【出来事②激臭とはこのことを言い、それ以外は微臭である。】
金銭、いや、米を所持していない俺達はこの目の前に広がる超絶汚い湖まで歩いてきた。途中で困っているおばあさんを助けたり、国の営む田園を見たり、おばあさんに貰った大量の漬物を食べたりして歩いてきた。そう。歩いてきた。3日間もな。
「ソンヌェ?ココヌェオサカヌァツルノ?」
「ソ、ソウラスイヌァ。」
2人の鼻声が植物も育たなくなった激臭湖の湖畔に溶けていく。
「トリアエズツルカ。」
「オ、オウ。」
しかし1時間後、俺たちはこの匂いに慣れていた。いや、正しくは、なっていた。
「なあ來人ぉ。」
「なんだヘンゼルぅ。」
「私疲れたんだけどぉ。」
「はええなあ。分かってないようだが、釣りっていうのはな、待って待って待ち続けるやつの所だけに魚が、見返りが来るんだよ。とは言ってもなあ、ここじゃ釣れねえだろ。」
「だよなぁ…ん!!」
彼女の竿は確かに強く引かれていた。
「かかったか!」
「おう!かかっ…たぁっ…ぎゃぁぁぁあ!!!!」
考えれば分かっただろうがあの引きにこんな体格のヘンゼルが勝てるわけもなく彼女は釣り上げようとしたが釣り落とされたのだった。
ボチョン。
今までありがとう。ヘンゼル。もう二度と近づかないでくれ。
「おい!だいじょぶか!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!くっっせええ!!」
「あれ?」
溺れるヘンゼルの横に何かがいるのが見えた。女の人?子?
「な!なんだお前え!!くっさ!!抱きつくなぁあ!」
「こんなに可愛い子が遊びに来てくれるなんて嬉しいわあ!!」
そこにはドブの中で戯れる2人の幼女の姿があった。
「あのー、お嬢さん?」
「あら!もう一人来てたのね?いいわよ、あなたも入る?私の湖に。」
「私の?」
「ええ。私の加護を受ける湖よ。」
「あなたは?」
「私はウンティーネ!この湖の守護者。妖精よ!」
「ウンディーネじゃなくて?」
「彼女は遠い親戚よ。私はウンティーネ。ウンティって呼んでね!」
「呼ぶか!」
「それ以外は受け付けないわ!」
「なんだそのこだわりは。てかとりあえずそこで溺死しそうな女の子助けてくれない?」
「あら、大変ね!」
ウンティが水から上がるとなんと湖はとても澄んだ綺麗な湖となった。そして明らかに湖を汚していた彼女の体臭もきれいさっぱり無くなっていた。その場で臭いのはヘンゼルだけであった。
「こんなに汚い湖に遊びに来てくれたあなた達、特には飛び込んできてくれたあなた!」
「お前が落としたんだろうが!!」
「お前臭いから喋んないでくんね。」
「うっせえ!!」
「実はお願いがあるんです!」
「お願い?」
「ええ、この湖が汚いのは、ここにある水はもう古いからなんです。」
「でもあなたが出たら綺麗になったじゃないですか。」
「少し複雑な話ですが…」
彼女が言うには湖の水は、今までは1000年周期程で特別な能力を持つ龍によって入れ替えられていたそうだ。なぜ入れ替えるのか、それは上流から流れてきたある物質が溶ける、守護者の体と反応して激臭を放つから、だという。
「そんでその龍が死んだ。か。なるほど。」
「よくわかんねえけどその能力を持つものはもう居ないのか?私の匂い消したりできねえかな。」
「能力は匂い消しではありませんよ。この湖の水を全て飲み干し、綺麗にして吐き出す能力です。その名も【超速飲水】。この能力はランダムで誰かに受け継がれたはずなんですが…」
「えええーー!!!!!」
「おいウンコ!」
「はい!」
「綺麗になったら魚は出てくるのか?」
「ええ!もちろんですとも!」
「腹減った。飯食いてえ。金欲しい。やるだろ?來人さんよぉ。」
「嫌です。」
「もう汚くないんだぞ?」
「生理的に受け付けません。」
「おいウンコ!」
「了解しました!」
「おい!お前ら何をする!腕御抑えるな!顔を水に浸けるなぁーーゴボボボ…ゴクッ」
おえぇぇえええええ
ビッシャーーー
バタっ
「ありがとうございます!!お兄さん!まさかお兄さんが持っていらっしゃったとは!て大丈夫ですか!」
「意識ねえな、こんな魔法でもあんだけの水使えば魔力切れるんだな。」
「もともとは龍の魔法ですしね。魔力回復しますね!」
「俺はたしか湖を飲み干して、そのあと、ゲフッ」
「起きましたね!先程は本当にありがとうございました!恩人にこんな名で呼ばせるのは失礼ですよね!私のことはティナと呼んでください。皆そう呼びます。」
「ああ、了解。俺は來人。よろしく。で?そこの臭いのは治んねえのか?」
「うっせえなあ!!!ぐすん…もう嫌だ…。」
「匂いですか?それは勝手に治りますよ。」
「まじか!」
「はい!3日ほどで!」
「もう嫌だぁーー!!!」
俺たちは3日間釣りをして野宿をした後バンニルに帰ることにした。ちなみに風呂はおばあさんのところで帰りがけに入れてもらった。
「また3日も歩くのかよ。」
「仕方ねえだろー。」
「私はまだこどもだぞー!」
ジタバタしてうるさいお子様に気になったことがあるので聞いてみることにした。
「ちなみにお前いくつなの?」
「6」
「まじ?」
「なんか文句あんのかよ。」
「なんでそんな口悪いんだよ。」
「私さ、親父の酒場で育ったんだ。そこで毎日おっさん達と喋っててさ。言葉覚えんのは早かったんだ。口は悪いけど。」
「へーえ。それでそんなクソガキに。」
「うっせえ。殺されたいのか。」
「はいはいごめんなさい。」
「それにしても長い道のりだなぁ。」
「そうだろうと思い!私が龍のお友達を連れてきました!」聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「ティナ!なんでここに!」
「お兄さんの超速飲水凄かったですよ!浄化しただけでなく魔物が近づきずらくなってたんです!これで私サボり放題ですよー!!報酬の酒代も今まで通り貰えますし!」
まじかこいつ見た目子供かつ妖精なのに酒飲むのかよ。まぁ妖精って言うし歳としては大丈夫なんだろうが。しかも社内ニートって言うんだろこういうの。俺がいえたことでもないけど。
「だから私!恩人であるあなた達のお手伝いがしたいと思ったんです!仲間に入れて貰えませんか!」
見た目は幼女だけど酒飲むってことは大人だよな。幼女と2人で歩くより大人の女性がいた方がいいかもな。
「ティナお前いくつ?」
「歳ですか?ひ・み・つ!ですよ!ヒントならあげます!えーっとー、5と7のあいだです!」
6じゃねえか!!もうそれ答えだし完全にアウトだし酒飲むなし!!
「えー、、難しいなぁ…全然わかんねえ。答え教えてくんね?」
「6でしたー!」
「6か!私と同じじゃねえか!いやーぁうれしいや!來人!こいつ連れてくぞ!」
「もう好きにしろ。てかなんで酒飲んでんのさお前は。」
「人間の法は妖精には関係ないんですよ?」
「そ、そうですか。」
こうして幼女(なかま)が一人増え、俺のこの世界脱出までの旅は改めてスタートした。とりあえず魚釣ったので金が手に入る。いやあ!飯っていいからな!楽しみだ!
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