第9話 許し

 後ろで呻き声がして振り向くと、レイラが自分の母親の首を絞めていた。

 レイラも、レイラの母親も目から滝のように涙を流している。

 慌てて止めに行くと、レイラはそのまま床に崩れこんで蹲ってしまった。くぐもった鳴き声だけが聞こえてくる。

 首を絞められていた母親が、静かに涙を流しながらヒューヒューと苦しそうな呼吸を繰り返している。


「どうして……」


 その言葉に反応して、レイラの肩がびくりと震えた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 涙でぐしょぐしょにした顔をぎこちなく上げて、俺を見上げる。


「許して……許してください」


 充血して真っ赤になった目は救いを求めていた。縋るような視線に息が詰まりそうになる。

 思わず視線を逸らす。


「……俺に、裁く権利はないよ」


 そのまま俯いてまたごめんなさいを繰り返し始めてしまったレイラを前に、俺は何をすることも出来なかった。

 ただただ目の前の現実が痛くて、胸の奥から湧き上がる感情で吐きそうになる。

 今ここで俺に出来ることは、何もないのだ。

 部屋の隅で未だ涙を流しているレジーナの腕を引っ掴んで家から出た。

 レイラの家を中心に入った地面のヒビが、町の中心の方まで続いている。少し前に軽食を取ったばかりの小さな食堂も倒壊していて、とてもじゃないが中に人が入れそうにはない。

 町の人間は誰もが涙を流しながら嘆いたり、怒ったりしていた。

 

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世界平和の作り方 屋本こなり @azi10ma10

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