第10話

 結局、オレは最寄りのコンビニでアイスクリームを奢らされ、団員全員が食べ終わったところでその日の不思議探索は終了となった。


「それじゃみんな、また月曜日部室で会いましょ! 今日の反省会をやるからね。みんなそれまでに反省点を洗い出しておくのよ!」と言ってナツホは帰って行った。さて、反省点も何もオレは朝比奈さんと川沿いを散歩して、長門と図書館で時間を潰していただけだ。朝比奈さんからのまさかの未来人カミングアウトはあったが、真偽がわからない以上まだナツホに言うわけにもいくまい。まあ、オレが突然、実は朝比奈さんは未来人なんだぞと言ってもナツホが信じるとは思えん。それに朝比奈さんの可憐なジョークという線もまだありうる。


 とにかく、ナツホの望む反省点など出せるはずもなく、月曜日の部室でナツホがオレに怒鳴って来たなんてことは言うまでもないことだろう。


 さて、そんな月曜日を越え、再び次の月曜日を迎えたオレだが、放課後になると自然と足は文芸部室の方に向かっていた。別にあの部室でやりたいことがあるわけでもないのに毎日律儀に訪れてしまうのはなぜなんだろうね。


 部室の扉を開けると、そこにはいつものように窓際の椅子に腰かけて読書する長門の姿があった。他には誰もいない。オレが二番目の到着のようだ。というか、こいつは放課後オレが到着する時にはいつもこの定位置にいる気がする。ちゃんと授業に出ているんだろうな? 常識から外れているのはナツホだけで十分なんだぜ?


「出てる」


 オレの質問に長門は相変わらず端的に答える。もう少しコミュニケーションをとってくれてもいいんじゃないかね。そう言えば、先日図書室で借りた本はちゃんと返したんだろうな?


「返した」


 そうかい。ちゃんと返しているならいいさ。SOS団団員達は揃いも揃ってユニークだからな。破天荒少女に、無口少女に、ほんわか少女。おまけにニヤケスマイル野郎もいる。だが、常識がないのは破天荒少女だけにしてくれ。破天荒少女がだれかって? そんなことオレの口から言わせないでくれよな。


 不意にバンと部室の扉を開ける音がした。


「あら? アンタ達二人だけ?」と破天荒少女、鈴宮ナツホが問いかける。もう少しドアを労わってやることができないのか。


「わたし、今日用事があるからもう帰るわね。他の団員にも伝えておいてちょうだい!」


 そう言うとナツホはまたバンと音を立てて扉を閉めて帰って行った。つまりオレは朝比奈さんと古泉の野郎に今日はナツホが来ないということを伝える役目を負ってしまったのである。面倒なこった。十五分後、古泉は部室を訪れると「バイトがあるので失礼します」とひとこと言って帰り、三十分後朝比奈さんも「今日は用事があるので帰らせてもらいますね」とオレに可愛らしいご尊顔を見せてから帰って下さった。


 さて、ナツホから受けた指令を完了させたオレだが、別に帰ってやることがあるわけでもない。オレはぼーっと部室を見渡す。ちょっと前までは本棚しか置かれていない殺風景なところだったが、ハルヒがいらないものをどこからか多数調達してきたせいで文芸部室は物が溢れるようになっていた。本来の主役である本棚が存在感を失くしてしまっているぜ。オレはふと本棚が気になり一冊を手に取って開く。……とてもじゃないが読む気にはならないな。オレが活字で溢れた本を閉じ、元の位置に戻した時である。いつ移動したのか、オレの隣で長門が一冊の本を持って静かに立っていた。


「どうしたんだ?」

「これ」


 長門はオレに本を差し出す。


「読んで」


 長門の抑揚のない声についオレは本を受け取ってしまう。長門はオレに本を渡すと部室から出ていった。どうやら帰ったらしい。読んでと言われてもこんな分厚い本全く読む気になれないんだが……。しかし、持って帰らないわけにもいくまい。オレはカバンに本を放り込むと、いつもより重いカバンを持ってハイキングコースを自宅に向かって下ったのだった。

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