第2話 少年と化物
余りにも静かで、瓦礫が散乱し、まだ火薬の匂いが香る無人となった街で
男は、目を覚ました。
ここが、天国ならどれ程良かったものか。
男は、重たい身体を起こし辺りを確認した。
激しく争った形跡の後、鼻に残る皮膚の焼けた匂い。
男は、ポケットからトランシーバーを取り出し使用できるかを確認するも、
使い物にならずトランシーバーを地面に置いた。
その時自身の身体が傷だらけだと認識し、無意識に男は自分に課せられた任務を
遂行する為、歩き始めた。
それが絶望への一歩とも知らず。
第1章 ‟少年と化物”
電気が点滅し、自分の心臓の音と目の前の生き物の荒々しい呼吸の音が響き渡る
この空間は、本当に現実の物なのかと頭で理解しようとしていた。
僅かな点滅で確認するその生き物は、
全身傷を負っていて、これまで見た人間とは違うものだった。
少しの沈黙の時間が流れた頃、生き物は潰れた喉から発声し始めた。
「ギ・・・ガグ」
「・・・え?」
上手く聞き取れなかったのか、それとも喋れないのか。
僕は、必死にその生き物が何者かを理解しようとしていた。
するとその生き物は、僕の表情から察したのか、首を横に振った。
僕は、恐る恐るその生き物に近づいて観察し始めた。
化物は、少し困った様子を見せ一歩下がった。
「言葉はわかりますか?」
僕の質問に生き物は、ゆっくり頷いた。コミュニケーションが取れる事で
不安が少し和らぎまた質問を問いかけた。
「貴方は人間ですか?」
また少しの沈黙の時間が流れ、生き物は自分の身体を見渡しゆっくり首を振った。
「・・・そうですか。」
僕が落ち込んだ様子を見て、生き物は、一歩下がった足を前に進め僕に近づいてきた。
そして僕の頭を撫で始めた。
「ありがとう。大丈夫だよ」
生き物は、撫でるのを止め再び動きを止めた。
僕は、この生き物が危険ではないと判断し、深く深呼吸した。
「そうだ。どこかゆっくり休める場所ってわかりますか?ヘトヘトで。」
生き物は、僕を通り過ぎドアノブに手をかけ、扉を開き僕の方を振り返った。
「案内してくれるんですか?」
生き物は、またゆっくりと頷き僕は、ついて行った。
扉が閉まると、部屋の中でまた何かが崩れる音が聞こえた。
点滅する灯りがその正体を暴くように照らし出した。
その正体は、変わり果てた何名もの兵士達だった。
しかし、この正体を知る事もなくノヴァは、化物に着いて行った。
先程通った機械や資料が散乱していている通路を生き物に続き着いていく。
機械が倒れて間を抜けた所を生き物が崩れた機械を動かし通りやすいように通路を作って
その後を着いて行った。
暫く歩くとあの場所から繋がったであろう通路に辿り着いた。
とりあえず必死に逃げてここに辿り着いたけれど
あの声の主は一体誰だったのだろうか。
物知り爺さんは何処に行ってしまったのだろうか。
それにユーリは。
再びあの場所で起きた出来事を思い出してしまい壁を見つめていると
生き物は立ち止まりこちらの様子を伺っていたので、また生き物の所まで進み始めた。
数分歩くと、今度は通路の隅に水が零れていたり、
本でしか見た事のない魚という生き物の死骸であったり、
お菓子の食べかすなどが散乱した通路になっていた。
ふと壁際に目線が映ると、窓があり目をそこから見える景色に目を疑ったのだ。
気づけばその窓から見える景色に夢中になっていた。
何処までも続く世界が広がり、上には雲が見え、月が見える。
ノヴァは、何もない土地でも美しいと感じた。
そして本当に外の世界があったのだと心から喜びを覚えた。
数分外を見つめると一気に、これまで蓄積された疲労が蘇りそのままノヴァは、
崩れ落ちた。
化物が近寄ると、余程疲れていたのか。
死んだように眠っている。
化物は、ノヴァの身体を起こさぬようゆっくり持ち上げ進み始めた。
僕が目を覚ますと薄暗い部屋で、少し硬いベッドの上に横になっており、分厚い毛布が被されていた。
重たい身体を起こすと目線の先に、先程の生き物が座っているのが見えた。
それに気づいた様で、こちらに近づきボロボロの紙を渡してきた。
そこには、ギリギリ読める字でこう書かれていた
『これからどうしたい?』と書かれている。
これからどうしよう。
あの場所に戻って確かめたいけど、
どうにも気分が乗らない。
それを察したのか生き物は、窓を指差した。
指差された窓を見ると
そこには、先程見た景色が広がっている。
そうか、あれはやっぱり夢じゃなかったんだ!
僕の心臓が高まるのを感じた。
今戻っても、きっとユーリも街の皆も、
まだ混乱しているはずだ。
しっかり外の世界を自分の目で確かめたい。
それに自分の知らない世界を知りたい。
きっと外の世界があると知ったらユーリも
機嫌を直してくれるはずだ!
再び僕は、生き物を見て自分の想いを伝えた。
「もしも。この建物から出られるなら。外に出たい!」
生き物は、僕の顔をじっと見つめているように
思えた。
生き物は、ゆっくり動き出し次の紙を僕に渡してくれた。
そこにもギリギリ読める字で、
『そう言うと思った。俺のことは、ゾンビとでも呼んでくれ』
その意味も分からず僕は、生き物をゾンビと呼び
また一礼した。
するとゾンビは、ドアの方へ歩き始め
扉を開き手招きしている。
僕も扉まで向かうと、先程の薄暗い通路とは違い
陽の光が窓から差し込み少し明るい通路になっている。
始めて感じた陽の光が眩しく僕の目が慣れるのに少し時間がかかった。
もう大丈夫!とゾンビに伝えると、進み始め
この部屋から少し進んだ場所に、自分の住んでいた部屋程の広さのフロアに辿り着いた。
そこには、両窓に挟まれた扉があり
ゾンビは、僕の方を見てドアを開けるようジェスチャーしてくれた。
そして僕は、ドアノブに手をかけた。
その時感じた鼓動の高鳴りは、今まで感じた事のない程の緊張感で、自分の心臓の音が聞こえるくらい興奮していた。
ゆっくり、ゆっくりドアノブを外に押すと
先程よりも眩しい光が隙間から漏れてきた。
扉を開ききると、そこには夢にまで見た外の世界が辺り一面に広がるいる。
感じた事のない風に暑さ。
臭った事のない匂い。
僕はゆっくり空気を吸い込んだ。
なんて凄いんだ!外の世界は!
身体の中で何かが弾けるような感覚。
始めて感じた -生きてる-と言う実感。
ノヴァは、この感覚に興奮して化物に
何度も何度もお礼を言った。
化物は、喜ぶノヴァを見て。
何処か嬉しそうな様子だった。
一方、建物から離れた小さな集落跡地にて
複数のテントが張られている。
複数の兵士が徘徊し、中心に張られた大きなテントに一人の兵士が入り込む。
そのテントには、無数の銃や火薬。
大きなテーブルとその上に大きな地図。
テーブルの上に置かれたこの周辺の地図になっており
いくつかの街は、バツ印がされている。
それを囲む3名の小隊長。
そして指示を出している、二十代後半の男性。
「副隊長!レイゴ副隊長!」
「どうした?見つかったか?」
「それが・・・。第3地区にて、小隊が全滅。連絡が途絶えました。」
「クソッ。」
男性は、強くテーブルを叩いた。
「・・・これ以上の捜索は。」
一人の小隊長が、副隊長に今回の作戦の無謀さを改めて伝えた。
「もう既に、我々第6小隊の半数が行方不明、または死亡。」
それに続くように、他の小隊長も責めるように言い聞かせた
「2週間かけて発見は、出来ていません。このままだと」
すると、抵抗するように副隊長は、口を開いた
「・・・すまない。一人にしてくれ。」
その言葉に、小隊長3名と兵士はテントから出る。
出るや否や、小隊長達は、レイゴの事を妬み話始める。
「何が副隊長だ。あんな奴に何が出来る。」
「仕方ないだろ。元隊長の後釜だ・・・。」
「後釜っつっても あの人とは違って作戦もあやふや。今回の作戦もアイツ発信なんだろ?」
「あぁ・・・迷惑な話だぜ全く。」
「大体あの人は、もう・・・。」
そして一人テントに残るレイゴは、頭を抱えていた。
「・・・俺には、無理だよ。お前と違って。」
レイゴは、第6小隊の旗を見つめある人物を思い浮かべていた。
「お前は、今何処にいるんだ・・・。リッデル。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます