第3話 世界を表す森の中で(前編)

建物を出てから、僕らは何歩、何十歩、何百歩、歩いただろうか。

最初の内は、新鮮な景色と味わった事のない風と太陽の日差しに興奮して

楽しかったのも最初だけだった。

僕は、その場に座り込んだ。

ゾンビは、座り込んだ僕を気にして立ち止まった。

「しんどい!もう無理!足痛い!」

駄々こねる僕を、ゾンビは気にもせずまた歩き始めた。


僕は、その姿を見て顔を足元に埋めた。

すると僕の瞳から汗のようなものがポロポロと流れ落ちた。

初めて味わった。

苦痛と涙。

外の世界が、こんなにも大変だなんて知らなかった。

もう嫌だ。帰りたい。

ユーリや皆は、もう元通りになったのかな。

建物の皆の事を思い出していると、ユーリのやり取りが蘇ってきた。



『ノヴァは、・・・さ。外の世界に、何処までも広がる空が在って、人間が自由に暮らせる場所が在るって信じる?』


そうだ、僕はしっかりこの眼で確かめなきゃいけないんだ。

僕は、重たい体を起こして立ち上がり空を見上げた。

零れてくる涙をふき取りまた歩き始めた。

あの場所から出れた以上は、外の世界をユーリに教えてあげなきゃ。

じゃないと僕が、今この場所にいる意味がない。


ゾンビは、振り返り僕が歩き始めたのを確認しまた歩き始めた。

走ってゾンビに追いついて追い越していった


「遅いと置いてくよ!」

その言葉に、不思議と化け物は嬉しそうに笑ったように感じた。




第2章“外の世界”



それから休みながら、また歩いて。

夜が来て初めて見る星と月の美しさに感動し。

ゾンビが建物から持ってきた缶詰を食べてそこで寝て。

朝を迎え、目覚めまた歩き出し、休んでを繰り返し進んだ。

兎に角僕は、必死だった。


そしてあの建物から抜け出して3日目の事だった。

僕は、これまでの疲労が溜まったのか、その場に倒れ込んでしまった。

もう動けそうにない。これも初めて味わった限界。

意志さえ折れそうになる。

もしかしたら、外の世界を望んでしまったからなのかな。

僕の頭を不安と責めが、駆け巡る。


化け物は、立ち止まり僕をおんぶしてまた進み始めた。

僕は、不思議とゾンビの背中に安心感を覚えていた。

これも初めての感覚だった。

建物にいた頃は、それぞれがそれぞれの為、決められた規則の中で行動し

それが当たり前だと思っていた。


自然と僕は、ゾンビの背中で眠りについていた。


次に目が覚めた頃には、何やら頭に妙な冷たさを感じた。


冷たい。

水?


目を開けると、空から水の様な物が降り注いでいた。

あんなに真っ青で綺麗だった空が、夜とは違う不気味な灰色の空に変わっていた。

これは、夢なのか。でも寒い。


ふとゾンビの背中越しに前を見ると見たこともない大きな物が地面から沢山生えている。

僕は、またユーリとの外の世界の会話を思い出した。


外の世界には、自然と言う物があり。

美しい花や木々が立ち並び森と呼ばれる場所が存在する事。

しかし創造の世界とは、別世界だった。


葉は、枯れ果て不気味な木の実が生え、朽ちたツルが木々に絡みつき

至る所に大きな爪痕が残り、生物達の骨が散乱していて

とても想像した美しい森とは、違い恐怖を覚えた。


ゾンビは、その中に入り雨をしのげる場所を探した。

大きなキノコを発見しキノコの傘の下で、僕をゆっくり下ろし一休みを始めた。

ゾンビは、建物から持ってきた布を僕に被せポケットから濡れた紙切れの様な物を

右に左に振り雨の雫を振り落とし乾かそうとしていた。

「大事なものなんですか?」と僕が話しかけると、振る仕草を辞め僕を見てポケットに直した。


チラッと見えたその紙切れには、何やら女の人と男の人が映っている様にも思えた。


そのすぐ後だった。

反対側から物音が聞こえゾンビは、すぐさま僕の前に立ち戦闘態勢に入る。

裏側から出てきたのは、

銃を構え傷だらけの男が現れ、ゾンビに銃を向け立ち止まった。

まるで時間が止まったかの様に、沈黙の時間が過ぎた。

雨の音が、とてつもなく大きく聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る