第7話

 時は移り、七夕が終わって最初の土曜日。


 俺たちは久しぶりに北口駅前に集合していた。第何回だか忘れたが、鈴宮ナツホ主催の不思議探索ツアーである。もちろん、SOS団全員強制参加せよとのありがたーいお言葉付きだ。迷惑なことこの上ない。お前一人で探しておけよ、ナツホ。



「遅い。罰金」


 9時5分前、開口一番ナツホがオレに命令しやがった。もう何回この画を見ているんだろうか。いい加減みんな俺より後に来てくれよな。俺の貯金箱は水不足のダム並みに干上がっているんだぜ?


「今から喫茶店で会議を開くからそこのコーヒー代奢りなさい!」


 そう言うと、ナツホはズカズカと歩いて行く。


「おい、お前は何時に着いてたんだ?」

「あなたが着く5分前です」とニヤケ面で答える古泉。

「お前ら朝比奈さんとも結託して俺をはめているんじゃあないだろうな?」

「そんなことはしていませんよ」


 どうだかな。


「……よかったじゃないか」

「突然何の話です? 脈絡がわかりませんが」

「お前が望んでいた突拍子もないことをナツホがまたし始めたじゃないか。お前はこういうのが嬉しいんだろ?」

「はは、この前言ったことですか? 残念ながらこれは僕の求める『非現実なこと』ではありませんよ」

「この程度じゃあ、ご不満ってわけか?」

「そういうことです」

「一体ナツホに何を求めているんだ、お前は」

「それはまたいずれ、時が来たらお話しますよ」

「ちょっと、ジョン! 私語厳禁よ! さっさと着いて来なさい!」


 古泉も話していたのに俺にだけ注意するな。


 喫茶店でナツホは今日の探索方法を説明していた。要約すると、くじ引きで2班に分かれて不思議なことを探すらしい。小学生か。


 くじ引きの結果、俺は朝比奈さんと班になることに成功した。よくやった神様。今日ばかりはアンタに足を向けて寝れないな。


「この組み合わせね……」


 ナツホは自分の引いたくじとにらめっこしている。何か不満でもあるのかよ。


「いいジョン。デートじゃないのよ? 遊んでたら殺すわよ!」と言い残すと、ナツホは古泉と長門を連れて駅の東方面へと消えていった。俺は朝比奈さんと二人きりになる。


「どうします?」と聞くと、朝比奈さんは至極真面目な顔をして考え込む。このまま持って帰りたくなる可愛さである。俺も一緒に考えるフリをしてから一時して口を開いた。


「取りあえずぶらぶらしましょうか?」


 朝比奈さんは素直に頷いてついてきた。俺たちは北口駅から電車で西へ1駅行くと駅近くの川沿いを歩くことにした。桜が有名な川沿いだが、あいにく今は夏だ。桜の木にはもちろん花はなく青い葉が生い茂っている。別に花が咲いてなくても構わないさ。今俺の隣には桜の百倍綺麗な朝比奈さんが並んで歩いてくれているんだからな。


「なんだか緊張します」

「何にです?」

「こうして男性と二人で歩くことにです」

「それは意外ですね。朝比奈さんなら男に連れ出されることなんてざらにありそうなもんですけど。よく誘われるんじゃないですか?」

「ええ。でも、断っていたんです」

「それまたどうして」

「私には役目があったから……。……ジョンくん、お話があります」


 朝比奈さんは栗色の長髪を靡かせながら俺に視線を向ける。つぶらな瞳には決意が露わに浮かんでいた。



 俺たちは川沿いのベンチに二人で横に並んで座った。


「私、口下手だから美味く話せないと思うけど……」と朝比奈さんは口走りながら足をもじもじさせると、一時して話し始めた。


「私はこの時間平面とは違う時間平面から来ました。早い話が未来から来た未来人なの……」

「はい?」

「突然こんなことを言われても困惑させるだけかもしれないけど、理解して欲しいの」

「あ、あの……」

「いつどの時間平面から来たかは言えません。禁則事項でしたから……。それに今の私は未来の記憶がどんどんと薄まっているの。だからあなたに早く伝えたかった。きっと良くないことが起きるから……。もし、それを防ぐことができるものがあるとしたら……、それは鈴宮さんとジョンくんだとと思うの」


 な、なんと朝比奈さんのかわいい小さな口から永遠と電波なことが流れ始めた。時間平面? 禁則事項? なにやらわからん単語が流れていたが、一つだけ理解できた。


「み、未来人? 朝比奈さんが?」

「はい、信じてもらえないかもしれませんが……。もっとも未来人だったというのが正確かもしれません。今の私は未来に帰ることができなくなってしまったから。……今から3年前、大きな時間振動が検出されたの。調べると、それ以前の過去には飛べない状態になっていた。大きな時間断層があるからだろうというのが私たちの出した結論。でも最近、ああ、これは私のいた未来での最近ということなんだけど調査の結果、時間振動は一人の女子を中心として発生したようだということがわかったの。私はその女の子を監視するために送られた」

「時間振動とやらはよくわかりませんが、時空をぶっ壊すようなとんでもない力を持った女子がいるってことですか?」


 朝比奈さんはコクリと頷く。


「そのとんでもない女の子ってだれなんです?」

「……涼宮ハルヒ。ジョンくんは知っていますか?」

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