第12話 消失した二人
「繋がらない……?」
ミシェルは指でインカムを
「アサヒ……!」
追いかけようとした背中は既に夜の闇の中に消え、気配が遠ざかっていくのが感じられた。
そこでミシェルは異変の正体に気づいた。
「どうりで静か過ぎると思ったけれど……」
誰かが呼んでいるという浅陽の言葉で耳を澄ませてみた時に既に違和感はあった。聞こえてくる筈の音、例えば街の喧騒等が一切聞こえなかった。
特殊な結界の中に引き込まれたのだとミシェルは理解した。その証拠に、
「赤い……月?」
この日は三日月だったとミシェルは記憶している。だが闇夜に浮かぶのは真円を描き赤い光を放つ月だった。
「禍々しい光」
見ているだけで胸がざわつくようだった。
「───ッ!」
おぞましさは足下からも襲ってくる。増え続ける〝
「思わぬ所で出遭えたわね。いえ、はじめから〝
留まる事を知らないかのように増殖を続ける〝
「それなら、【
ミシェルが右手を高々と掲げる。するとその遥か上空に星が瞬き始めた。
否、それは星の光ではない。
それらは空いっぱいに無造作に配置された、月の明かりを反射した無数の氷の刃。
「敵を斬り裂け! 『
ミシェルが右腕を振り下ろすと、夜空一面の氷の刃が地上に降り注いだ。
一方で、
その入り口である階段の近くには
「あそこですか」
『周辺地域の包囲、交通規制完了してます』
「にしてもあいつらは一体どうしたんだ?」
誠夜達もインカムから聞こえてきた会話で一年生コンビが姿をくらましたことを把握していた。
『依然として反応を辿ることができません』
インカムから奏観の声がそう伝えた。
「足留めされていると考えるべきでしょうね」
「単なる偶然か。もしくは作戦が漏れてたのか」
「偶然としてしまうには出来過ぎなタイミングです。それに作戦が漏れたというのも考えられませんね」
「本当にそうか?」
「どういうことです? 私達の中に内通者が…………まさか」
めぐりはある人間の存在に気付いた。
「そう。自らこの作戦への同行を申し出た、明らかな部外者はいるじゃないか」
『俺があいつと通じてるってのか?』
インカムから誠夜に反論するような間宮の声が聞こえてきた。
「動機はあるだろ」
『なに?』
「お前はチームを潰したうちの妹を恨み決闘を申し込んだ」
『それは……』
間宮は一瞬言葉に詰まった。
『……引退した身とは言え元は総長はってたんだ。チームを潰されて黙ってるわけにはいかねぇだろ。……だけど結局俺は正面から挑んで負けた。完膚なきまでに。正直言えば悔しいさ。今でも出来るなら俺の手で仇は取りたいとは思う。誰かの手なんか借りず自分の手でな』
インカムの向こうで間宮は熱くまっすぐに語った。
「族のくせに吠えやがる」
『族だから吼えるんだ』
「違いない」
誠夜はかすかに笑った。
『こいつの目は嘘を言っている目ではない』
梨遠が間宮を擁護して言った。
「経験者は語る、ですか?」
めぐりが少し戯けて訊いた。
『ま、そんなところだ』
『ついでに言いますと、私の〝眼〟から視てもとくに疑う要素は見当たりません』
奏観から援護射撃が入る。
「悪かったな、間宮。試すようなマネして」
誠夜は素直に謝った。
『疑われることには慣れてる』
苦笑したような間宮の声が返ってきた。
「それにしてもあの二人がこんなに梃子摺るのも珍しいですね」
『ああ。あいつらを足留めする力と言い、こちらの情報を傍受する力と言い、油断ならない相手のようだ』
「どうしますか?」
誠夜が指示を仰ぐ。
『迂闊に飛び込むわけにもいかん。どうだ七波。中の様子はまだ分からないのか?』
『あらゆる波長も拾えません。巧妙にジャミングされているのか、まるであの店の中だけこの世界から隔絶されているかのようです』
「七波の〝力〟をジャミングだと?」
七波家は、【
その一族の中でも奏観の能力の精度はずば抜けて高く、【異能研】の専用端末を使用することでその能力を更に拡張することも出来る。
そして彼女の能力の中で特筆すべきなのはその〝瞳〟である。〝視〟た対象をスキャニングして戦闘で受けた様々なダメージやバイタルサイン、果ては敵の弱点まで瞬時にして読み取ることが出来る。
先だっての〝
『せめて中継アンテナのようなモノがあれば』
『俺が行く』
間宮は梨遠達が制止するよりも速く車を降りて駆け出した。
つづく
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