第27話 左近の帰還

「こいつを見れば、大阪DSP[デビルスペシャルポリス]のやつらビビるだろうな」

「こんなんで大丈夫だいじゅぶなんか?」

「大阪のやつらは、ぬるい相手としか戦ってないから、このぐらいでちょうど良いんだよ」

 京都DSPでは、芹沢鴨せりざわかも左近さこん治療ちりょうえたところであった。

芹沢せりざわはんも、人が悪いでんな」 

 芹沢せりざわと同じ京都DSPの転生者であるほり安次郎やすじろう左近さこんの姿を見て、さすがに少し大阪DSPに同情している。

 ほりの転生前は、芹沢せりざわような名のある人物では無かったが、どんな悲惨ひさんな負け戦でも無傷むきず帰還きかんして来るという武芸ぶげい達人たつじんであった。

 だが、転生前は、あまりにも強過つよすぎたため、敵方に買収ばいしゅうされた同僚どうりょう寝込ねこみを襲われて惨殺ざんさつされてしまった。  

 自分と同じように、部下に殺された芹沢せりざわとは気が合うようで、自然と一緒いっしょに行動する事が多い。

「何言ってんだ。俺はやさしいぞ。たのまれた通り、ちゃんと左近さこんに取りいた阿部仲麻呂あべのなかまろはらってやったんだからな。グワッハッハッハ」

 と、芹沢鴨せりざわかも高笑たかわらいをした。



 ライアンとマーゴットは、相変あいかわらずアメリカ村の公園でたむろしている。

「あれっ!あの2人、この前死んだんじゃなかったっけ?」

「ほんとだ。二人で殺し合って地獄じごくに落ちたはずよね?」

 目の前を、虎之助とらのすけと小太郎が仲良なかよく歩いており、何故なぜか2人から湯気ゆげが出ていた。

「いやぁ、地獄じごく温泉おんせんは気持ち良かったでんなぁ」

「ホントでござるな」

「姉さんなんか、おはだがスベスベになって色気いろけしてますやん。こりゃ、男がほっときまへんで。俺が男ならよめしいぐらいですわ」

「俺が男ならって、小太郎は男でござろう」

「そうでしたわ。こりゃ、一本いっぽんられましたな」

 2人はゲラゲラ笑いだした。


「ちょっと、何が可笑おかしいのか全然わからないけど、アンタら地獄じごくに落ちたんじゃないの?」

 2人を見ていて、気になったマーゴットがたずねた。

地獄じごく温泉おんせんに、2人で入って来たでござる」

 まだ虎之助とらのすけからは、湯気ゆげが出ている。

地獄じごくってそんな所なの?鬼が大勢おおぜいいてこわい所だと思っていたわ」

「そういえば、鬼がいっぱいてはりましたな」

「5人ほどブッ殺したら、泣きながら温泉おんせん案内あんないしくれたでござる」

 火照ほてった顔で虎之助とらのすけが説明する。

石鹸せっけんやタオルをしてくれて、親切しんせつな鬼達でしたわ」

 小太郎も満足まんぞくげである。

美味おいしい食事も出してくれたでござる」

 湯気ゆげを出しながら虎之助とらのすけはニコニコしている。

ーーやっぱり、コイツらかかわったら駄目だめやつらだわーー

 マーゴット達は、あらためて決心けっしんするのであった。

 


 日本テクロノジーコーポレーションの社長室では、ひさしぶりの長期ちょうき休暇きゅうかえた社長の鬼塚と川島が話し合っていた。

「いやー、久しぶりに家族で温泉おんせんに行ってやされたわ」

 鬼塚はご機嫌きげんでアイコスを吸いながら話している。

「どこの温泉おんせんに行かれたんですか?」

地獄じごくにVIP用の温泉おんせんが出来たって聞いたんで行って来たんや」

「へえ、そんなんが地獄に出来たんですね」

「それが、その温泉おんせん不思議ふしぎな事があってな」

「どんな事です?」

「男湯に高校生ぐらいの人間が入ってたんや。何故なぜか鬼たちは、そいつに親切で、飲み物やら寿司すしやらをってたんや」

「何でですかね」

「俺も、そう思って鬼たちに聞いたら、泣きそうな顔になりよったんや。俺は知っての通り空気読くうきよむのが得意とくいやから、可哀想かわいそうになって聞くのを止めたんやけど。後で嫁から聞いたら、女湯にも高校生ぐらいの人間の女の子が入ってたそうなんや。ほんで、同じように鬼たちから接待せったいされてたんやって。不思議ふしぎやろ?地獄のVIP用の温泉おんせんにやで」

「確かに不思議ふしぎな話ですね。実は私も、妻との海外旅行中に不思議ふしぎ体験たいけんをしたんですよ」

「何や川島。お前もか?」

関空かんくう何故なぜか火星行きの便びんがあって、火星に行って来たんですよ」

うそやろ?」

 当然とうぜん、鬼塚は信じない。

「それが本当なんです。火星に着いたら、中年の男とその娘がタピオカミルクティーの屋台やたいを開いていて、飲んでみたら思いのほか美味おいしくて」

「ちょっと待てや。俺の話より、お前の話の方が10万倍ほど不思議ふしぎやんけ!」

「本当の事だから仕方しかたないでしょう。そして、その親子以外の火星人は、何故なぜかタコでした」

「そこはホンマっぽいな」

 その部分は鬼塚も納得なっとくした。

「ところが、タコのれの中に、銅鬼どうきた男がたんですよ」

 吸い終わったアイコスをハイざらにてながら

「そんなアホな!」

 鬼塚は言ってから、少し考えてみた

「いや、そう言えば、銅鬼どうきはロボに火星まで飛ばされたんやったっけ」

 と、言いなおした。

「そうなんです。今、考えれば、あれはやっぱり銅鬼どうきだったんですね」

 川島が、はなしえると

「この世には、まだ不思議ふしぎな事があるんやな」

 鬼塚は、2本目のアイコスを吸いながらつぶやいた。



 京都から大阪DSPの宿舎しゅくしゃに、安部あべ康晴やすはるもどって来た。

 取りいていた阿部仲麻呂あべのなかまろを、おはらいして完治かんちした左近さこんれている。

「ご苦労様くろうさまでした安倍さん」

 玄関げんかんまで出迎でむかえた鬼一きいち岩法師いわほうしであったが、安倍がれている左近さこんの姿を見ると絶句ぜっくした。

 何と、どう見ても11〜12歳の少年である。

「僕、左近さこん。よろしくね」

「あっ、ああ。よろしく」

 あまりのおどろきに鬼一きいちは、言葉にまってしまった。

左近さこんさんが、小学生になってもうた!」

 玄関げんかんまで出て来た小太郎は、なげき出した。

「何だか可愛かわいくなったでござるな」

 虎之助とらのすけからは好評こうひょうである。

たいして変わんねえだろ」

 相変あいかわらず、狂四郎はめている。

「あの芹沢せりざわさんが素直すなおに引き受けてくれたので、おかしいとは思っていたのだが。こうなってしまった」

 バツが悪そうに安倍が言った。

「まあ、細かい事は気にしないで、んな仲良くしようよ」

 何故なぜか、左近さこんだけは明るい。

「そっ、そうだな左近さこん。お前、腹減はらへってないか?」

 気持ちを切り替えて、岩法師が話しかけた。

「僕、ハンバーガーが食べたい」

ーーハンバーガーだと。以前いぜん左近さこんは和食が好きだったのだが、好みも子供っぽくなったかーー

「わかった。注文してやるから、そこにすわって待っててくれ」

 食堂のテーブルをゆびさしながら、岩法師は電話をかけた。

「ありがとう、おじちゃん」

 左近さこんは笑顔でこたえた。

ーー左近さこんに、おじちゃんと呼ばれるとはーー

 岩法師のテンションは、だだ下がりであった。

綺麗きれいなお姉ちゃん、僕と結婚けっこんしてよ」

 いきなり、左近さこん虎之助とらのすけにプロポーズした。

「姉さんは、オッサンと子供からモテまんなぁ」

 腕組うでぐみしながら小太郎は感心かんしんしている。

「やめとけ左近さこん。こいつはアホだぞ」

 狂四郎が、虎之助とらのすけゆびさしながら言った。

歴史上れきしじょう一番いちばん馬鹿ばかな、おぬしに言われたく無いでござる」

 馬鹿ばかにバカと言われて怒る虎之助とらのすけ

「そうや。しかも、お前の彼女はブスやし」

 小太郎も便乗びんじょうして言い出した。

「なに言ってやがる!桜田刑事は美人だぞ!」

「いや、ドブスや」

「桜田は、意地悪いじわるでござる」

だまれ、貧乳ひんにゅう!」

 カチン!

貴様きさま、ぶっ殺すでござる。唐沢家からさわけ忍術にんじゅつ冥界門めいかいもん』」

 虎之助とらのすけはブチ切れて、忍術にんじゅつを使ってドアを出現しゅつげんさせた。

「この『どこでも冥界めいかいドア』は『どこでもドア』にているが、行き先はすべ冥界めいかいでござる。狂四郎!おぬし冥界めいかいへ落とすでござる」

 虎之助とらのすけは狂四郎の首をつかむと、『どこでも冥界めいかいドア』へ押し込んだ。

「クソっ、俺は一人では死なないぞ。Aカップ娘、お前も道連みちずれだ!」

 狂四郎は虎之助とらのすけの左手を強く引っ張る。

「こらっ!はなすでござる」

 2人はみ合いながら、ドアの向こうがわにある冥界めいかいへ落ちて行った。

冥界めいかいいやでござる〜」

 虎之助とらのすけさけび声がとおのいて行く。

「俺も、面白おもしろそうやから冥界めいかいに行ってみよう」

 みずから、小太郎は『どこでも冥界めいかいドア』へ入って行く。

 バタン!!

 ドアが閉まると、フッと『どこでも冥界めいかいドア』は消えた。

「岩法師のおじちゃん。あの人達ひとたち何処どこへ行ったの?」

 3人の喧嘩けんかを見ていた左近さこんたずねた。

「あの空の星になったんだよ」

 岩法師は、空をゆびさしながら答える。

綺麗きれいな、お星様ほしさまだね」

「人は死ぬと、お星様になるんだ」

 ピンポーン!

 玄関のチャイムがった。

「ハンバーガーがとどいたようだ。一緒いっしょに食べよう」

「わーい」

 というわけで、左近さこんは大阪DSPへ帰還きかんしたのであった。

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