第13話 小太郎見参

「姉さん、このアビレックスの、MA1ジャケットとかどうですやろ?」

「なかなか丈夫じょうぶそうなジャンバーでござるな」

 虎之助とらのすけは小太郎をれて、ジャンバーを買いにアメリカ村に来ていた。

「こっちの、リアルマッコイのジャンバーの方が、生地きじが良さそうでござる」

「姉さん、それは高級品こうきゅうひんでっせ。軍隊ぐんたいでも大佐たいさクラスでないと着れない代物しろものです。我々われわれよう一兵卒いっぺいそつは、アビレックスかアルファ社のジャンバーでっせ」

拙者せっしゃ達は、軍隊ぐんたいで言えば、二等兵にとうへいでござるからなぁ」

「あっ、でも、このダウンジャケットもあったかそうでっせ」

「これはかるくて動きやすいでござるな」

 虎之助とらのすけは、ダウンジャケットを試着しちゃくしてみる。

「姉さんは、何着なにきても似合にあいまんなぁ」

拙者せっしゃのスタイルの良さは、アメリカの大統領だいとうりょうおびえて第7艦隊かんたい緊急出動きんきゅうしゅつどうさせるレベルでござる」

米軍べいぐん出動しゅつどうさせるレベルとは、さすがは姉さんでんなぁ」

 2人はゲラゲラ笑い出した。

「あれっ!姉さん、ちょっと、あそこ見て下さい」

「なんでござるか」

 小太郎がゆびさす方を見ると、狂四郎きょうしろうと桜田刑事が手をつないで歩いている。

「アホカップルでござるな」

「あの2人、やっぱり付き合ってたんやな」



「今日はすいません、僕の買い物に付き合ってもらって」

 れながら、狂四郎は言った。

「良いのよ、私も今日は、ちょうどひまだったから」

 仲良くショッピングをしている狂四郎と桜田刑事のあとを、けている2人組の男がいた。

 牛頭ごず馬頭めずである。

「あいつらがDSP(デビルスペシャルポリス)の刑事と転生者てんせいしゃか。なんか恋人同士こいびとどうしに見えるな」

 馬頭めずがそう言うと

「ムカつくやつらだ、早くぶっ殺そうぜ」

 いかつい外見がいけん牛頭ごずは、仲良なかよく見えるカップルがきらいなようだ。

「まあ、待て。ここは人が多すぎる」

「俺は、こういうはなやかな所で仲良なかよくしているカップルを見ると、ムカつくんだ」

「それは、モテないお前のひがみだろ?」

「いや、そんな事ないぞ。俺だって若いころ結構けっこうモテたぞ」

「若いころって、お前まだ28歳だろ?普通ふつうなら男が一番モテる時期じきだぞ」

「あっ、アイツら路地ろじに入ったぞ。まさかホテル街に行くつもりじゃないだろうな?」

「別に行っても良いじゃねえか。それより、路地ろじならるチャンスだぞ」



 路地ろじに入った瞬間しゅんかん、狂四郎は殺気さっきを感じた。

「桜田さん、下がって!」

「どうしたの?」

 不思議ふしぎがる桜田刑事をよそに狂四郎はかまえた。

「ほう、さすがに転生者だな。われらの気配けはい気付きづくとは」

 牛頭ごず馬頭めずあらわれた。

「お前が殺気さっきを出しぎるんだよ」

 馬頭めず不服ふふくそうである。

仕方しかたないだろう、俺はコイツらみたいな、仲良なかよしカップルが大嫌だいきらいなんだ」

ーー鬼どもが、タイミングの悪い時に出て来やがって、なんとしても桜田さんだけはまもらないとーー

新田家仙道にったけせんどう殻竹からたけ割り!」

 狂四郎が、いきなり仕掛しかけた。

 踵落かかとおとしのような狂四郎のわざを、両手で十字の形で受け止めた牛頭ごずは、右ストレートを顔面がんめんたたもうとする。が、急にむねを押さえてうずくまった。

「この野郎やろう!俺の心臓しんぞうを、えぐり取ろうとしやがった!」

「ちっ、しくじったか。心臓しんぞうを取りそこねた」

「なかなかやるな。踵落かかとおとしはフェイントか」

 馬頭めず金棒かなぼうまわしながら近づいて来る。

 牛頭ごずむねきず回復かいふくし、立ち上がった。

「ぶっ殺してやる!」

ーー桜田さんを守りながら、この2人を相手にするのはキツいーー

「げふっ!」

 馬頭めず金棒かなぼうに気を取られているスキに、牛頭ごずのボディブロウをらってしまった。

 はらを押さえて、うずくまる狂四郎を尻目しりめ牛頭ごずは桜田刑事に向かって行く。

「俺は女をうのが大好きなんだ」

「逃げろ!桜田さん!」

「お前は俺が相手してやる」

 桜田刑事を逃がそうとする狂四郎には、馬頭めず金棒かなぼうりながら向かって来る。



「お前は、ほんとにタコ焼きが好きだなぁ」

 ライアンとマーゴットは、アメリカ村の公園でタコ焼きを食べていた。

「あっ、あの若いカップル、前に大阪城公園おおさかじょうこうえんにいたDSP[デビルスペシャルポリス]のアホ2人じゃん」

 虎之助とらのすけと小太郎が仲良なかよくショッピングしている。

「どうする、っちゃう?」

「いや待て。良く見ろ、アホ2人組の後ろにいる男」

 大男が2人をけている。

「デカい男がけているわね」

「『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』ロシア支部しぶのアンドロポプだ。やつ凶暴きょうぼう非常ひじょう危険きけんな男だ」

「なんで、そんなやつが日本に?」

「それはわからんが、やつ街中まちなかでも切れたらあばれるヤバい男だ。俺達は厄介事やっかいごとまれないようにはなれて見ておこう」

「そうね、私もこんな街中まちなかで、さわぎにまれるのはいやだわ」

ライアンとマーゴットの二人は、アンドロポプに見つからないように、はなれて傍観ぼうかんする事にした。



 チャッピーは、『奈良鬼連合団体ならおにれんごうだんたい』の鬼武者おにむしゃ達に案内あんないされ、奈良の飛鳥あすかに来ていた。

「ここに、左近さこんと言う大阪DSPのリーダーがいるのか」

 ボデイを修理しゅうりして、万全ばんぜんのコンディションのチャッピーは、鬼塚から前回の汚名おめい返上へんじょうため、リーダーの左近さこん抹殺まっさつする指示しじけていた。

「奈良にも手練てだれの鬼がるのに、こんな所で修行しゅぎょうしたがって、ふざけた野郎やろうだ」

 奈良の鬼武者おにむしゃ憤慨ふんがいしているようだ。

「チャッピー、左近さこんを見つけしだいぶっ殺す」

 スマホで指示しじを受けていた鬼武者おにむしゃの一人が

左近さこん居場所いばしょがわかった。みんな行くぞ」

 と、号令ごうれいをかけると、チャッピーと鬼武者おにむしゃ達は車に乗り込み、左近さこんの元へ向かう。


 とう左近さこんは、相変あいかわらず一人で陰陽師おんみょうじ修行しゅぎょうをしている。

 熱心に修行しゅぎょうはげんでいるためか、安部顧問あべこもん同格どうかくか、それ以上に上達じょうたつした気がする。

 そこへ、チャッピーと鬼武者おにむしゃ達がやって来た。

「鬼どもか。ちょうど腕試うでだめしを、したいと思ってたいた所だ」

 きびしい修行しゅぎょうをしたせいか、左近さこんには余裕よゆうがある。

「アイツが左近さこんだ、っちまえ!」

 号令ごうれいともに、鬼達とチャッピーがおそかる。

 しかし、以前いぜん左近さこんでは無い。オロチや天狗てんぐ河童かっぱ巨大武者きょだいむしゃと、あらゆる式神しきがみを出してむかつ。

 式神しきがみ鬼武者おにむしゃ達の相手あいてをしているスキに、チャッピーがすさまじい速さで左近さこんおそいかかった。

 左近さこんは刀をかまえ、チャッピーの首をねらう。

ガキィン!!

 すさまじい金属音きんぞくおんともに、チャッピーの首がボトっと地面じめんに落ちた。

「グフっ」

 同時に左近さこんひざをついた。腹部ふくぶには深々とチャッピーの手刀しゅとうさっている。 

「待ってろ、とどめをしてやる」

 チャッピーは左近さこんから手刀しゅとうき、自分の首をひろおうとしたが、急に動きが止まり、全身ぜんしん土色つちいろ変化へんかして行く。

陰陽師おんみょうじ土遁どとんじゅつだ、土にかえれ」

 左近さこんはチャッピーの首を切り落とす時に、じゅつをかけていたのである。

 チャッピーは、サラサラとすなようくずれ出し、すなかたまりとなっていった。

 鬼武者おにむしゃ達も式神しきがみにやられ、ほぼ壊滅かいめつ状態じょうたいになっており、のこった数名の鬼武者おにむしゃも逃げ出している。

 何とか敵を撃退げきたいした左近さこんであるが、自身じしん腹部ふくぶ致命傷ちめいしょうって、その場にたおんでしまった。

見事みごと左近さこん。これほど腕前うでまえになるまで、よく修行しゅぎょうしたな」

 いつの間にか、阿倍仲麻呂あべのなかまろそばた。

「ああ、満足まんぞくだ」

 仰向あおむけけにたおれながら左近さこんは、つぶやいた。

「だが、お前はこの程度ていど満足まんぞくしてはならぬ。私ととも鬼神きしん以上の存在そんざいになるのだ」

「なれるのか?」

「なれる。だが、このままでは、お前は死ぬ。今ならすべてをる事が、出来できるだろう」

「そりゃそうだ」

 何故なぜだか、左近さこん阿倍仲麻呂あべのなかまろ言葉ことば納得なっとくし、ねむりについた。


 


 火星では、『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』こと助清すけきよと娘のパクチーが、屋台やたいを作っていた。

「あのう、ちょっと聞いてもよろしいですか?」

 火星人の間では『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』が、火星の住民じゅうみんであるタコ達を材料ざいりょうにしてタコ焼き屋を始めるとうわさされており、みな恐怖きょうふしていた。

 銅鬼どうきは火星人達を心配しんぱいして、タコ太郎と一緒いっしょたずねて来たのである。

「何でヤンスか?」

「タコ焼き屋を始めると聞いたのですが?」

「ワスは、そのつもりだったでヤンスが、パクチーに大反対だいはんたいされてめたでヤンス」

「では、この屋台は?」

「今、流行はやりのタピオカミルクティーを売るですぅ」

 パクチーは、売る気まんまんである。

「そう言えばたしか、私が地球にた時にも、タピオカミルクティーは流行はやってましたね」

「火星でも、流行はやるはずですぅ」

「みんなにすすめておくでチュー」

 タコ太郎は、安心してよろこんでいる。

「ありがとうですぅ」

 とりあえず、火星人達の脅威きょういった、と思われた。

「ところで、君がれているタコだが、何か美味うまそうでヤンスね。ワスはタコ焼きが大好物だいこうぶつなんでヤンスが」

 助清すけきよは、したなめずりしながら、タコ太郎を凝視ぎょうししている。

「では、私達は、これで」

 銅鬼どうきは、あわてて、タコ太郎を連れて帰った。

助清すけきよは、何だかこわいでチュー」

 タコ太郎はおびえている

「あの男とは出来できるだけ、かかわらないようにしよう」

「その方が良いでチュー」

 いずれ『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』と対決たいけつする日が来る事を、銅鬼どうき覚悟かくごするのであった。



天才剣士てんさいけんし小太郎こたろう見参けんざん!!」

 いきなり飛び出て来た小太郎が、馬頭めずの右腕をたたった。

ガチャッ!!

 馬頭めずの右手が、金棒かなぼうごと地面じめんに落ちる。

 絶体ぜったい絶命ぜつめいのピンチであった狂四郎と桜田刑事に、小太郎が加勢かせいしにあらわれた。

たすかったぞ、小太郎。虎之助とらのすけ一緒いっしょか?」

「俺一人だ!」

ーーええッ、コイツ一人かよ!一瞬いっしゅん助かったと思ったが、アホの小太郎と俺だけでは、この2人の鬼をたおすのは無理むりだ!!ーー

 狂四郎のピンチは、まだまだ続くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る