人間?

ブラザーソウル

 高二の夏、俺達は文化祭で活躍してモテるためにバンドの練習に明け暮れていた。

 高校で出会った俺達を結びつけたのはバンドアニメ。出会ってから何があったのか、説明するまでもないので子細は省く。

 部活動ではないが、機材は学校側が貸してくれることになっていた。そのお陰で俺達は練習に集中できている。

 ソウルまで揺さぶる音を奏でるのはドラムのシュウ。

 唯一の音楽経験者、ギターのタカキ。

 いぶし銀なベースのヨシオ。

 そして俺はボーカルのマサキだ。

 バンド名はソウルブラザー。略してソルブラ。俺達四人はまさに魂の兄弟だった。

 練習は順調だ。目的意識のしっかりしていた俺達はメキメキと腕を上げ、教師陣すら唸らせるサウンドを奏でていた。だが、そんな中でトラブル発生する。

 放課後い。つものように音楽室へ駆け込むと、面倒を見てくれている永山先生にこんなことを言われた。

「あー、スマン。他のバンド連中がギターを壊したから、しばらく練習できない」

「なんだって!?」

 俺達の叫び声が音楽室に響く。ギター抜きで練習はできない。俺達を纏めているのは音楽経験者のタカキだからだ。それに文化祭までは一ヶ月を切っている。仕上げの大切な時期なのに。

 絶望的な状況の中、タカキは言った。

「……ギターがあればいいんですよね」

「なんだ、持ってるのか?」

「はい。一応……」

 翌日、タカキは宣言通りにギターを持ってきた。

 少しばかり古いものだ。バイオレットのギターをまじまじと眺めながらシュウは言う。

「すげえなこれ。お前の?」

「や、兄貴のを借りてきた」

 タカキに兄がいるというのは初耳だったが、とにかくこれで練習ができる。俺達は毎日遅くまで練習に励んだ。

 全てが順調に進んでいる。俺達はそう思っていた。だが――

 文化祭の一週間前、ちょうどその日に悲劇が起きた。

 練習を終え、ミーティングがてら寄ったカラオケボックス。その手前の横断歩道で、タカキが急に立ち止まった。

「おいてくぞー」

 ヨシオの言葉を無視し、タカキは白線の上で突っ立っている。

「お、おい、兄貴、どうして――」

 その時だ。

 タカキの体を、突っ込んできたタクシーが吹っ飛ばした。

 居眠り運転だ。

 一命はとりとめたものの、タカキは意識不明の重体。とてもギターが弾けるような状態ではない。翌日の放課後、俺達は辛気臭い顔を突き合わせていた。

 タカキ抜きでバンドはできない。それはもう音楽経験の問題じゃない。一人でも欠けたら、俺達で音楽をやる意味がないのだ。

「今ならキャンセルもギリギリ間に合うだろ。だったら……」

 シュウが言いかけたその時、音楽室の扉が勢いよく開かれた。

 現れたのは、バイオレットの古いギターを抱えた男だ。

「諦めるな!」

 一瞬、タカキと見紛えた。

「タカキ!? ……じゃない。誰だよ」

「俺はタカキの兄、ヒロアキだ。あいつの無念、俺が晴らしてやる」

 ヒロアキを加え、俺達は再び情熱を取り戻す。残りの五日間、タカキのためにも一生懸命に練習した。

 文化祭当日。フィナーレを飾った俺達は、見事な演奏で観客を魅了し、アンコールをせがまれるほどのパフォーマンスを披露した。

 その甲斐あってか何人もの女子に声をかけられたが、俺達は後夜祭をサボってまで学校を飛び出すこととなる。

 タカキが目を覚ましたからだ。

 病室に飛び込んだ俺達三人に、タカキは開口一番こう言った。

「ソルブラはどうなった!?」

 俺は胸を張って言う。

「上手くいったぜ。お前の兄貴のお陰でな」

 タカキは首を傾げようとして失敗した。ギプスでしっかり固定されているからだ。

「どういう意味だ?」

「ヒロアキさんが助っ人に来てくれたんだよ」

 ヨシキが説明を引き継ぐ。しかしタカキは怪訝な顔でこう言った。

「んなわけないだろ。兄貴はもう死んでるんだぜ」

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