第6話 朝

 瞼越しに、朝の日の光を受けて目が覚める。

 床の上には、相変わらず白餅が転がっている。

 毛布を引っぺがしてやろうと引っ張ると、逆に引っ張り返され転びそうになる。


「おい、起きろ」


 しゃがみこんでレジーナの硬い頬をペチペチ叩くと、顔を顰めたのちようやく魔王は目を覚ました。


「朝飯を食べに行くぞ」


 よくわからない呻き声を漏らしながら、のっそりレジーナは立ち上がった。大きなあくびを一つ、こっくりこっくりと首を上下させるレジーナを横目に服を着替える。眠たそうに眼をこするレジーナにフードを被せ、腕を掴んで部屋を出る。

 廊下をしばらく歩いていくと、階下から、焼き立てパンの香ばしい匂いが昇ってきた。


「レジーナ、パンは食べられるのか?」

「よ、よくわからないけれど、何でも食べられる」


 この分だと、魔王の食事に関しても、人間と同じで構わないだろう。食事に関する不安が減って、安堵した気持ちになりながら、階段を下りた。

 食堂で朝飯を食った後、汚れた服を宿の洗濯サービスに預け、少しの荷物だけを持って宿を出る。

 朝の白い日差しに照らされながら、昨晩は見かけなかった村の商人たちが、せっせと店の支度をしているのが目に入る。


「人間の群れだ……」


 ボソリとレジーナが呟いた。

 レジーナの腕を掴んで村を歩く。昔この村の外れで助けた、病気の母を持つ娘を訪ねるつもりだった。

 記憶を頼りに娘の家へ向かうと、目的地まですぐのところで、突然レジーナが立ち止まった。


「か、帰ろう勇者」

「ルイスだ」

「こっちは嫌だ……」


 掴んでいる腕をグイと引っ張るが、レジーナが動く様子はない。首を振って、これ以上先に進むことを拒絶している。


「こっちには行きたくない」


 森で遭遇した巨大猪のことを思い出す。人間相手にあんな得体の知れない魔法を使われたらたまらない。今、この理解不能な起爆剤の機嫌をこれ以上損ねるのは、俺としても避けたかった。


「わかった。一旦戻ろう。でも後でまた来るからな。ちゃんと心を決めておけよ」


 ため息を一つ吐いて、引き返す。レジーナはほっと胸をなでおろしたのも束の間、後で来ると聞いて、また体が強張った。

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