誇張の夢

 このところ夜遅くまで起きているので、授業中に何度も寝落ちしている。

 それもこれも、ゲームが面白いのが悪い。特に、今進めているのは現実が少しずつ壊れていくタイプのノベルゲームだ。アニメ化もした名作で、本当は十八禁なのだが……中古屋であっさり買えたのでよしとしよう。

 ただ、授業中に寝ているからか妙な夢を見るようになった。

 たとえば、消しゴムが階段から落ちていく夢。それだけなら普通だが、先生に叩き起こされた時に机から消しゴムを落としてしまった。

 他にもいろいろある。

 通学カバンが爆発した夢を見た日にカバンの底が抜けてしまうとか。

 車に轢かれて複雑骨折した夢を見た日に転んで膝を擦りむいたりだとか。

 竜巻が来る夢を見た日ににわか雨が降ったりだとか。

 言うならば、誇張された正夢だろうか。これから現実に起きることが、より激しい形で表現される。居眠り中に夢を見るたび、そんな事が起きていた。

 夢は毎回見るわけではない。すぐに起こされる場合もあるし、単純にレム睡眠のタイミングが合わない事もある。

 しかし、夢を見た時には必ず似たような出来事が起きるのだ。

 そんなわけで、今日も眠気と戦う。数学の授業は知らない記号が舞い踊り、理解が遠のいて意識も薄れていく。

 因数分解はまだいい。問題はベクトルだ。それも複数の。前の単元の応用とかも出てきた日にはさっぱりわからない。その時も寝てたわけだし。



 宇宙人が街を破壊していた。

 二足歩行で変な形をしているので、本当は宇宙人ではないのかもしれない。とにかく、UFOから現れたバケモノが街中に蔓延っているのだ。

 クラスメイトは半分近く殺されたらしい。

 どうやって殺されたのかはわからない。ただ、死んだという事だけは知っている。 今は学級委員長と体育の先生が偵察に出ている。なぜこの組み合わせなのかはわからない。

 なんとなく危ない気がした。たとえば、背後から宇宙人が攻めてくるだとか。

「宇宙人が来たぞ!!」

 山崎の声。こいつは確か……幼稚園で一緒だったデブだったか。今どんな姿をしているかはわからないが、とにかくこれは山崎の声だ。

 彼の言う通り、教室の後ろから宇宙人が攻めてきた。

 気がつけば俺は一人きりになっていて、大量の宇宙人に取り囲まれている。

 待て、おかしいだろ。

 どうしてこんな都合の悪い事ばかり起こるんだ。 

 似たような出来事に心当たりがあった。夢だ。夢の中では、こうなったら嫌だなと思った事ばかり起きる。自転車のブレーキは効かなくなるし、橋は必ず踏み外す。

 だからこれも夢なのだ。



 目を覚ますと、先生が板書を消しているところだった。

 授業はあまり進んでいないようで、見覚えのある図形が今ちょうど姿を消した。

 なんとなく残った板書をノートに写し、ふと思う。

 あの夢は、何を暗示していたのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る