第4話
風呂からあがるとオレ達はナツホとの約束通り、お食事処に集まっていた。ようはフードコートだな。そこでオレは光陽園駅集合に遅れた罰としてアイスクリームを奢らされた。遅刻なんてしてないんだがな。一番最後に到着したというだけで罰金を払わされるなんてブラック企業の社長も真っ青になるブラックさだろうよ。それで次は何をするんだ?
「ばっかねー、ジョン! 温泉に来たらやることは一つでしょうよ」
さっぱりわからん。
「卓球よ、卓球。温泉と言えば卓球なの! ちょうどここにはゲームコーナーに卓球台があるそうだしね。ジョン、ちょっと受付に行って卓球台をレンタルしてきなさい!」
どうやら、オレのことはちょうどいい小間使いくらいにしかナツホは思っていないらしい。まったく傍若無人という言葉がこれほど似合う人間は古今東西探してもナツホくらいのもんだろうぜ。
そこからはSOS団対抗臨時卓球大会の始まりである。例に漏れず、リーグ戦を行ってドべになった奴が団員全員にアイスクリームかジュースを奢らなければならないそうだ。いい加減にしてくれ。俺の財布からいくらふんだくるつもりだ。5回り程行って、ドべになったのは古泉1回、俺1回、朝比奈さん3回であった。なぜナツホと長門はそんなに強いんだ。特に長門は無表情のまま、最低限度の動きでラケットを振っていた。ちょっと恐怖を覚えるくらい無機質な動きである。お前はロボットか何かなのか? 一回り終わる毎にその都度アイスかジュースを奢るという形だったのだが、朝比奈さんに払わせるわけにもいくまい。
「ちょっとジョン、みくるちゃんに払わせるつもり? それでも男なの!?」とナツホがのたまっていたしな。朝比奈さんがドべになった分も俺が払う羽目になっちまった。いえ朝比奈さん、あなたの代わりに俺が払うのはやぶさかではありませんよ? むしろ、男として払うべきですとも。ただ、都合の良い時だけレディファーストの精神を持ちだしてくるナツホに憤りを感じているだけです。
「楽しかったわね! そうでしょ、ジョン!」
俺たちは卓球大会を終えた後、もうひと風呂浴びてから帰る準備をしていた。まあ、朝比奈さんと長門の浴衣姿も見れたし、トータルでは楽しかったと言えなくもない。
「それじゃあ、帰るわよ! しゅっぱーつ!」
楽に言ってくれるぜ。自転車をこぐ俺と古泉の身にもなってほしいもんだ。というか、なぜ帰りも俺が3人乗りで古泉が二人乗りなんだ。
「遅刻してきたアンタが悪いのよ。これも罰のうちよ」
なら、せめて後ろを朝比奈さんにしてくれ。それだけで俺の脚はブーストをかけられる。
「何言ってるのよ、バーカ! ダメに決まってるでしょ!」
なぜダメに決まってるのか。俺にその理由を告げぬままナツホは早くスタートしろと俺の背中を小突く。やれやれ、折角温泉に入ったというのに家に帰る頃には汗だくになっていそうだ。俺達は帰りも自転車走行不可のトンネルを強引に通行し、ドライバーの方々から白い視線を送られながら走る。行きより帰りの方が下り道が多いからまだ楽だったな。日も落ちかけていたし、下り道で受ける風は気持ちがよかった。
光陽園駅に到着すると、開口一番ナツホが言った。
「今日はこれで解散! また、月曜日部室で会いましょ!」
団長様も少しは満足したのかね。実にいい笑顔でナツホは長門と朝比奈さんを引き連れて駅のホームへと消えていった。まったく、クラスでもその5分の1でいいから笑顔を振りまいてくれればクラスメイトと良好な関係を築けるだろうに。
「それでは我々も帰るとしますか」
古泉のニヤケスマイルに俺も頷く。家に帰った俺は自転車をこいでいて汗だくだった体を洗うため、すぐに風呂に入る。まったく何のために温泉にいったのかわかりゃしないぜ。脚に疲労が溜まっている。こりゃ明日は筋肉痛だな。
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