第12話 阿部仲麻呂が登場でござる

虎之助とらのすけ達は、岩法師いわほうしうなぎ屋に連れて来てもらっていた。

「やっぱり、うなじゅう美味うまいでんなぁ」

 小太郎こたろう上機嫌じょうきげんで、うなぎを食べている。

「これは、浜松はままつ産でござるな。とても美味おいしいでござる」

 虎之助とらのすけ機嫌きげん良く食べている。

うなぎ美味うまいのは良いが、あのチャッピーを何とかしないとな」

 狂四郎は、チャッピー対策たいさく真剣しんけんに考えているようだ。 

「ところで狂四郎。お前クリスマスは桜田刑事とデートするんか?」

 唐突とうとつに小太郎が聞いて来た。

「何の事だ?俺は別に桜田刑事とってるわけじゃないぞ」

「いや、お前と桜田刑事は付き合ってるやろ」

「まだ、付き合ってねえよ」

「まだ、って言う事は、これから付き合うんやろ?」

「そんなの、わかんねえよ」

「狂四郎は阿呆あほだから、意地悪いじわるの桜田刑事とお似合にあいでござる」

「俺はアホじゃねえよ!それに、桜田刑事の事を悪く言うんじゃねぇ!!」

「姉さん、他人ひとの恋人の悪口を言ったら駄目だめですやん」

「だから、まだ恋人じゃ無いって言ってるだろ!!」

「おい、お前達、喧嘩けんかするなら店の外でやれ」

 岩法師に注意ちゅういされた。

「すんまへん」

「すいません」

 小太郎と狂四郎があやまった。

「狂四郎は気が短いから、こまるでござる」

虎之助とらのすけみんな仲良なかよくするんだぞ」

「わかってるでござるよ。拙者せっしゃ他人ひとに対する思いやりの心は、タスマニアデビルの赤ちゃんもビックリして、ともぐいいを始めるレベルでござる」

「さすがは、姉さんでんなぁ」

 虎之助とらのすけと小太郎は、ゲラゲラ笑いだした。

ーー何が面白おもしいのか、さっぱり分からんが、とりあえず仲良なかよくしてるので、これで良しとするかーー

 半分、あきれながらも岩法師は満足まんぞくするのであった。



 そのころ、火星では

 封印ふういんしてあったつぼから500年ぶりに『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』が出て来てしまった。

「アンタは、誰でチュか?」

 タコ四十郎しじゅうろうとい

「ワスは助清すけきよと言うでヤンス。よろしくでヤンス」

 ややが低く華奢きゃしゃな体型で、黒縁くろぶち眼鏡めがねをかけた、一昔前ひとむかしまえの日本のサラリーマンのよう姿すがたの男が答えた。

助清すけきよさんでチュか。僕はタコ四十郎しじゅうろうです、こちらにこそよろしくでチュー」

「それでアンタは、ここで何をしてたんでヤンスか?」

ぱらって、自分の家と間違まちがえて、お酒をさがしていたでチュ」

「酒なら、このたなにいくらでもるでヤンス」

 助清すけきよたなから何本かの酒瓶さけびんを取り出し、タコ四十郎しじゅうろうの前に置いた。

「あんな所に酒があったんでチュね。でも、どうしてアンタは酒のを知ってるのでチュか?」

「ここはワスの家だったでヤンス。ひさしぶりなんで、かなり様子ようすが変わってるでヤンスが」

「そうだったんでチュか。では、とりあえず乾杯かんぱいでチュ」

 と言うわけで、2人は夜通よどおし飲み続けるのであった。



「おタマ」

「ううっ、飲みぎて頭が痛いでヤンス」

「お父タマ、どうしてつぼから出て来たのぉ」

 いつの間にか、まわりに人だかりが出来できており、娘のパクチーもるではないか。

「ああ、パクチーでヤンスか。昨夜さくやのタコは?」

「そこで、まだてますけど」

 体格たいかくの良い男がゆびさす先に、タコ四十郎しじゅうろう酒瓶さけびんかかえたままている。

「君は誰でヤンスか?見たところ、火星人では無いようだが」

「私は地球人の銅鬼どうきと言います、わけあって火星にるのです。アナタが『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』ですか?」

みんなそうぶでヤンスが、本名は助清すけきよでヤンス」

「おタマ、まだてなくて良いのぉ?」

「そうだな、だいぶきずえたし、もう大丈夫だと思うでヤンス」

きずと言うと怪我けがでもされてたのですか?」

 気になって、銅鬼どうきは聞いてみた。

「太陽神アトゥムひきいる光の軍団ぐんだんと、ワスを中心としたやみ軍勢ぐんぜいが太陽系の覇権はけんをかけて3000千年間戦っていたのでヤンス。その時にったきずがやっとなおったようでヤンス」

ーーこの一見いっけん平凡へいぼんなサラリーマンのような男が、そんなスケールの大きな戦いをしていたのかーー

「そうだったのですか。我々われわれは、やっと『山田タコ王朝』をたおした所なんですよ」

「じゃ、もう『山田タコ王朝』は無いんでヤンスか?」

「おタマは、戦争で傷をって弱っている所を『山田タコ1世』に封印ふういんされてしまったの」

「元々は、ワスが明石海峡あかしかいきょうから連れて来たタコが火星で繁殖はんしょくしたのが、今の火星人なんでヤンス。しかし、山田タコ一族には見事みごと裏切うらぎられたでヤンス」

「はぁ、そうなんですか」

 銅鬼どうき達が、戸惑とまどっていると

「君は、何故なぜか我々と同じやみにおいがするでヤンス」

と、助清すけきよ指摘してきされた。

「実は私は、地球の鬼なんですよ」

「なるほど、君もやみの者でヤンスか。じゃ、一緒いっしょに太陽神アトゥムをたおそうでヤンス」

「そのアトゥムと言うやつは、何処どこるのですか?」

太陽神たいようしんだから、太陽のエネルギーがとどく所でヤンス」

「えらい広範囲こうはんいですね」

やつは、この太陽系たいようけい支配者しはいしゃでヤンスから」

「おタマ、また怪我けがするからあらそごとはやめて欲しいですぅ」

 パクチーは心配しんぱいしている。

「それもそうでヤンスね」

めるんですか?」

「パクチーも心配しんぱいしてるし、あぶない事はめて、タコ焼き屋でも開いてらすでヤンス」

太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』こと助清すけきよは、意外いがいとあっさり太陽系たいようけい征服せいふく野望やぼうてた。



「あれが阿部仲麻呂あべのなかまろの家か」

 大伴おおとも警部けいぶには、けっして近づくなと言われていた左近さこんであったが、どうしても気になって、ここに来てしまった。

たしかに、何か気配けはいを感じる」

 飛鳥あすかに来て以来いらい陰陽師おんみょうじ修行しゅぎょうを続けている左近さこんには、この家から、ただならぬ霊気れいきを感じた。

 危険きけんな事だとは分かっていながらも、左近さこんは家のとびらを開けて中に入っ行く。

 ふるめかしい家具かぐ食器しょっきがキチンと整理せいりされて置いてあり、ほこり1つ無い清潔せいけつな家である。

 内装ないそう見入みいっていると、不意ふい背後はいごから気配けはいを感じた。

 くと、男がいた。

「この家に客人きゃくじんとは、何百年ぶりかのぉ」

「アンタが阿部仲麻呂あべのなかまろか?」

「かつては、そうばれていたな。まあ、お茶でも飲んで行きなさい」

 お茶を用意よういしながら、その男は言った。

 左近さこんだまっていると。

「君ののぞみは、分かっている」

「えっ?」

「私は、君がこの飛鳥あすかに来た時から、ずっと見ていた」

 出されたお茶を飲みながら、だまって左近さこんは聞いている。

「君ののぞみは、誰よりも強くなる事のようだな」

ーー何故なぜ、この男は俺ののぞみを知ってるんだ?ーー

「だが、あまり強くなりぎると、大切たいせつな物をうしなう事になるが、それでも良いのかね?」

「私は転生者てんせいしゃです、うしなう物など、ありません」

「そうでは無い。君には大切たいせつ仲間なかまや、強く健全けんぜん精神せいしん肉体にくたいを持っている」

「そう言われると、そうかも知れません」

「それらを、うしなってでも強くなりたいのであれば、また此処ここに来なさい。その時は君に協力きょうりょくしよう」

ーー言われる通り、俺にはまだ大切たいせつな物があった。武芸者ぶげいしゃとして強さを追い求めて来たが、てきれ無い物もあるーー

 左近さこんが少しの間考えていると、いつの間にか男は家ごと消えており、普段ふだん飛鳥あすか風景ふうけいもどっていた。

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