春②
次の日、放課後、教室にて。
「やっぱり僕の予感は当たるね」
クジ付きのお菓子では常に当たりだし、テストのヤマが外れたことないし。
「でもなー、いくらなんでも出会ってすぐ告白っていうのはさぁ」
アヒルの口をパクパクさせながら親友が言う。
「まぁ確かにあの告白はロマンに欠けてたね。でもほら、思い立ったが吉日っていうじゃないか」
かわいい子だったから早くしないとライバルが増えてしまうかもしれない。
「でもあの子が予感の子とは限らないだろ?」
その辺はぬかりない。あの後顔を真っ赤にして走り去られたので名前が聞けず、クラスもわからなかったから、あの子を探すついでに校内の女の子全員見てきた。
「やっぱりあの子以上にピンとくる人はいなかったよ」
「お前の行動力はたまに尊敬するわ」
呆れたように親友が言った。
「さて、そろそろ教室見に行こうかな」
時間を確認し、立ち上がる。
「あの子の所か?」
「うん。休み時間のとき少し話したんだけど、今日日直らしくて」
「そうか。……ってあれ? 一緒に帰るのか? 結局付き合えたのか?」
なにやら困惑気味の親友。一体彼は何を言っているんだろうか。
「君もいたじゃないか。僕が"はい"と返事をもらったときに」
彼はきょとんとした顔をしてから、その場面を思い出そうとあごに手をあてうなる。その間に僕は帰り支度を済ませる。とはいっても、出しっぱなしだった筆箱を鞄に入れただけだけど。
扉をガラッと開けたと同時に、後ろから「あっ」と言う声が聞こえた。
「思い出したかい?」
「もしかしてアレか。お前が告ってすぐに発された"はい"のことか?」
「うん」
親友がいやいやいや、と首と手を振る。
「あの"はい"は肯定じゃなくて、絶対疑問系の"はい?"だったぞ!?」
「そうだったっけ? 同じ言葉でもイントネーションで意味が変わる日本語は厄介だね」
でもね、と僕は口のはしをあげて笑う。
「恋愛に大事なのはキセージジツ、だよ」
「なんだそれ」
「それがあると責任をとらなきゃいけないとかなんとか」
「よく分からないけどなんか大人っぽくてかっこいいな!」
俺もそのうちキセージジツ作る! と決心した親友に別れを告げ、僕は教室を出た。
ガラッと教室の扉を開けると、あの子が一人でポツンと座っていた。少し来るのが遅かったか。
「ごめん、待たせちゃったね」
扉を開けた音で気付いたようで、彼女はこちらを向いている。
眼は大きくパッチリとしている。腰まで届きそうな真っ黒な髪はさらさらとしていそうだ。
やっぱり可愛いなぁと思う。中学入ってすぐこんなに可愛い彼女ができたらこれからの人生にも自信が持てる気がする。
まぁそんなにうまくいくとは思ってないけど。
「大丈夫よ。私も話があったし」
だよねぇと心の中で呟く。親友にはああ言ったけど、僕は結構常識人だ。あの返答が疑問形だなんて分かっている。なんで僕を待っていたのかなんて、ちゃんと分かってる。
「僕じゃダメなのかい?」
でもあの時雷が落ちたかと思ったくらいの衝撃を受けたんだ。
あっさり諦めるなんて、できっこない。
「だって私あなたのこと何も知らないもの」
「それはおかしい。僕は今日休み時間に自己紹介したよ」
その時に君の名前聞いたんだ。ついでに今日日直だということも。
「そうじゃなくて。性格とかさ」
「マイペースで穏やか」
「いや、だから」
「だけどたまに強引」
「うん。それはとてもよくわかる」
「そうかい? じゃあやっぱり何も知らない仲ではないね」
ニコッと笑って言う。彼女が一瞬たじろいだのを僕は見逃さなかった。
……もう一押しすればいけるんじゃないかな?
僕は先程の笑みを爽やか好青年スマイルと名付けた。ゲームや漫画のキャラクターのように叫んで使うことはなさそうだけど。
「僕は君が好きだ」
もちろんこれは僕の本心本音嘘偽りのない心からの想いだ。でもこれが意図せず、そう、意図せずとどめの一言となったみたいで、彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。
そしてしばらくして
「3カ月」
彼女が顔をあげて言った。もう顔は赤くない。
「3カ月付き合う」
「なぜ期限付きなんだい?」
当然の疑問を投げかける。
「よくテレビで3カ月経つとマンネリ化するって言っているから。その頃にはあなたも冷静になっているでしょうし、気まずくならずに別れられるようにしておきたいの」
なんで別れる前提なのだろう。少し悲しくなった。
「延長することはないのかい?」
「期限が? そうね、よほど気が合ったのなら長引くかもね」
ふふっと柔らかく彼女が笑う。反則的な可愛さにドキッとした。さっきまで硬い表情だったから余計に可愛く見えるのかもしれない。
他にはどんな表情をするのだろうか。いろんな顔を見たいと思う。なんとしても延長戦に持ち込みたい。恋愛指南書でも買ってみようかな。
「ところで……さ」
彼女がもじもじしながら話しかける。どうしたのだろう。トイレかな。
「私の、その……どこが良かったの?」
すれ違いざまに告白したから手当たり次第ではと思われているのかもしれない。それはまずい。断じてそうじゃないんだ。誰でもなんてありえない。そのことを証明するために、僕ははっきりと答えた。
「見た目」
「……」
こうして僕たちは晴れて彼氏彼女となった。
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