首振りおばさん
塾の帰りの話なんですけどね。
その日はテスト前ってこともあって、塾友と居残って勉強してたんですよ。そしたら妙に盛り上がっちゃって、気づいたら最後のバスの時間までもう少しだったんです。もう急いで片付けましたね。
駅前の通りを全力でダッシュして、ギリギリなんとか間に合いました。なんか運転手さんがちょっと待っててくれたみたいで、申し訳ないな~なんて思いましたね。
前のドアから入って、向かって右、前から三番目ぐらいの席に座りました。時間も時間なんで、客は僕一人。疲れと安心感から、ついうとうとしてしまって……寝ちゃってたみたいですね。気づいたら僕の前の席におばさんが一人腰かけてました。
で、どうにもそのおばさんも眠かったらしくて、こくりこくりと船を漕いでいたんですよね。前にこっくり後ろにこっくり。僕の位置からはおばさんのパーマ頭だけが見えてたんですけどね。少し無用心だなと思いました。
最寄りのバス停までもう少し。その辺りで、どうもおばさんの動きがおかしくなって来たんですよ。
さっきまで前後に頭を動かしてたんですけどね、急に左右に傾き始めたんです。船を漕ぐって、頭が前後するからそう言うわけじゃないですか。だから眠気で左右に動くのってちょっと違和感があったんです。
でもまあ人間だし、そういうこともあるだろうと思って。
でもやっぱりおかしいんですよ。
だんだんと首の振れ幅が広くなっていったんですよね。それはもうぶんぶんと、バネみたいに左右に揺れてるわけですよ。
流石におかしいと思いましてね、なんかの病気の発作かなと思って、声をかけようとしたんですよ。あのー、大丈夫ですか……って具合にね。
そしたらどうです、おばさんの頭がぐるんって一回転しちゃったんですよ。
ありえないじゃないですか。人間の頭は普通そんな動きしないですから。
しかも骨が折れたような音もしなくて。ほんとに自然に回ったんですよ。右に一回、左に一回。
もう怖くて怖くて仕方がなくて、途中下車も考えたんですけど、もし追いかけて来た時も最寄りのバス停なら走って家まで逃げ切れると思ったんです。だから我慢しました。
五分ぐらいだったと思うんですけどね。本当に怖かったです。
その後は結局なにもなくて、僕は逃げるように下車しました。
降りるときにおばさんの顔を確認しようかとも思ったんですけどね、結局怖くてできませんでしたよ。
それでも、一人でバスを降りて一安心した僕は、通りすぎるバスの姿を見送ってから気づいたんです。
人影が見えなかったって。
僕もおばさんも、正面向かって右側……つまり、歩道側の椅子に座ってたのに。
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