第26話 地獄へ道連れでござる

「大変だ!」

 今年で20歳になったばかりの諜報ちょうほう部員ペドロスは、国際電器保安協会ギリシャ本部に急いでけ込んだ。

「大変ですアレクシオスさん。リンゼイ老師が日本で殺されました!」

 諜報ちょうほう部長のアレクシオスは、ちょうど昼食をっていたところである。

「今、俺は牛丼ぎゅうどん玉子たまごをかけて食べるところだ。老師が1人が死んだぐらいで、さわがしいぞ」

「しかし、アレクシオスさん。リンゼイ老師は、3神の1人であるブラフマー様ですよ」

「なにっ、ブラフマー様だと。それを先に言わんか!」

 アレクシオスは昼食を中断してペドロスと、急いで上司じょうし報告ほうこくに行く。


「ハルパトス様!大変です」

「何だ。今からメガりカレーに玉子たまごをかけて食べようとしていたのに」

 幹部かんぶのハルパトスも昼食中であった。

「すいません。諜報ちょうほう部員より、日本でリンゼイ老師が殺されたとの情報が入ったものですから」

「老師が1人殺されたぐらいで、何を大袈裟おおげさな」

「しかし、リンゼイ老師は3神のブラフマー様ですよ」

「何だと!それを先に言わんか」

ハルパトスとアレクシオスとペドロスは、急いで局長に報告に行く。


「グリゴリオス局長。大変です」

 局長室では、グリゴリオス局長が昼食のチキンラーメンに、玉子たまごをかけて食べようとしていたところであった。

「何ですか。昼食中にさわがしいですよ」

「それどころじゃありません。日本で老師が殺されました」

 ハルパトスはあわてながら報告する。

「老師が殺されたぐらいで、私の食事の邪魔じゃまをしてはいけませんよ」

「しかし、その老師と言うのはブラフマー様でありまして」

「何ですと!ブラフマー様が、それを先に言わないと駄目だめでしょうが!これはゼウス様に報告せねばなりませんね」

「ゼウス様は、どちらにいらっしゃるんで?」

 ハルパトスはグリゴリオス局長に聞いた。

「ゼウス様はいそがしいお方ですから、サミットや会議で世界中を飛び回っておられます。ちよっとスケジュールを確認してみましょう」

 グリゴリオスは、パソコンを操作そうさしてゼウスのスケジュールを確認した。

「ええと、今日は上方かみがた漫才まんざいサミットに参加さんかされておられる」

「サミット中にですか、どうやって知らせましょうか?」

 ハルパトスが質問する。

むずかしいですね。しかし、全知ぜんち全能ぜんのうのゼウス様の事ですから、もうご存知ぞんじではないでしようか」

たしかに全知ぜんちのお方でしたら、当然とうぜん知ってますね」

 グリゴリオスとハルパトスの会話を聞いていたペドロスは疑問ぎもんに思い

「あのぉ、ゼウス様が全知ぜんちならば、なぜ私のような諜報ちょうほう部員が必要なのでしょうか?」

 と、もっともな質問をした。

「それはですね。お前達がいなければ、諜報ちょうほう部員を監督かんとくする部長のアレクシオスの仕事が無くなる。アレクシオス達がなくなれば、部長に指示しじあたえる幹部かんぶのハルパトスの仕事が無くなる。ハルパトスや君達がなくなれば、局長である私の仕事が無くなる。それじゃ、るではありませんか。私達にもやしなう家族がいるのですよ」

 グリゴリオスは丁寧ていねいに説明する。

「なるほど。そう言う事でしたか。何だか、世の中の仕組しくみがわかったような気がします」

 ペドロスは納得なっとくした。

「どうやら、君もこれで大人の階段を一段いちだんのぼったな」

 アレクシオスも満足げである。

「君も、もう大人の仲間入りだ」

「わっはっはっは〜」

 一同いちどうは笑いだした。

ーーしかし、この人達は何故なぜ、日本の庶民的しょみんてきな食べ物に玉子たまごをかけて食べるのが好きなんだろう?ーー

 新米しんまい諜報ちょうほう部員のペドロスには、新たな疑問ぎもんが生まれるのであった。



 アメリカ村の公園では、いつものようにライアンとマーゴットがタコ焼きを食べていた。

「しかし、まさかリンゼイ老師がられるとは、思ってもいなかったな」

「あのおじいさんって、そんなに強かったの?」

 マーゴットは、あまりリンゼイ老師の事を知らない。

「そりゃ、この世を創造そうぞうした3神の1人なんだから強いだろう」

 2人が話していると、何だか見慣みなれた大男がやって来た。

「よう、元気そうだな」

「アンドロポプ!お前、生きてたのか?」

 何と、死んだと思われていたアンドロポプである。

「いやぁ、三枚におろされた時は、さすがに死ぬかと思ったけど、頑張がんばったら何とか再生できたな」

すごいな、お前の再生能力は」

「今後は、お前の忠告ちゅうこく通り、あの小娘にはかかわらないようにするよ」

 凶暴きょうぼうなアンドロポプも、さすがにりたようである。

「長生きしたけりゃ、そうする事だな」


「ちよっと、止めてよ!」

 ライアンが声のする方を見ると、マーゴットが若い男にからまれている。

「ええやん。俺と浪速なにわ歴史博物館れきしはくぶつかんに行こうや」

いやよ、何でアンタと浪速なにわの歴史を勉強しなくちゃいけないのよ」

 小太郎が熱心にマーゴットを口説くどいている。

「また、こいつか」

 ライアンはあきれながらも

「お前、もうマーゴットの事はあきらめろ。いつも一緒いっしょに居る娘に付き合ってもらえよ」

いやや!虎之助とらのすけ姉さんは顔は可愛かわいいけど色気いろけが無いんや。俺はこの姉ちゃんみたいなセクシーギャルがエエんや」

 小太郎はゴネ出した。

「おい小僧こぞう、後ろを見てみろ」

 アンドロポプがふるえながら、小太郎の背後はいごゆびさした。

「誰が色気いろけが無いのでござるか?」

 そこには、何と虎之助とらのすけが立っていた。

ーーあの凶暴きょうぼう凶悪きょうあくなアンドロポプがふるえているーー

 初めて見るアンドロポプのおびように、ライアンは軽いおどろきを感じた。

「あっ、姉さん。聞いて下さいよ、この姉ちゃんさそってもデートに行ってくれないんですわ」

「そんな事より、さっき誰かの事を、色気いろけが無いって言ってなかったでござるか?」

「そんなん、言うわけおまへんがな。何言なにいうてまんの姉さん」

 しらを切る小太郎であったが

「こいつ、アンタの事を色気いろけが無いって言ってたぜ」

 あっけなく、アンドロポプにバラされてしまった。

「おい、アンドロポプ。この娘にはかかわるなって言ったろ!」

 あわててライアンが止めるが

「小太郎!それは本当でござるか?」

 本気で虎之助とらのすけは、おこっているようである。

「クソっ!バレちゃ仕方しかたありまへんな。たしかに言いましたよ、いいましたとも。それがどうかしはりましたか?本当の事ですやん」

 小太郎がひらなおると

「小太郎!貴様きさま!!」

 と、怒鳴どなると、虎之助とらのすけ呪文じゅもんとなえ出した。

唐沢家からさわけ忍術にんじゅつ地獄門じごくもん』」

 虎之助とらのすけは忍術で公園内にドアを出現しゅつげんさせた。

「この『どこでも地獄じごくドア』は『どこでもドア』にているが、行き先はすべて地獄じごくでござる」

「なっ、なんとおそろしいドアだ!」

 アンドロポプは、またふるえ出した。

「小太郎を、このドアにブチんで地獄じごくへ落とすでござる!」

ーーアカン、マジでおこってはる。逃げないと、姉さんに殺されるーー

「ひぃー!姉さん、ゆるして下さい〜」

 小太郎は全速力ぜんそくりょくで逃げ出した。

拙者せっしゃから、逃げられると思っているでござるか!」

 逃げる小太郎を虎之助とらのすけが追っかけて行く。



「だから、かかわるなって言ったろ」

 あきれながらライアンが言う。

「本当だ。とんでもなくヤバい娘だ」

 アンドロポプが反省はんせいしていると、向こうから2人やって来た。

「おーい。ライアン」

 アーナブとマニッシュである。

「ええっ!お前らも生きてたのか?」

 おどろくライアン。

「いやぁ。あのプレアデス星人の殺人ビームを受けた時は、さすがに死ぬかと思ったけど、頑張がんばったら何とか再生さいせい出来できたよ」

「お前らの再生能力さいせいのうりょくすごいな」

「でも、リンゼイ老師は死んじゃったみたい。私達これからどうしよう?」

 マニッシュは、今後の事を心配している。

「インドに帰ったら、リンゼイ老師を守れなかった事をめられるだろうしな」

 アーナブも、自分たちの今後のかた思案しあんしている。

「アンタ達、もともと京都に行くんじゃなかったの?」

 マーゴットがたずねた。

「俺たち2人だけで京都はキツいな。鬼神や化物ばけものの様な転生者がゴロゴロるんだろ」

 そうこう話していると、ボロボロになった小太郎がもどって来た。

「ホンマに殺されるかと思ったわ」

 服が半分はんぶんげており、全身ぜんしんきずだらけである。

「あれっ、綺麗きれいな姉ちゃんがえてる。姉ちゃん、俺と相席あいせきスーパー銭湯せんとうに行かへんか?」

 今度はマニッシュを口説くどき出した。

「そんな変なトコ行かないわよ」

 露骨ろこつに嫌がるマニッシュ。

「よせよ。マニッシュがいやがってるじゃないか!」

 アーナブが、とめに入る。

「何や、お前。この姉ちゃんの彼氏か?」

 小太郎は女の事になると、すぐに喧嘩けんかごしになる。

「彼氏じゃないけど、嫌がってるじゃないか。それに、あの娘の事はもう良いのかよ」

「姉さんは上手うまく、まいて来たから大丈夫や。お前ら、姉さんが何でバカみたいに強いのか教えたろか」

 何故なぜか、小太郎はえらそうである。

「何でだ?」

 興味きょうみを持ったアンドロポプが聞いた。

馬鹿ばかやからや。馬鹿ばかやからバカみたいに強いんや!」 

「おい小僧こぞう。後ろを見てみろ」

 ふるえながら、アンドロポプは小太郎の後ろをゆびさした。

 またしても、小太郎のすぐ後ろに虎之助とらのすけが立っている。

「小太郎!今から、お前を殺すでござる!」

 虎之助とらのすけは小太郎の首をつかむと、『どこでも地獄じごくドア』に押し込んだ。

「クソっ!俺は1人では死ねへんで。姉さんも道連みちずれや」

 小太郎は両手で虎之助とらのすけの左手をにぎり、思いっきり引っ張った。

「こら、はなすでござる」

 虎之助とらのすけと小太郎はみ合いながら、2人とも『どこでも地獄じごくドア』の向こう側に引きずり込まれて行った。

地獄じごくいやでござる〜」

 虎之助とらのすけさけび声がとおのいて行く。

パタン!

 ドアが閉まり『どこでも地獄じごくドア』は、フッと消えた。

「あいつら死んだのかな?」

「たぶんな」

 アンドロポプとライアンは顔を見合わせた。

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