秋②

 今日は部活がお休みなので、いつものように他愛ない会話をしながら帰宅中。


「今日一緒にいた子ね、国語科の先生と付き合ってるのよ」


 否。全然他愛なくなかった。

 自転車の荷台に座ってる彼女。普段恥ずかしがって手を繋ぐこともしてくれないけど、今は僕の腰に腕をまわしてぎゅっとしがみついている。やっぱり自転車は良いね。


「ってそれ、僕のクラスの担任じゃないか」


 髭の似合う若い先生だ。たしか26歳だと言っていた気がする。


「やるなぁ。全然気付かなかったよ」


 気付かれていたら色々終了しちゃいそうだけども。14歳差かぁ。ある程度の年齢になったら気にならないのだろうけど、現時点だと犯罪臭がすごい。


「というかそのこと僕に話しても大丈夫なのかい?」

「だって誰にも言わないでしょう?」

「んー……親友には言っちゃうかも」


 ていうか話す。確実に。


「ダメだよ! 言ったら噛むからね」

「そんな脅し方初めてされた。君が僕を噛むのかい?」


 そうなら罰どころか全然良いというかむしろしてくださいと思う


「ううん。私の友達が一斉に君を」


 わけがなかった。罰だった。これは間違いなく罰だ。一斉にって何。そんなシチュエーション恐怖でしかない。


「言わない。言わなきゃ世界を滅ぼすって言われても絶対言わないよ」

「いや、そこは世界を救いましょうよ」

「ほら僕勇者ってがらじゃないし……おっと」


 ブレーキかけながら方向転換する。


「どうしたの?」


 普段はまっすぐ行く道を途中で曲がったから、彼女が不思議そうに聞いてきた。


「あのまま進むと何らかの障害がありそうだったからさ。少し遠回りになるけど道変えようと思って」

「いつもの”予感”ですか」

「うん。僕の予感は当たるからね」

「でも今みたいに回避行動とっちゃったら確認のしようがないね」

「あぁ確かに。それは盲点だった」


 とはいえ自信は揺るがないから、わざわざさっきの道に戻ったりはしない。


「おや」


 少し進んだところに幼稚園があった。こんなところに建っていたなんて知らなかったな。

 園児たちの「せんせーさよーなら、みなさんさよーなら」と言う声が外まで聞こえてくる。大声で言っているのがなんだか一生懸命な感じをかもし出していて、微笑ましい。


「私嫌いだわ」


 そんな園児たちを全否定するかのように彼女は言った。小さい子が嫌いだなんて意外だった。穏やかで優しくて、今にも母親になれそうなくらいなのに。


「あ、子供がじゃなくてね?」


 小さい子は大好きよ、と慌てたように付け加える。


「さようならって言葉がね。お別れって感じがとてもして何だか嫌なの」

「まぁ分からなくはないけど。そういえば君、いつも『またね』って言ってたね」


 だから何となく僕もまたねって返していた。言われるまで全然気付かなかった。というより気にしたことがなかった。これからは意識して言わないようにみるか。別れを嫌いな言葉でしめるのはちょっと抵抗があるし。



 ヴーヴー


 突然ズボンの後ろポケットに入っていた携帯が震えた。誰かから連絡だろうか。バイブレーションの長さ的にはメールだろう。


「携帯見てくれるかい?」


 後ろに彼女を乗せているから自分で見るわけにもいかない。誤ってバランス崩したら大変だしね。


「え、でも……」

「本人が頼んでるんだから、プライバシーとか気にしなくていいよ。それに君に見られて困るものなんて何もないしね」


 いらないと言ったのに、共働きで、一人でいる時間が多い僕を心配した両親が半ば無理やり渡してきた物だ。当然使う気はなく、アドレス帳には両親と姉と親友しか入ってない。彼女のが入ってないのは彼女が携帯を持っていないから。

 それなら、と彼女が携帯を取る。


「あ、アヒル君からよ」


 口頭での説明だから多少時間はかかったけど、なんとかメールが開けたようだ。

 親友はみんなからアヒル君と呼ばれている。理由は言わずもがなだろう。まぁあのアヒルにはアヒルで本当は名前があるんだけどね。


「『いつもの道にお巡りいたから気をつけろ』ですって」


 いつもの道とはさっき避けたところだろう。二人乗りしてるから、見つかったらきっと注意される。二人きりの、しかも彼女がくっついてくれる時間を妨害されるだなんて立派な障害だ。


「ね? だから言ったでしょ?」


 僕の予感は当たるんだって。

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