:なぁ。ケイがそう言ったぞ。

GM:   その女性は、長い黒髪を掻き上げながら近づいてくる。

      額に一条の銀髪、ケイは間違うはずもないが、ランダだ。

      しかし幼いケイが魔法を習った頃と、寸分変わらぬ若さを保っている。

ケイ:   どういうこと?

      優秀な魔法使いは歳を取らないの?

ジェスタル:その論理からいうと、ケイはすぐにおばあさんですな。(一同爆笑)

ケイ:   あんただっておじいさんよ!(笑)

      とにかく言われっぱなしは口惜しいから、口答えしよっと。

      「冒険者でもしてないと暇でしょうがないんです。

       それにしても、よく私だって分かりましたね」

GM:   ランダは冷笑的な笑みを浮かべて答えるよ。

      「10年前と変わらない稚拙な魔力。

       間違えようがないわ」

ケイ:   かちーん。(笑)

ヤシュト: こりゃ向こうの方が一枚上手だな。

GM:   スナイパーは苦笑しながら、

      「ランダ、挨拶はそれくらいにして例の物を渡してやってくれ」

      そうスナイパーに言われると、ランダは全員に

      細い銀の鎖でできたブレスレットを渡す。

ヤシュト: 「これは?」

GM:   「ロケーションの呪文がかかっているわ。

       それさえしていれば、未熟な新米冒険者が行方不明になっても

       居場所が分かるというわけ」

ヤシュト: 俺もかちーん。(笑)

      ぶっきらぼうに言うよ。

      「こいつの世話にならんよう心掛ける」

      確かにランダって嫌な女だな!

      今のセリフは Byプレイヤーね。(笑)

GM:   スナイパーは皮肉な会話に嫌気が差したのか、

      「サーチの訓練は明日から開始する。

       6日間、私の部下にしごかれてもらうことになる。

       訓練終了時にギルド証を発行。以上だ」

      と言葉を挟む。

ケイ:   「あの、私は?」

ランダ: それにはランダが、無言で自分の胸に手を置くね。

ケイ:   「はいはい、よろしくお願いします」

      もうギルドを出ちゃう。(笑)

ラルク:  「そ、それじゃ失礼します」

ヤシュト: スナイパーにだけ一礼して去ろう。

ジェスタル:「それじゃ、明日からよろしくお願いします」

      吾輩は別に怒ってないから、ちゃんと挨拶しとく。

GM:   全員ギルドから出たね。

ケイ:   ギルドから離れて大きく深呼吸します。

      「あ~、悪夢」

ヤシュト: 「クセのありそうな女だな、ランダって」

ラルク:  「昔から言うじゃありませんか。

       綺麗な花には刺があるって」

ジェスタル:「刺ありまくりですな」

ヤシュト: 「ケイさんの明日からの悪夢を和らげるために、

       王都見物でもするか?」

ジェスタル:「いいね~。

       その案採用!」(笑)

ラルク:  「案内してくださいよ、ケイさん」

ケイ:   「みんな、気を遣ってくれてありがとね。

       うん、今日は楽しもう。

       どこに行きたい? メイラレンなら任してよ」


~その9 水竜の驚異~


ヤシュト: 「実はさ、ドラゴン教会ってのに個人的には興味があるんだが」

ジェスタル:「吾輩も」

ラルク:  アガルタの司祭服を着てるんですけど、大丈夫でしょうか?

ケイ:   (ルールブックを読みながら)

      ドラゴン教は、自然崇拝に近いから大丈夫だと思うけど。

ヤシュト: メイラレンが容認してる教会でもあるしな。

ジェスタル:怒られたら、その時帰ればいいじゃないか。

ラルク:  思いっきし人事ですね。

ジェスタル:その通り。面白ければ全てよし。(笑)

ケイ:   けどヤシュトがドラゴン教会に行く理由っての、分かる気がするな。

      街道宿で吟遊詩人から聞いた、いけにえの件でしょ?

ヤシュト: さすがはケイさん。

      国家の平和のために、誰かが犠牲になるなんておかしいぜ。

      人を守るために国ってのは存在するんだからな。

ジェスタル:立派なご意見だけど、教会で暴れるなよ。(笑)

ヤシュト: いくら俺でもそこまでしないさ。

GM:   ケイは知ってていいけど、ドラゴン教会は止鏡湾に面した北側にある。

      王都の賑やかな中心部を抜けて、貴族の荘園、果樹園などを過ぎ、

      ようやく石造りのひっそりとした教会が見えてくる。

ヤシュト: けっこうかかりそうだな。

      馬に乗ってくればよかったかな。

GM:   街中での乗馬は王族以外禁じられてるから変わらないよ。

ラルク:  今何時くらいです?

GM:   かなり歩いたから、空腹を覚えはじめた12時頃だ。

ジェスタル:一度昼飯を食べに戻るか?(笑)

ヤシュト: だぁ~。何言ってんだ。

      ここまで来て、それはないだろ。

ケイ:   もうちょっとガマンしなさいよ。

      はい、おせんべあげる。

ジェスタル:サンキュー! って、腹が減ってんのはキャラクターだよ。(笑)

ヤシュト: とりあえず中に入ろう。

GM:   両開きの古い扉は閉じられたまま。

      鍵はかかってないよ。

ヤシュト: ドアを開く。誰かいる?

GM:   中は小さな礼拝堂だが、誰もいない。

      窓から日差しが差し込む礼拝堂は、綺麗に掃除がされているけど

      あまり利用されてないみたいだね。

      特に参拝者も来ないようだ。

ヤシュト: アガルタの方はすごかったのにな。

ケイ:   心情的に、みんなよく思ってないんじゃないの?

      いけにえに選ばれた人にも家族がいるはずだし。

ヤシュト: そうだよな。

      もしソニカが選ばれでもしたら、憎んでも憎みきれんからな。

GM:   君たちがガランとした礼拝堂を目にして佇んでいると、

      上から少女の声が降ってくる。

      「なにかご用ですか?」

ジェスタル:上?

ヤシュト: 日の光を手で遮りながら、上を見上げよう。

GM:   屋根の上には濃紺の司祭服、ドラゴン教の司祭服だろうね、

      それを着た少女が立っている。

      ちょうど君たちと同年代かな。

ラルク:  「教会の方ですか?」

GM:   ラルクの問いかけに、少女は頷くと、

      「デューさん、お客さんみたい」

      そう呼ばれて20歳を過ぎたくらいの青年がトンカチと針金を持って、

      君たちに見える所まで現れる。

      彼も濃紺の司祭服を着てる。

ヤシュト: 「この教会の責任者はあなたですか?」

GM:   「いえ、アイケルト様です。ちょっと待ってください」

      デューと呼ばれた青年は6mはあろう屋根から、何気なく飛び降りる。

ジェスタル:危ないって。

GM:   だがデューはまるで羽毛のようにゆっくりと地面に降り立つね。

      続いて少女もデューの横にフワリと舞い下りる。

      明らかに重力を無視した降り方だった。

ケイ:   アサシンって訳でもないんでしょ?

ジェスタル:アサシンだってムリだろ、今のは。

GM:   気になるなら魔力感知。

ラルク:  11です。

ケイ:   13。

ジェスタル:すまん、1ゾロ。(笑)

GM:   ラルクとケイには降り立つ二人の背中に、ちらちらと光の粒子で

      できたような翼が見えた気がしたね。

      今はもう消えてるけど。

ラルク:  魔法ですよ、これ。

ケイ:   「あの、失礼かもしれませんが今のは?」

GM:   少女の方が

      「驚かせてごめんなさい。

       ドラゴン教のエレンドの一つです」

      プレイヤーは知ってていいけど、ドラゴン教のエレンドで竜の翼だ。

      魔力の翼で自由に飛翔することができる。

ジェスタル:そんなこともできちゃうの?

      ドラゴン教に入ろうかな。(笑)

GM:   デューと呼ばれた少年が話を引き継いで

      「エアンと屋根の修理をしてたもので、失礼しました。

       この教会の主アイケルトは瞑想中です。

       ご用があるのなら呼んできますが?」

ヤシュト: 「いや、用というほどのものじゃないんだ。

       ただ少し話が聞きたかっただけで」

ラルク:  「瞑想のお邪魔をしちゃ悪いから出直してきますよ」

GM:   「アイケルト様はそんなこと気にしません。

       礼拝堂でお待ちください。

       すぐにお連れしますから」

      エアンと呼ばれた少女は教会に入っていくね。

      「どうぞ、こちらへ」

      デューは君たちを礼拝堂に誘うよ。

ヤシュト: こう言ってくれてるし入るか。

ケイ; うん、せっかく来たんだから。

GM:   礼拝堂でデューと世間話をしていると、程なく50歳前後の男が現れる。

      濃紺の司祭服を着ているから、彼がアイケルトだろう。

ヤシュト: 立ち上がって挨拶をしよう。

      「俺たちは南トゥムの冒険者です」

GM:   「私がここの主アイケルト・ビーンだ。

       はるばるこのような教会に、どんな用件かな?」

      アイケルトは短く刈り込んだ顎髭をなでながら問いかけてくる。

      ラルクの司祭服を見ても、特に気にした様子はない。

ラルク:  ふ~。よかった~。

ヤシュト: アイケルトさんに言うよ。

      「いけにえに関してなんですが」

GM:   「水竜に仕えし者について?」

      アイケルトは、いけにえという言葉をやんわりと訂正する。

ヤシュト: しまった。まずい表現を使っちゃったかな。

      でも言っちまったことは引っ込められん。

      「そもそも水竜に仕えし者とはなんなんですか?」

GM:   「古来は荒れ狂う止鏡湾を静めるために、

       近年ではメイラレンの平和を守るために水竜の意志に沿う者だ」

ケイ:   「しかし国の平和は人間が守るべきです」

ラルク:  「私もそう思います。

       そのために王がいて騎士がいるわけですからね」

GM:   アイケルトは小さく頷くと

      「ついて来なさい」

      デューとエアンをその場に残して、君たちを2階のバルコニーに

      連れて行く。

      バルコニーからは右手に塩湖、左手にいけにえの岬、正面には穏やかな

      止鏡湾が広がっている。

      海風が心地よく君たちの頬をくすぐるね。

ジェスタル:「ひゃ~、いい眺めじゃな~い、釣りにもってこいの地形だな」(笑)

ヤシュト: い、一気に緊迫感が抜けていく~。

ケイ:   ほんとマイペースね。

GM:   アイケルトは潮風を吸い込んだ後、口を開く。

      「この視界に映る全てを守るために、どれだけの人間が

       必要と思うね?」

ケイ:   「それは……」

GM:   「デューは北トゥム沖の止鏡湾海戦で父親を失った。

       彼は平静を保っているものの、心の奥底には重い憎悪が

       渦巻いている。

       エアンもまた貿易商を営む両親を海賊に奪われた。

       両親の墓前に花を捧げる彼女からは表情が消え失せる。

       水竜の庇護とて、王都メイラレンの他は及ばない」

ヤシュト: ……いう言葉がないな。

GM:   「だが王都が守られるだけでも、どれ程の命が救われようか」

ラルク:  「ですが、いけに……いえ、水竜に仕えし者に選ばれた人は

       どうなるんですか?

       残された家族は?」

ヤシュト: いいねぇ、ラルク。

ジェスタル:アガルタの司祭してるぅ!

ケイ:   茶々入れるのやめなさいよ。

GM:   「先の水竜に仕えし者イドリは私の姉なのだ」

ケイ:   「えっ!?」

ヤシュト: 「なんと……」

ジェスタル:こりゃ聞いちゃいけないことだったかもしれない。

GM:   「私自身、水竜との契約に諸手を挙げて賛成しているわけではない。

       だが……これが水竜の力なのだ」

      アイケルトはそう言うと、止鏡湾に向かったまま目を閉じる。

      すると強い日差しの中にいるのに、ひんやりとした空気が感じられる。

      次いで胃がぎゅっと締めつけられるような感覚。

ヤシュト: 「なんだ!? この感覚は」

GM:   「私を通して君たちは今、水竜の存在を感じている」

      君たちの目は現実の世界を捉えているのに、

      頭の中にはうねる波が広がる。

      水竜とは自然そのものだ。

      意志を持った自然、水竜の圧倒的な存在が頭の中に流れ込んでくる。

ジェスタル:吾輩は精霊崇拝だから、その凄さはよく分かるよ。

      冷や汗を流しながら、

      「これが水竜の存在なのか」

      って呟いちゃうね。

GM:   アイケルトが手を一振りすると、イメージは唐突に途切れる。

      「この力に比べたら、人の力など無に等しい」

      そう言うアイケルトの瞳は悲しげだ。

ケイ:   お姉さんのことを思ってるのね。

ヤシュト: 「申し訳ない、アイケルトさん。生意気なことを言ってしまって」

ケイ:   「私もあやまります。何も知らない者の言葉でした」

GM:   「いや、世の中そんな疑問も抱かぬ者がどれ程多いか。

       火の粉を被ってから、その熱さに初めて気づく。

       その点君たちは見所がある」

      そういってアイケルトは初めて笑顔を見せる。

ラルク:  素直に頭を下げて、

      「尊い教え、ありがとうございました」

      って言います。

ジェスタル:さすがに吾輩も圧倒されたよ。

      鳥肌立った腕をさすりながら、頭を下げよう。

GM:   特にもう聞きたいことはないかな?

ヤシュト: ああ、充分だ。

GM:   それじゃ君たちは、デューとエアンの笑顔に見送られて

      ドラゴン教会を後にした。

ヤシュト: 「しかし参ったな、ドラゴンの波動には」

ケイ:   「いけにえに賛成する訳じゃないけど、たくさんの人が

       守られてるのね。私たちも含めて、ね」

ヤシュト: 「ドラゴン教会の連中は偉いな。

       みんな過去に哀しい思いをしてるのに、自分の勤めを果たしてる」

ラルク:  「勉強になりましたね」

ジェスタル:ちょっとプレイヤーのセリフだけどさ、

      他のテーブルトークじゃドラゴンと簡単に戦うけど、

      こりゃ戦えないね。

ヤシュト: ほんとだな。でもこの方がリアルでいいじゃないか。

      ドラゴンスレイヤーっていう称号には、ちょっと憧れもあるけどな。

GM:   タリア大陸にもドラゴンスレイヤーの称号はあるよ。

ヤシュト: え、うそ。(目を輝かしています)

GM:   それはシードラゴンや、ワイバーンなんかの劣種のドラゴンを

      倒した者が自称してるだけだけど。

ヤシュト: なんだ。

ケイ:   ヤシュトも野望があるんだ。

ヤシュト: そりゃ剣士だからな。

      野望は熱く、理想は高くだ。

ジェスタル:理想の前に腹空かないか?(笑)

ラルク:  いま何時頃です?

GM:   2時くらいかな。

ヤシュト: そうだ、海が近いなら貝でも採って食べるか!

ジェスタル:醤油をたらして、ジューっと……たまらんっすな!(笑)

ケイ:   この世界に醤油はないっしょ。

GM:   自転車で銚子に行った時、磯でサザエ焼いてる人がいたな。

ヤシュト: 高校の時だろ? 俺もそれを思い出してたんだよ。

      あの時GMが食中毒になってな。(一同爆笑)

ケイ:   (笑いながら)それからどうしたの?

ジェスタル:吾輩たちは全然気がつかなかったんだよ。

      だから自転車を飛ばして帰ってきちゃった。

GM:   俺も帰って寝込むまで自覚がなかった。(笑)

ラルク:  どーゆー体してんですか。

ジェスタル:食中毒に気をつけながら海辺でメシだ!(笑)

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