第30話 さようなら虎之助

黒瀬くろせ若林わかばやしは、仕事をえて居酒屋いざかやに来ていた。

【今日の夕食はダイエットのための、野菜中心やさいちゅうしんのおなべでーす】

「グッピーちゃんのSNSって、こんなんばっかしですけど、鬼武者おにむしゃへの指示しじはどうしたんでしょうね」

 スマホで、グッピーちゃんのSNSを見ながら若林は言った。

「さあな。最近さいきん、アメリカ村に国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかいやつらが、うろついているらしく、DSPの連中れんちゅうめてるみたいだ」

本来ほんらいなら僕たちが、やっつけないといけないでしょうけど」

一度行いちどいってみるか?」

「そうですね。ひさしぶりに虎之助とらのすけさんとも会いたいし」

「よし、明日は土曜日で仕事は休みだ。二人で行ってみよう」



 翌日よくじつ、黒瀬と若林は『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』のエージェント退治たいじにアメリカ村までやって来た。

「黒瀬さん、さっそくましたよ」

 いつものように、アメリカ村の公園にライアン達が、たむろしている。

「あんな目立めだつ所にいやがって。ぶっ殺してやろう」

 黒瀬は、やる気満々である。

「お前ら、『国際電器保安協会』のエージェントだな」

「それがどうかしたのか」

 アンドロポプは、ウザそうに答える。

「なら死んでもらう」

バキッ!

 黒瀬の右ストレートがアンドロポプの、みぞおちにクリーンヒットした。

「げフッ。やるな貴様きさま

ズボッ!!

 今度は、アンドロポプのアッパーカットが、黒瀬の腹部ふくぶにめりむ。

「この野郎やろう!」

 はげしい殴り合いが始まった。

「このデカぶつは、黒瀬さんにまかせて、後は俺が始末しまつしてやる」

 若林は牛鬼ぎゅうきに変身すると、右腕みぎうでとがった金属に変化してライアンとマーゴットにおそいかかった。

ガシッ。

 誰かが牛鬼ぎゅうき右腕みぎうでつかむ。アキレスである。

「ほう、鬼でも骨のあるやつがいるんだな」

 右腕みぎうでつかまれた牛鬼ぎゅうきは、いている左腕ひだりうででアキレスの背中せなかつらぬこうとする、が、鋭利えいりな金属である牛鬼ぎゅうき左爪ひだりづめひじかれた。

貴様きさま何者なにのもだ!」

 おどろいた若林は、思わず聞いた。

「俺はアキレス、どんな攻撃こうげきも俺にはかない。今度はこっちの番だ」

ボキッ!

 アキレスはつかんでいた牛鬼ぎゅうき右腕みぎうでを、へしった。

「クッ!」

ーーコイツは、とんでもなく強いーー

 黒瀬に加勢かせいたのもうと思い、若林は黒瀬の方を、チラッと見た。

 まだなぐり合いをしている。どうやらアンドロポプとは互角ごかくのようで、加勢かせいするよう余裕よゆうは無さそうである。

ーー1人で戦うしかないかーー

 れた右腕みぎうで修復しゅうふくしながら、牛鬼ぎゅうきはアキレスに向かって行く。



「早く来いよ」

「狂四郎は、せっかちでござるな。そんな事では女の子にきらわれるでござるよ」

「そうや、おれも、もう少し地獄じごくでゆっくりしたかったんや」

 虎之助とらのすけと小太郎は狂四郎に、せかされて地獄じごくからアメリカ村にもどって来た。

「何や、あのアキレスって言うやつ、鬼と戦ってるやないか」

「ホントでござる。よく見たら黒瀬と若林でござるな」



「おい、アキレス!リベンジしに来たぞ、ぶっ殺してやるから覚悟かくごしろ!」

 狂四郎は自信じしんありげに、アキレスに向かって怒鳴どなった。

「何だ、このまえ地獄じごくに逃げ出した、悪魔あくまどもじゃあないか」

地獄じごくから、お前を殺すためよみがえったでござる〜」

 おけの真似まねをして虎之助とらのすけは、アキレスをおどした。

「何やってんだ、違うだろ!俺達は化物ばけものじゃねえ、正義せいぎ味方みかたDSPだ」

「どっちでも良いよ。まとめてかかって来いよ」

 アキレス余裕よゆうである。

虎之助とらのすけさん、今度こんど一緒いっしょにイタリヤ料理を食べに行きませんか?」

 若林は戦闘せんとうめて、虎之助とらのすけ口説くどき出した。

「おい、お前。気安きやすく姉さんに声をけるなや」

 何故なぜか若林は、小太郎におこられた。

「何だと。お前に関係かんけいないだろ!」

関係かんけいおおりじゃ、クソボケ!」

「この野郎やろう!」

 小太郎と若林が戦い出した。

拙者せっしゃは、タコ焼きが食べたいでござる」

 虎之助とらのすけはライアンにタコ焼きを、ねだりに行った。

「うわっ!またお前か。仕方しかたない、買って来てやるから待ってろ」

 ライアンは、しぶしぶタコ焼きを買いに行く。

「あんた、仲間なかま加勢かせいしなくて良いの?」

 マーゴットがあきれながら聞いて来た。

拙者せっしゃはタコ焼きが食べたいでござる。おぬしこそ仲間なかまを助けに行かないのでござるか?」

「アンドロポプの事は良く分からないけど。アキレスは無敵むてきらしいから、助けはいらないんじゃない」

「そうでござるか。拙者せっしゃも狂四郎はアホだから、助けはいらないと思うでござる」

「いや、アホでも助けはいるでしょう」

「そうなのでござるか?」

「そうなのよ」

 話しているうちにライアンが帰って来た。

「ほら、タコ焼き買って来てやったぞ」

「ありがとうでござる」

 タコ焼きを食べながら、虎之助とらのすけは狂四郎と小太郎の戦いぶりを見学けんがくし始めた。



「俺の神気しんきらえや」

 小太郎の神気しんき牛鬼ぎゅうき直撃ちょくげきする。

「グフッ!やるな小僧こぞう

 牛鬼ぎゅうき鋼鉄こうてつ両腕りょううで反撃はんげきするが、小太郎は上手うまかたなでさばいている。

 なんとか小太郎は、牛鬼ぎゅうき互角ごかくに戦っているが、狂四郎はアキレスの闘気とうきをまともに受けて、虎之助とらのすけ足元あしもとまでばされて来た。

「もっと頑張がんばらないと駄目だめでござるよ」

 自分の足元あしもとにいる狂四郎を、虎之助とらのすけ見下みくだしている。

「タコ焼きなんか食べてないで、加勢かせいしてくれよ。アイツには、こっちの攻撃こうげき全然ぜんぜんかねえんだ」

 すべての攻撃こうげき通用つうようしないアキレス相手に、狂四郎は弱気よわきになっている。

「はいはい、何とかするでござる。モグモグ」

「何とかするって言いながら、タコ焼きを食うんじゃねぇ!」

「食べてから、なんとかするでござる」

「今すぐじゃないと、アキレスってやつに殺されるぞ」

「そいつの言う通りだ。貴様きさまら2人とも死んでもらう」

 すぐそばまで、アキレスが近付ちかずいて来て、すさまじい戦闘闘気せんとうとうきはなった。

唐沢家からさわけ忍術にんじゅつ『バリア』」

 虎之助とらのすけは負けずに、バリアをる。

パリーン!

 しかし、バリアは、あっけなくくだり、虎之助とらのすけと狂四郎はフッ飛ばされた。

「痛いでござる」

 なんとか立ち上がった虎之助とらのすけは、師匠ししように教えをうた。

「お師匠ししよう様、アキレスのたおし方を教えてしいでござる」

 すると空にスラッとの高いイケメンの男があらわれた。

「出たっ。姉さんの師匠ししようや!」

 牛鬼ぎゅうきと戦っている最中さいちゅうの小太郎がさけんだ。

「あれが虎之助とらのすけさんの師匠ししようなのか?」

 牛鬼ぎゅうき興味きょうみがあるようで、戦いを中断ちゅうだんして見ている。

「あれは偽物にせものや、姉さんの本当の師匠ししよう小太こぶとりでえないオッサンや」

「じゃあ、あれはいったい誰だ?」

なぞのイケメン師匠ししようや」


虎之助とらのすけよ、召喚術しょうかんじゅつを使うのです」

 イケメン師匠ししようは、的確てきかくなアドバイスをおこなった。

「誰を召喚しょうかんすれば良いでござるか?」

「それは自分で考えるのです」

全然ぜんぜんわからないので、ヒントがしいでござる」

「ヒントは火星マーズです」

めしマズでござるか?」

ちがいます。マーズとは火星かせいの事です」

「わかったでござる。お師匠ししよう様ありがとうでござる」

 虎之助とらのすけが手を合わすと、イケメン師匠ししようはスッと消えた。

唐沢家からさわけ忍術にんじゅつ魔王召喚まおうしょうかん』」

 虎之助とらのすけじゅつとなえると、大量のけむりが地面からき出して、中から中年のえないサラリーマン風の男が出て来た。

「ワスを呼び出したのは誰でヤンスか?」

 何と太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう助清すけきよであった。

拙者せっしゃでござる」

「君はタピオカミルクティーは、好きでヤンスか?」

「好きでござるが、やっつけてしいやつがいるでござる」

「君の持っているタコ焼きをくれたら、やっつけてあげるでヤンス」

いやでござる。このタコ焼きは拙者せっしゃが一人で食べるでござる」

馬鹿ばか、タコ焼きぐらいわたせよ」

 2人のやり取りを見て、あせった狂四郎が虎之助とらのすけに言った。

「おぬしような、人間国宝級にんげんこくほうきゅうのバカに、馬鹿ばかばわりされる筋合すじあいは無いでござる!」

 虎之助とらのすけれた。

「うわっ!俺にれてる場合ばあいじゃないだろう」

「とりあえず、おぬしからころすでござる!」

「やめろ馬鹿ばか。敵はあっちだ」

 狂四郎は、あとさずりしながら説得せっとくしようとするが

「また、馬鹿ばかと言ったでござるな!」

 と、余計よけいに怒らせてしまった。

「こうなったら仕方しかたない。新田家にったけ仙道せんどう浮遊術ふゆうじゅつ』」

 『浮遊術ふゆうじゅつ』で、狂四郎の身体からだが10メートルほどいた。

「かかって来いや!このチビ助」

 上空にくと気が大きくなり、虎之助とらのすけ挑発ちょうはつする狂四郎。

「こらー!りて来い。卑怯ひきょうでござる!」



 虎之助とらのすけと狂四郎の様子ようすを、あきれて見ていたアキレスは

「何か、アイツら仲間割なかまわれしてるけど」

 と、ライアンにたずねた。

「アイツらは、いつもああなんだ。気にするな」

「ところで、ワスは、どうしたら良いんでヤンスか?」

 アキレスに、助清すけきよが声を掛けて来た。

「オッサン、まだたのかよ。アンタをしたのは、あの娘だろ」

 アキレスは虎之助とらのすけゆびさす。

「それはそうなんでヤンスが、君はなかなか強そうでヤンスね」

「良くわかるなオッサン、俺は無敵むてきのアキレスだ」

暗黒魔術あんこくまじゅつ火星門かせいもん』」

 助清すけきよは、いきなりじゅつとなえた。すると、何も無かった空間くうかんにドアが出現しゅつげんした。

「このドアは『どこでもドア』にているが、出口はすべて火星という便利べんりなドアでヤンス」

 と、説明せつめいしながらアキレスを、ドアの向こうにばした。

「こういう強い男はワスの部下ぶかにするでヤンス。ついでに、ワスをした君も、一緒いっしょに火星に行くでヤンス」

 助清すけきよ虎之助とらのすけの左手を強く引っ張った。

「こら、はなすでござる」

 必死ひっし抵抗ていこうするが、そのままドアの向こうに連れさられてしまった。

「火星はいやでござる〜」

 虎之助とらのすけさけび声が、とおのいて行く。

バタン!

 ドアが閉まると、フッと『火星門かせいもん』は消えた。


「あっ!姉さんが変なオッサンにられてもうた」

「えっ、虎之助とらのすけさんが?」

 小太郎と牛鬼ぎゅうきは戦いを止めて、ドアがあった所までやって来た。

何処どこへ連れて行かれたんやろ?」

たしか、あの中年の男が火星にれて行くって言ってたな」

 ライアンが小太郎に言った。

「火星でっか!」

 小太郎は空を見上げた。

「姉さん〜!お達者たっしゃで〜」

「さあ、小太郎。帰ろうか」

 狂四郎は小太郎をれて宿舎しゅくしゃへとかって行く。


「黒瀬さん。僕たちも、そろそろ帰りましょう」

 黒瀬とアンドロポプも戦いをめて、それぞれの家に帰って行った。


 残っていた、ライアンとマーゴットも、ホテルへと帰って行く。

 夕刻ゆうこく時まで、えらくにぎやかであった、アメリカ村の公園はしずけさをもどし、人気ひとけしずかな夜をむかえるのであった。

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