第14話

 まったく、ドッキリなら今すぐ出てきてほしいぜ。実はその襖の向こうでナツホも古泉も朝比奈さんも隠れてオレを笑っているんだろう? 怒らないし、下手な芸人のようなリアクションも見せてやるからさ。


 だが、だれも出てくることはなかった。長門単独のいたずらか。あるいは本当に……。……いかんいかん。こんな電波な内容を信じるなんざ無理な話だぜ。


「オレとナツホがコピー元のないオリジナルな存在か。これまでの話のくだり全部ナツホに直接言ってやると良い。喜ぶと思うぜ。お前が言いにくいってんならオレから言ってやってもいい」

「……あなたや私がこの情報を鈴宮ナツホに伝達しても彼女がそれを重視することはない」


 確かにそうかもしれない。


「気を付けて」

「突然なんだ」

「情報統合思念体が配置したインターフェイスは私だけではなかった。我々も一枚岩ではない。私と異なる思考を持った元インターフェイスも存在する。彼らは涼宮ハルヒを失ったこの宇宙を変革すべく鈴宮ナツホの意識に影響を与えたいはず。アクションを起こすかもしれない。そうなれば狙われるのはまずあなた」


 おいおい。なんで涼宮ハルヒとかいうやつを失ったからってナツホに影響を与えるんだよ。まるでわからない。さらには俺も狙われるだって? ますますわからんぞ。


「……あなたたちはコピーではない。しかし、鈴宮ナツホは涼宮ハルヒに、あなたはこの世界にコピーされなかったあなたに近い人間と酷似している。この可能性が失われた世界で一縷の望みがあるとするならば、鈴宮ナツホとあなたを置いて他にはいない」

「お前が言った涼宮ハルヒの代替人物ってのがナツホだってことか?」

「そう」


 んなあほな。付き合いきれん。

 俺はそろそろおいとまさせてもらうことにした。お茶ごちそうさん。

 長門は止めなかった。

 視線を湯飲みに落としたまま、いつもの無表情に戻っている。ちょっとばかし寂しげに見えたのは俺の錯覚だろう。



 家に帰り着いた俺は母親のどこに行っていたのかという問いに適当に答えると、自室のベッドで横になった。


 なんなんだ本当に。朝比奈さんも長門もなぜ突然電波なことを話すようになっちまったんだ。……いたずらにしては手が込み過ぎている。ほんとに未来人と宇宙人だってのか? だとしたら、本当に涼宮ハルヒなる化物人間がこの世界からいなくなり、代わりに置かれたのがナツホだってのか? あの二人は涼宮ハルヒなる人物が持っていた力をナツホが受け継いでいるに違いないと考えているのか? ……わからん。俺には何がどうなってるのかさっぱりわからん。長門は言った。狙われるのは俺だと。勘弁してくれ。一体なぜに俺が狙われる。人に恨まれるようなことをした覚えはないんだがな。


 考えても考えてもオレが狙われる理由がわからん。気付けばもう時計の針は0時を回ろうとしていた。明日も学校だからな。すべて忘れて寝かせてもらうことにしよう。俺は自室のライトを消灯し、眠りにつくのだった。

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