学校一の美少女は母性たっぷりだからってバブみは無いよ

 転校から一ヶ月。なぜか学校中の男子・女子から睨まれるようになったワンの居場所は、昼休みも放課後もガイテック部の部室だった。どちらかといえば文化部。

「お弁当を作ってきました」

「ありがとうな」

 折りたたみ式の長机に向かい合って、ワンにお弁当の包みを渡すのはリリー・サンプス(JK)である。なぜか、リリー(JK)はワンのことを放っておけないようで、毎日弁当を作ってきてくれたのだ。

「不思議です。ワンくんがやっぱり他人とは思えません」

「俺だって、あんたがただの先輩とは思えないぜ」

 だって、かーちゃんそっくりなんだもの。

「それで、考えてくれましたか?」

「何だっけ」

「もう、いいですか。ガイテックの大会に向けて作るんですよ」

「ああ、その話か。わかったよ。やってやろうじゃない」

「本当に? ありがとうございます」

 毎日毎日、リリー(JK)の作る弁当はとても美味しかった。そしてなぜか、懐かしい味がする。手先はあまり器用ではないけれど、ガイテックの謎に迫れるのであればまんざらでもない。

「それで? いつから始めるんだ」

「もう始めていますよ。ワンくんが帰ったあとにね。もう基礎的な部分の設計は終わっています」

「本当に?」

 リリー(JK)は机の上に設計図を取り出した。精巧なモデル、ほとんどガイテックについて知らないワンだったが、それでもこれは普通の女子高生が作れるものではないと思った。

「ワンくんには力仕事をやってもらいます。そして、私もまだなんですが、ガイテックへの願いを一つ、考えてはくれませんか」

「願い、ねえ。そりゃあ必要だけどさ」

ガイテックの起動には、使用者の願いが不可欠だ。それをうまく使いこなさないと、大変なことになるということは、ワンが今まで転校してきた別の”学校”で身を持って知っている。気がついたらクラスメイトがいなくなっていた、という笑えない話だってあるのだ。

「私の願いは、どうしましょう。そうですね……、将来を願う、っていうのはどうでしょう」

「将来?」

「はい。未来を願うんです」

「俺はどうしようかな……」

 とはいえ、一つのガイテックに二つの願いだ。リリー(JK)の願いと釣り合いを取る必要がある。

「俺は……、決めた」

「何にしたんですか?」

「教えないよ。かーちゃんに聞かれたは恥ずかしい」

「私はかーちゃんではないと何度も言っているでしょう」

「あ、そっか。すまない」

 どうも、ワンはリリー(JK)にリリー(母)を重ねて見てしまうきらいがあった。仕草も話し方も、ワンを見る眼差しも。だから、親衛隊みたいな生徒が大勢いる中でワンがいろいろと噂されてしまうのだ。もっとも、一昨日あった部活動集会でリリー(JK)が

「ワンくんと男女の関係はありませんから、ご安心ください」

 と言ってくれたので、久しぶりに今日デギューと話すことができたのだが。


「いいないいな! リリー先輩とガイテック作るのいいなあ!」

「デギューも入部すればいい」

 帰り道。偶然下校時間が一緒のデギューにリリー(JK)との部活動について教えると、やっぱり蕩けた顔をする。学校一の美少女、恐るべし。

「ソマット借りていいんだよね?」

「ああ。同志とシェアするのは自然なことだからな」

 デギューと話があうので帰りにワンのソマットを貸すことになった。この時間ならまだリリー(JK)も帰宅していないので、学校について何か言われることもないだろう。

「ありがとね。あしたあたしのソマット持ってくるよ!」

「助かる。実はソマットの貸し借りは初めてなんだ」

「え、あっ、そっかー。転勤族だもんねー」

 じゃあ、とデギューが家を出ようとした時。

「あれ、ワン。帰ってたの? あら、お客さん?」

 玄関が空いて、リリー(母)の声がした。

「おっと、リリー・サンプスのお帰りだ」

「先輩が!?」

「かーちゃんだ」

 そっか、とデギューとワンは階段を下りて、玄関へと向かう。

「クラスメイトのデギューだよ。ソマット貸したんだ」

「こんにちは、デギュー・ハミスタンです。うわっ、先輩そっくりですね」

 ワンはため息をつく。似ていたとしても、(JK)と(母)は別人なんだから。

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