第15話
翌日、授業開始前に後ろの席で外を眺めるナツホにかまをかけることにした。
「おい、ナツホ。お前長門が冗談を言う姿を見たことがあるか?」
「……ユキが冗談? あの子が冗談言うことがあるとしたら大事件だわ」
「……そうだよな」
「なによ。あの子がなにか言ってきたの?」
「いや、なにも。もしあいつがジョークを口にするならどんなことを言うのか気になったのさ。いつもあまりにも無口だからな」
「たしかにあの子の度を越えた無口は団長として解決する必要があるわね。世界に羽ばたく我がSOS団の団員はコミュニケーション能力も秀でてないといけないもの。そうね、まずは手始めにお笑いビデオでも見せようかしら。人の心の中に入り込むには笑顔が一番だもの。あの子は笑わなすぎだわ」
宗教勧誘の指導者みたいなことをにやりと表情を崩しながら話し出すナツホの顔は悪代官と比べても遜色ないだろう。すまん長門。もしかしたら見たくもないお笑いビデオを見せられる羽目になるかもしれん。……にしても今のナツホの反応を見るに朝比奈さんの未来人宣言と長門の宇宙人カミングアウトはこいつ主催の壮大ないたずらというわけではないらしい。
……マジなのか? 二人の話が真実だってのか? 確認するのに手っ取り早い人間がもう一人いることを俺は知っている。朝比奈さんの話にも長門の話にも浮上した名前、そうSOS団5人目のアイツだ。
放課後、期末試験前で他の部活動が休止する中、俺の足は帰巣本能に従う鳩のように部室に向かっていた。ナツホのやつは用事があるから今日は休むと俺に言い残し、授業が終わると同時に帰宅している。アイツから話を聞くには絶好のタイミングだぜ。
もはや、SOS団の部室と化した文芸部室の扉を開くとそこにはすでにナツホを除く見慣れた面子が揃っていた。朝比奈さんは見目麗しいメイド姿だし、長門は窓際で本を読み、ソイツはトランプを切っていた。
「今日は大富豪でもしますか? 最近ボードゲームばかりでしたし、たまにはカードゲームも良いかと思いましてね」
二人でやる大富豪が面白いとは思えんな。
「そうでしょうか? 相手の持ち札が分かった上での勝負というのも一興ですよ?」
悪いが今日はトランプをやりたい気分じゃないな。
「そうそう朝比奈さん、長門。今日はナツホのやつは用事があって家に帰るそうです。試験期間中ですし今日のところは解散しましょう。どうせあいつには試験期間など関係ありません。明日以降勉強する時間奪われちまいますよ。それなら鬼の居ぬ間に洗濯ならぬナツホ居ぬ間に勉強でしょう」
「そ、そうですね」と素直に帰宅準備を始める朝比奈さん。長門もばたんと本を閉じる。
「おや、みなさんお帰りになりますか。それなら僕もおいとますることにしましょう。恥ずかしながら、前回の中間テストの成績が悪くて両親から苦言を呈されていましてね」
こいつ前回のテスト上位一桁に入ってたじゃないか。それは俺に対する嫌味か。古泉の自覚なき発言に少々苛立ちつつもオレは声をかける。
「古泉、悪いが少し俺に付き合ってもらうぞ」
古泉は驚いたように普段は笑みで糸状にしているまぶたを大きく開ける。
「これは珍しいですね。あなたからお誘いとは……。それは一対一をご所望というわけですか?」
「……まあ、そういうことだ」
「わかりました。それでは朝比奈さん、長門さん。僕らはこれで失礼させていただきます。戸締りよろしくお願いします」
俺と古泉のやり取りを見てどこか不安げな様子の自称未来人朝比奈さんと相も変わらず無表情な対有機なんちゃらインターフェイス長門を置いて俺は古泉とともに部室を後にした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます