第8話 狂四郎が退院するでござる

「姉さん、やりましたよ。あらたな式神しきがみを出せました」

 よろこびながら、小太郎が宿舎しゅくしゃの食堂に入って来た!

 良く見ると、手に持っているのはムカデである。

「小太郎の式神しきがみは、害虫がいちゅうばかりでござるね」

 虎之助とらのすけは岩法師と、朝の納豆なっとう定食を食べている。

「姉さんも、タヌキ以外の式神しきがみを出してみたらどうです?」

拙者せっしやは、タヌキだけで充分じゅうぶんでござるよ」

「まあ、姉さんは誰よりも強いから、必要ないですね」

拙者せっしやの強さは、チンパンジーの赤ちゃんもビックリして、二度寝するレベルでござるからなぁ」

 2人はゲラゲラ笑いだした。

ーー何が可笑おかしいのか、さっぱりわからんが。ようやく、いつもの虎之助とらのすけに戻って来たなーー

 笑っている2人を見て、岩法師は安心した。



「そうだ、狂四郎がそろそろ退院して来るはずだ」

 そう言ってしまってから、岩法師はマズっと思った。

 狂四郎が入院したのは、虎之助とらのすけ師匠ししようである、くりすけされたからで、そのくりすけを、虎之助とらのすけは殺さなくてはいけない羽目はめになったからである。

 それ以来いらい虎之助とらのすけひどく落ち込んでいた。

 しかし、虎之助とらのすけ何事なにごとも無かった様子ようす

「アホの狂四郎が退院して来るでござるか?」

 と、聞いて来た。

ーー拙僧せっそうの、気のまわしぎだったかーー

「そうだ。たしか桜田刑事がむかえに行っているはずだ」

「あの2人は、みょうに仲が良いでんなぁ」

「桜田は意地悪いじわるだから、アホの狂四郎がお似合にあいでござる」

 虎之助とらのすけは、桜田刑事が苦手にがてである。

ーーこれで、左近さこんもどって来ればDSP(デビルスペシャルポリス)も安泰あんたいなんだがなぁーー

 虎之助とらのすけが元気をもどしたのは良いが。岩法師は、奈良へ修行しゅぎょうに行ったきり、ほとんど連絡れんらくの無い左近さこんの事が気がかりであった。



 警察病院では、狂四郎が退院たいいん準備じゅんびをしていた。

 着替きがえをまし、バックに荷物にもつむと、若い看護師かんごしが3人ほど挨拶あいさつにやって来た。

「狂四郎君、お仕事しごと頑張がんばってね。退院たいいんしても連絡れんらくしてよ」

 イケメンの狂四郎は、女性が多い場所では人気者である。

「わかってるって。ちゃんとLINEするよ」

 が悪い事に、狂四郎が看護師かんごし達にチヤホヤされている最中さいちゅうに桜田刑事がむかえに来てしまった。

「狂四郎君、車でむかえに来たけど、思ったより元気そうだから歩いて帰れるわよね!」

 おこったように、桜田刑事がはなつ。

「いや、まだ無理ですよ」

 引き止める狂四郎をに、桜田刑事は1人でエレベーターホールに向かって歩き出した。



 一方いっぽう、火星では『山田タコ14世』が、反乱軍はんらんぐんに取りかこまれて、絶体絶命ぜったいぜつめいのピンチをむかえていた。

「死んでもらうぞ『山田タコ14世』」

 銅鬼どうきが剣をかまえて向かって来る。

「待て、おろか者ども。ワシを殺すと、大変な事になるぞ」

「どうなるんだ?」

「ワシら『山田タコ王家』が封印ふういんし続けている、伝説でんせつの『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』が復活ふっかつする事になる。そうなれば、火星どころか太陽系全体たいようけいぜんたいやみつつまれ、悪魔あくま星系せいけいになってしまうのだぞ」

戯言たわごとをいうな!死ね『山田タコ14世』!」

『山田タコ14世』にりかかろうとする銅鬼どうきを、タコ太郎が止めた。

「待ってくれ、銅鬼どうき。その話本当かも知れないでチュー」

「何を馬鹿ばかな。こんなのは、コイツのハッタリだ」

「いえ、500年前に『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』を、初代しょだい『山田タコ1世』が封印ふういんしたのは本当の事でチュー」

「何だと!」

「だからと言って、『山田タコ14世』を殺せば『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』が復活ふっかつすると言うのは、鵜呑うのみには出来できないでチューが」

「なるほど。一度いちど封印ふういんしたのは本当の事だが、コイツが今も封印ふういんし続けていると言うのは、分からないと言うのだな?」

「そうでチュー」

 銅鬼どうきなやんだ。が、ここまで来てなやんでも仕方しかたないと思い直した。

「コイツを殺せばハッキリするだろう」

 銅鬼どうきは剣をかまえ『山田タコ14世』に向けた。

 反乱軍はんらんぐんみんな固唾かたずんで見守みまもっている。



 ビジネス街の高層こうそうビルの最上階では『大阪鬼連合団体』の定期カンファレンスが行われていた。

 議長は、いつものながら鬼塚である。

「今日は、みなさんに報告ほうこくがあります」

「ついに、DSPの小娘をりましたか?」

ってません。小娘はムッチャ元気に明るくごされています」

「では、何の報告ほうこくですか?」

「DSPの小娘や『国際電器保安協会』のような強い敵があらわれたので、対抗たいこう手段しゅだんとして、黒瀬と若林に京都へ修行しゅぎょうしに行ってもらう事にしました」

「あの鬼神きしんる京都ですか。確かに効果こうかがあるかも知れないですね」

 中年の男が言った。

「質問があります」

 若い男が手をげた。

「何ですか?」

「最近は黒瀬さんと若林が、戦闘部隊せんとうぶたいの中心になっているようですが、議長と川島さんも四天王として戦えば戦力がアップするのでは?もしかして、弱いと言う事は無いでしょうね?」

「君は、ハッキリと物を言うねえ。言っとくが、俺はムチャクチャ強いで」

「本当ですか?」

「ほんまやで。高校生の時なんか喧嘩けんか無敗むはいで、地元最強じもとさいきょうと良く言われたモンや」

「それは、議長が鬼だからでしょう?」

「いや、俺は、ほんまに強いねん。学生時代は、良く『鬼のように強い鬼塚』とか『無敵むてきの鬼塚』とか『鬼塚君は変なにおいがする』とか『鬼塚君のとなりせきいやです』とか『女子更衣室じょしこういしつまどからのぞ変態へんたい』とか言われとったんや」

「ちょっと、鬼が鬼のように強いのは当たり前でしょう。それに、後半は女子生徒からの苦情くじょうになってますよ」

 川島にまれた。

「えっ、そうなん」

「そうですよ」

「まっ、それは良いとして。京都から、新しいすけが来たので紹介しょうかいしよう」

「それは良いんですか!」

「議長は女子更衣室じょしこういしつのぞいてたんですか?」

「また、変なロボットじゃないでしょうね?」

 カンファレンス参加者から、いろんなみが入る。

「お前ら、ゴチャゴチャうるさいなぁ。ロボットじゃ無くて、アンドロイドのチャッピー君や」

「よろしく、僕チャッピー」

 普通の若い男性に見えるチャッピーが挨拶あいさつする。

「普通の人に見えますが」

「チャッピー君は、最新のテクロノジーでも作られた、かぎりなく鬼に近いアンドロイドや」

戦闘せんとう力は、どのぐらいあるんですか?」

「なんと、当社比較とうしゃひかくでは以前いぜんの鬼ロボの3倍や。チャッピー君が『国際電器保安協会』のやつらを、皆殺みなごろしにしてくれるそうや」

「それはたのもしいですな」

『大阪鬼連合団体』に、たのもしいすけあられた。



「待って下さいよ」

 桜田刑事が警察病院けいさつびょういん駐車場ちゅうしゃじょうに向かっているのを、狂四郎は追いかけていた。

 桜田刑事は無視むしして歩いていると、前方ぜんぽうに立っている白人の男がこちらに気付きづいて、向かって来た。

あぶない!」

 狂四郎は桜田刑事をばすと、向かって来た男と対峙たいじした。

「何者だ!」

「俺様は『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』のエージュントホルスだ。お前達には死んでもらう」

「そうは、させん!」

 狂四郎は刀をかまえ、円をえがくようにまわし出した。

新田家仙道にったけせんどう円月殺えんげつさつ』」

 と、わざの名前を言いながらホルスにりかかる。

ガチッ!

 ホルスは左腕ひだりうでで狂四郎の刀を受ける。

かたななど、われ強化人間きょうかにんげんには通用つうようしない」

 ホルスの右ストレートで顔面がんめんなぐられ、狂四郎はんだ。

「狂四郎君!」

 桜田刑事は狂四郎にる。

大丈夫だいじょうぶですよ」

 口から血を流しながら、狂四郎は立ち上がった。

「ゲフッ!」

 何故なぜか、ホルスが口から大量の血をいた。

 良く見ると、むねに穴がいている。

「やるな貴様きさま

「『円月殺』は刀でるのでは無く、相手を素手すでわざだ」

 刀での攻撃こうげきおとりで、仙道せんどう五指ごしに気を素手すでで相手の心臓しんぞうを、えぐり出したのである。

「くっ。あまく見ていた、勝負しょうぶあずけるぞ!」

 ホルスは、素早すばって行った。



「ただいま!」

 狂四郎は桜田刑事と元気良く宿舎しゅくしゃに帰って来た。

 桜田刑事は、自分をかばってホルスをはらった狂四郎に感激かんげきして、車にせてくれたようだ。

「おお、狂四郎。良かったな退院たいいん出来できて」

 岩法師が優しく出迎でむかえてくれた。

「お帰りでござる」

 意外いがいにも虎之助とらのすけも、ちゃんと出迎でむかえている。

「お帰り、狂四郎はん。今日は特別、桜田刑事と仲が良さそうでんなぁ」

 小太郎も玄関げんかんに出て来た。

「何を馬鹿ばかな事言ってるの!狂四郎君は『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』の殺し屋を、やっつけてくれたのよ」

「ちゃんと殺したのでござるか?」

 虎之助とらのすけは『国際電器保安協会』に対しては容赦ようしゃが無い。

「それが逃げられちゃって」

 頭をきなから狂四郎は答えた。

「アイツ心臓しんぞうを、えぐり出されても死ななかった、ものよ」

鬼並おになみみの生命力でんなぁ」

 小太郎が腕組うでぐみしながら感心かんしんしている。

「そうや。俺も修行しゅぎょうして式神しきがみを出せるようになったんです」

 小太郎は桜田刑事に近寄ちかよると、御札おふだを取り出し、何やらとなえ出した。

 桜田刑事の足元あしもとに、ゴキブリの式神しきがみあられた。

「きゃッ!」

ブチ!

 ゴキブリは桜田刑事のくつされた。

「ああっ、俺の式神しきがみが……」

 やぶれた式神しきがみ御札おふだを見て、小太郎は力なくすわんだ。

「ええっ!今のが小太郎君の式神しきがみだったの?ごめんなさい」

「小太郎、気を落とすな。しかし女性の前では、虫の式神しきがみは出さない方が良いぞ」

 岩法師になぐさめられるが、小太郎は落ち込んだままである。

「姉さんは、食事中にムカデの式神しきがみを見せても平気へいきやったのに」

虎之助とらのすけ特別とくべつだ。頑張がんばって練習すれば、哺乳類ほにゅうるい式神しきがみも出せるようになる」

「そうでござる。拙者せっしやもタヌキの式神しきがみを出せるようになるまでは、大変だったでござるよ」

「わかりました。俺は、セクシーギャルの式神しきがみを出せるようになるまで、頑張がんばりまっせ!」

 こぶしにぎりしめて、小太郎はさけんだ。

ーーこいつ、セクシーギャルが目当めあてだったのかーー

 桜田刑事と狂四郎は、あきれてだまってしまった。

「小太郎は、アホでござる」

 1人、虎之助とらのすけだけが大笑おおわらいしている。



 そのころ、火星では、銅鬼どうきがついに『山田タコ14世』を、真っ二つにり殺していた。

 反乱軍はんらんぐんの兵士達は『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』の復活ふっかつおそれ、剣をかまえたままである。

カタカタッ!っと、物音ものおとがした。

 以前から、宮殿にかざってあった年代物ねんだいものつぼゆれれている。

「何だ、このつぼは?」

 銅鬼どうきが近づくと、つぼから大量のけむりした。

「ジャンジャジャーン!」

 けむりの中から、小さな女の子が両手を広げて飛び出て来た。

「わたしパクチーよろしくね」

 一同いちどうは、呆然ぼうぜんつぼから出て来た女の子を見つめている。

「はあ、よろしく。あのぅ『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』は、どちらに?」

 おそおそる、銅鬼どうきが聞いた。

「おタマは、まだつぼの中で寝てるわ」

 どうやら、この女の子は『太陽系暗黒大魔王』の娘らしい。

「じゃ、お父様とうさまは、まだこの中にいらっしゃるのですな」

「おタマは、一度寝いちどねたら千年はきないから、あと500年は寝てるんじゃない」

「ああ、そうですか」

 銅鬼どうきまじ反乱軍はんらんぐんは、困惑こんわくしている。

「とりあえずふたをしてと」

 パクチーはつぼふたをして

「おタマは、うるさいと途中とちゅうで起きて不機嫌ふきげんになるから。とりあえず、ここではさわがないでね」

「そりゃあ、もちろん。しずかにしときますとも」

 『太陽系暗黒大魔王たいようけいあんこくだいまおう』が、不機嫌ふきげん状態じょうたいで起きて来られたら大変である。

 宿敵である『山田タコ14世』は倒したものの、銅鬼達には、新たな問題が発生してしまった。

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