第7話 訪問

 村の中心に引き返して、早い時間から開いている店を回っていく。村の外観を崩さないようデザインされた素朴な店たちが、長く横たわった道の両脇に肩を並べて並んでいる。小さな出店で魔王の青い顔の色を少しでも隠すために白粉を買ってやり、その帰りに村の隅にぽつんと立っているような、小さな食堂へ寄った。

 橙色の落ち着いた照明が店内を照らし、控えめに飾られた花が店内を彩っている。

 空いた小腹を埋めるために軽食を二人分注文し、料理が運ばれてくるまでの間に情報収集をしようと、周りを見渡す。

 通路を挟んで隣の席では、二人組の男が談笑していた。


「すいません、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」


 突然声をかけられた男二人は、驚いてこちらを見る。


「え、ええ。別に、いいですよ」


 少しの間があって、片方の男が返事をした。


「村の、少し外れに行ったほうに、女の子の住んでいる家があったと思うんですけれど、あの、病気の母の世話をしている……その女の子のことを聞きたくて。確か名前は……レ……」

「その子のことは知っていますけど、あなた、その子とどういう関係で?」


 名前を思い出そうとしたところで、もう片側の男が訝しげに聞いてきた。


「昔、色々と……」

「あの子なら、まだ病気の母親に付きっきりだったはずだけれど……。気になるなら直接訪ねたらどうですか? 顔見知りなんでしょう」

「ええ、そうしてみます。ありがとうございます。」


 丁度会話を終えたところで店員が料理を運んでくる。少し急いで料理を食べ終えると、駆け足気味で店を出た。

 石レンガの地面を駆けて娘の家へ向かう。

 木製の、赤みがかった小さな家が見えたところで、レジーナの足がピタリと止まった。


「い、行きたくない」


 ぐずる魔王の腕を引っ張る。


「いや、嫌だ」

「行くぞ」


 もう一度強く引っ張ると、レジーナは前のめりによろけた。


「行くぞ」


 そのまま腕を引っ張ると、しぶしぶ付いてくる。

 娘の家をノックすると、記憶の中よりずっとやつれた少女が扉から出てきた。


「はい、どちら様でしょう」


 疲れ切った顔で出てきた少女はこちらの顔を見て、大きく目を見開く。


「勇者様……? 勇者様……! 覚えていらっしゃいますか。私です。レイラです」


 あかぎれて、ところどころ皮も剥けて、ガサガサとした手を組んで、レイラはこちらに微笑んだ。


「勇者様、せっかくですから、どうか家に入って休んでいきませんか。お連れの方もどうぞ……。大したものもありませんけれど……」

「ああ。元からそのつもりで来た」


 レイラに招き入れてもらって、家に上がる。

 小奇麗な部屋の奥で、隠すように寝たきりの母親が置かれているのを、何重にも吊らされた布越しに見る。

 突然ぐいと強い力に引っ張られて後ろを見ると、俺の服の端を握るレジーナがいた。


「レジーナ?」

「は、早く帰ろう」

「もう少し、な」


 服の端からそっとレジーナの手を外すと、レイラの案内のまま、部屋の奥に進む。


「母親の調子はあれからどうだ」

「いえ、最近また調子が良くなくて……」


 リビングに通され、椅子を人数分用意してもらう。

 人工的な照明に照らされたレイラの顔は、昔よりずっと痩せて、所々骨が浮いている。


「最近って……いつから」

「勇者様に助けていただいてしばらくは、いい方に向かっていたんです。ただそのうち、薬も、金も尽きてしまって……」


 レイラは、目を逸らして俯く。


「母親の様子を見ても?」

「ええ、どうぞ……」


 俺が聞くと、レイラは椅子から立ち上がり、母親のいる部屋へと俺たちを案内した。

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