ストーカー

 部屋の前にア○シマの三式○龍が落ちていた。


 大学の帰り、アパートの廊下に佇むプラモのデカい箱。自演ではない。

 特オタとモデラーを兼ねていた私は、すぐにSNSにアップした。無論、ひょうきんな投稿でバズを狙うためだ。

 私の狙い通り、この投稿は伸びに伸びた。こんなに共有されたのは産まれて初めてだ。フォロワーも増えて大満足。○龍を落としてくれた人に感謝。

 投稿が伸びると、コメント欄には自演を疑う心無い声も増えてきた。とはいえ私も似たような投稿を疑ったことがないわけではないので、無視。しかしそんな連中を窘めてくれた人が居た。相互フォローの『ばばみっち』さんだ。曰く、「ホモドーンさんのこと信じますよ」と。あまり絡んだことはなかったが、いい人だ。因みにホモドーンは私のハンドルネームである。


 それから、ばばみっちさんとの絡みは徐々に増えていった。

 どうも彼女は私と同じ特撮好きなモデラー女子らしく、すぐに意気投合した。世代が一つ上らしく、たまに噛み合わないこともあったが……概ね良好な関係を築けていたと思う。

 そんな折、彼女が仕事の都合で近所に来ることになった。

 水曜日から三日間の出張。その後が直帰らしく、土日は自由に使えるようだ。つまり、その余暇を用いてオフ会ができる。

 直接会って話してみたいと思っていたので、私も賛成した。集合場所はラブホテル。いわゆるラブホ女子会というやつだ。ばばみっちさんが全額持ってくれるらしい。得した。

 後はその日を待つだけだ。


 水曜日の朝、彼女が一枚の写真を投稿した。最寄り駅前の風景だ。どうやら無事に着いたらしい。

 と、そこに写り込んでいた飲食店が目に入る。高校生の頃に通っていたレストランだ。気が向いたので、明日食べに行こう。


 そして翌日。ランチメニューのナポリタンを食べにレストランへ向かう。

 しかし思わぬ事件が発生した。店舗が改装中だったのだ。

 仕方がないので向かいのキラキラしたカフェで小腹を満たす。ばばみっちさんのマイページを確認し、ふと思い立って昨日の投稿を確認。レストランは普通に営業しているように見える。しかし先程見た感じでは、昨日の今日で改装が始まったようには思えなかった。

 つまりこの写真は、改装が始まるよりも前に撮影されたということだ。

 なぜ?


 訊ねる勇気が出ないまま、土曜日がやってきた。

 足取りが重い。約束のラブホテルに着くと、怪しい男が入口付近を往復していた。

 繋がった。

 あの男は俗に言うネカマ。ばばみっちなる社会人女性は最初から存在しない。あの怪しい男が私に近づくための隠れ蓑だったのだ。

 危うく酷い目に遭うところだった。これだからネットは怖い。急いで家に帰る。ばばみっちはブロックした。

 今回の出来事で私が得るべき教訓は、ネットで知り合った人間と安易に会ってはいけないということだろう。顔も見えない相手を簡単に信用してはいけない。当たり前のことではあるが、こうして実際に体験するとそれを実感する。

 とにかく、何も起きなくて良かった。


 その晩、ネットサーフィンをしているとチャイムが鳴った。

 どうやら宅配便らしい。こんな時間にご苦労なことだ。

 それにしても……発送通知は来ていなかったはずだが、はて。

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