第9話

「ちょっとジョン! ちゃんと探してたんでしょうね!?」

「ああ、祝川沿いまで探したが、宇宙人はおろか狸もでなかったよ」

「ふん、どうだか!」


 不機嫌な表情のままナツホは北口駅前の三角公園で大声を張り上げる。


「ファミレスでお昼ごはん食べながら午後からどうするかの作戦会議よ!」


 まだやるのかよ。


 ナツホが探している不思議ってのはもちろん、いるかどうかもわからない宇宙人、未来人、超能力者のことである。……いや、朝比奈さんの言葉を信じるなら未来人はいるわけだが……。とにかく、そんな幽霊を見つけるのに等しい荒技に一体どんな作戦を立てるというのか。


 正直そんなことよりもオレは朝比奈さんが自分のことを未来人だと言い出したことで頭がいっぱいだ。朝比奈さんの表情、しぐさを見るにウソを言っているようには思えない。


 ということでナツホが不思議探索の何たるかを演説していたが、オレの耳には全く入ってこず、気付けば不思議探索午後の部が始まっていた。


「いいジョン! 何回も言うけどデートじゃないのよ? サボってたら殺すわよ!?」


 くじ引きの結果、午後の部ではオレと長門チームとそれ以外3名のチームとに分かれることとなった。行動開始とともに、ナツホたち3人は北口駅の南側へと消えていった。


「どうする?」

「…………」

「何か意見を言ってもらえるとありがたいんだがな」

「…………まかせる」


 ひとこと、まかせると言うと長門は一言も発さなくなってしまった。オレもやる気はないが、ここで立ちっぱなしってのも気まずいし、時間の無駄だろう。オレたちは北口駅に隣接された商業施設に入り込む。たしかここの5階には少し小さいが図書館があったはずだ。文芸部の長門と時間を潰すにはもってこいだろう。


 図書館に着くと長門はふらふらと何かに引き寄せられるように分厚そうな本が置かれているエリアに移動していった。オレも暇だからな。適当な科学雑誌を手に取ると、閲覧席に座ってページを捲る。……まったく、どうしてこうも活字ってのは眠気を誘うのかね。毎日部室でSF小説を見ている長門を尊敬するぜ。


 どうやらオレは5ページも読むことなく机に突っ伏して居眠りを始めてしまったらしい。オレを眠りから覚醒させたのはもちろんナツホの呼び出しである。マナーモードにするのを忘れていたスマートフォンが図書館内に鳴り響く。目の覚めたオレは周囲の冷たい視線に謝罪の意味を込めて会釈をし、SNSの無料通話のボタンをタッチしながら図書室外に出る。


「ちょっと、どこにいんのよ!? もうとっくに集合時間を過ぎてんのよ!?」

「すまん、寝てた」

「……はぁ!? すぐ帰って来なさい。このバカ!!」


 言いたいことを言い終わるとナツホは電話を切る。オレはすぐに図書室内の長門を探し出した。しかし、厄介なことに長門のヤツが地面に根を生やしたように動かない。オレが戻るぞと声をかけても知らぬ存ぜぬとばかりに無言で本を読み続けやがる。どうやら最後まで本を読んでからじゃないと動きださないつもりらしい。借りればいいだろうによ。


「……ない」


 何が?


「…………カード」


 カード? 図書館の貸し借りに必要なカードのことか。もう少し、分かりやすく話して欲しいもんだ。オレは長門の代わりにカードを作ってやると、本を借りる手続きも行って駅前の三角公園に戻る。そこにはオレと本を宝物のようにして抱える長門を三者三様の表情で出迎える団員たちの姿があった。苦笑している古泉と心配そうな表情をした朝比奈さん、そして……毘沙門天の様な顔をしたナツホ。


「遅刻! 罰金!」


 ナツホは開口一番オレに向かって叫ぶ。またおごりかよ。

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