第7話 国際電器法安協会が襲って来たでござる

  大阪市のあるホテルにラディッシュとナジャはた。

「バビエルのやつおそいな」

 ラディッシュは、しきりに時計を見ている。

 インド製のHMTの腕時計うでどけいである。

「アイツは馬鹿ばかだから、入国にゅうこく失敗しっぱいしたんじゃないかしら」

 ナジャはインド系のグラマラスな美女である。

「スマホもつながらないし、そうかも知れないな」

「もうバビエルは、ほっといて作戦さくせん実行じっこうしましょう」

仕方しかたない。遥々はるばるインドから来たんだ、手ぶらでは帰れんからな」

 二人がホテルから出ると、いきなり十人じゅうにんほどの男達にかこまれた。

「『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』の者だな」 そう言ったのは若林である。

「いえ、私達は『浪速なにわハミちん同好会どうこうかい』の者です。いそぎますので」

「そうでしたか。すいません、人違ひとちがいでした」

 若林は軽く頭を下げて謝罪しゃざいしたが

だまされるな。そんな会があるか!」

 と、黒瀬に怒鳴どなられてしまった。

貴様きさまだましたな!」

 だまされた事に激怒げきどした若林は、牛鬼ぎゅうきに変身して2人におそいかかる。

「やはり、お前ら鬼だったのか」

意外いがい情報じょうほうが早いわね」

 ラディッシュとナジャも戦闘せんとう態勢たいせいに入る。

「コイツらってまえ!」

 黒瀬の号令ごうれいと共に、鬼達が2人におそいかかった。



 大阪府警で『国際電器保安協会』の事を調べていた安倍顧問あべこもんは、意外いがいな事に気が付いた。

 自分の端末たんまつに入っている、DSP(デビルスペシャルポリス)の情報じょうほうが見られ形跡けいせきがある。

「誰だか知らないが、ファイル履歴りれきも消さないで、いい度胸どきょうだな」

 安倍顧問あべこもんが一枚の御札おふだを取り出して犬の式神しきがみを呼び出すと、チワワの様な小型犬の式神しきがみが出て来た。

「何だ、小さいのしか出ないな」

 安倍顧問が愚痴ぐちると。

「他の犬は、みんないそがしいんだワン」

 チワワの式神しきがみが答えた。

「まあ良い。これをさわったやつにおいを覚えてくれ」

 チワワに、端末たんまつのキーボードのにおいをがせる。

「この警察内に鬼か『国際電器保安協会』のスパイがるな。用心ようじんして端末たんまつのパスワードを変更へんこうしておかねばならんな」



 鬼対ラディッシュとナジャの戦いは、意外いがいにも、一方的いっぽうてきに鬼がいたけられる状態じょうたいとなっていた。

 強化人間きょうかにんげんであるラディッシュとナジャの強さはすさまじく、牛鬼ぎゅうきでさえ防戦ぼうせんするのが精一杯せいいっぱいである。

「何だ、意外いがいと弱いな」

皆殺みなごろしに、しましょう」

 鬼は次々と首を切られていく。

「これは、ヤバい」

 黒瀬も奮闘ふんとうするが、右腕みぎうでを切られてしまった。

「みんな!撤退てったいだ!」

 黒瀬はさけびながら逃げようとしたが、ラディッシュに左手をつかまれてしまった。

 他の鬼は、みんな首を切られてたおれており、かろうじて若林だけは、何とか逃げ切れたようだ。

ーーこれほど力のがあるとはーー

 さすがに黒瀬も今回は死を覚悟かくごした。

「お前も死ね」

 ラディッシュの手刀しゅとうが黒瀬の首を切断せつだんしようとした瞬間しゅんかん、ラディッシュの首が、ポトリと落ちた。

ーー何がこったんだ?ーー

 くずれる様にたおれたラディッシュの後ろに虎之助とらのすけが立ってた。

 どうやら、虎之助とらのすけ手刀しゅとうで首が切り落とされたようだ。

拙者せっしやのLINEを無視むしして、こんな所で遊んでいたのでござるか?」

「すいません、別に遊んでいたわけではないのですが」

ーーこんな状況じょうきょうでLINEって言われてもーー

 相手が虎之助とらのすけだけに、とりあえず黒瀬はあやまった。

 良く見ると、虎之助とらのすけはタヌキをれている。

「そのタヌキは何です?」

「お前を見つけるために、タヌキの式神しきがみを呼び出したでござる。おなかいたので、拙者せっしや中華料理ちゅうかりょうりおごるでござる」

「ちょっと、今は、それどころじゃ」

「何ふざけてるでござる!」

 虎之助とらのすけ不機嫌ふきげんになった。

「ふざけてるのは、お前だよ!」

 ラディッシュを殺されて、いかくるったナジャが向かって来る。

邪魔じゃまでござる」

 ナジャの手刀しゅとう虎之助とらのすけ手刀しゅとう交差こうさする。

 虎之助とらのすけのジャンバーが切れて、Tシャツが見えた。と、同時にナジャの首が落ちた。

「服がやぶれしまったでござる。新しい服もお前に買ってもらうでござる」

「えっ、服は私に関係ないと思いますが?」

「今すぐに殺されたく無ければ、おごるでござる!さては、拙者せっしやがAカップだからってめてるでござるな!」

「とんでもない、めてませんよ」

 黒瀬は切られた右腕みぎうでを急いで再生すると、自分の財布さいふを見た。あまり現金は入っていない。

ーー何とかことわれないかなーー

「すいません、今はわせが、あまり無くて」

 先に歩いていた虎之助とらのすけかえ

「何か言ったでござるか?早く来るでござる!」

 と、かなり不機嫌ふきげん口調くちょうで言った。

「いえ、クレジットカードがるので大丈夫です」

 しぶしぶ、黒瀬は虎之助とらのすけに付いて行くのであった。



 DSPの宿舎しゅくしゃでは、岩法師と小太郎が2人で昼食を食べていた。

虎之助とらのすけは、どうした?」

 岩法師は、落ち込んでいる虎之助とらのすけの事を気にしている。

「何や、出掛でかけはりましたけど」

「かなり落ち込んでたんで、式神しきがみの呼び出し方を教えたんだが」

「どんな式神しきがみでっか?」

虎之助とらのすけは、キツネの式神しきがみと仲が良かったんで、ているタヌキにした」

「タヌキでっか。どんな能力のうりょくなんです?」

嗅覚きゅうかくするどいので、尾行びこう人探ひとさがしなどだ」

「俺にも式神しきがみの呼び出し方を教えて下さいよ」

「教えるのは良いが、精神力せいしんりょくがかなりいるぞ。どんな式神しきがみが良いんだ?」

「セクシーギャルの式神しきがみが良いですね」

「かなりむずかしいぞ」

「えっ!ほんまにセクシーギャルを呼び出せるんでっか?」

 小太郎は、り出した。

「出せるよ」

「岩法師先生!おねがいします。出し方を教えて下さい」

 小太郎は、武士ぶしとしてのプライドを投げ捨て、岩法師に土下座どげざしてたのんだ。



 安部顧問あべこもんが大阪府警を出ようとした時、チワワが反応はんのうした。

「アイツからにおうワン」

「何っ!」

 チワワの言う方を見てみると、見知みしらぬ初老しょろうの男が署内しょないを歩いている。

「誰だ、あの男は」

 とりあえず、近くにいた顔見知かおみしりの警官けいかんに聞いてみる。

初老しょろうの男性ですか、どこにるんです?」

「あそこにるだろ、あの掲示板けいじばんの前だよ」

「誰もませんけど」

ーーなんだと、この警官けいかんには見えていない。もしかして、陰陽師おんみょうじの俺と式神しきがみのチワワにしか見えていないのか?ーー

 安部顧問あべこもんは、ゆっくりと初老しょろうの男に近付ちかづいて声をけた。

「アンタ何者だ?」

 男は安部の顔を見ると

「俺が見えるとは、たいしたもんだな」

 と、答えたながらスッと消えた。



「2人で、何してるでござるか?」

 虎之助とらのすけ宿舎しゅくしゃもどると、岩法師が小太郎に何か指導しどうしていた。

「あっ、姉さんお帰りなさい。岩法師先生から、式神しきがみの出し方を教わっているんですよ」

「こいつがセクシーギャルの、ウッ……」

 小太郎は、あわてて岩法師の口をおさえた。

「セクシーギャルが、どうしたのでござるか?」

「いえ、何でもありまへん」

 小太郎の手をはらいながら、岩法師が

「わかった、言わないから。とりあえず式神しきがみを出してみろ」

 と、指示しじする。

「まかしといて下さい」

 小太郎が御札おふだを持ちねんめると、小さい生き物があらわれた。

「やりましたよ、岩法師先生」

 小太郎はよろこんでいるが、良く見ると、ゴキブリであった。

「ゴキブリの式神しきがみなんて、拙僧せっそうは初めて見た」

 岩法師はあきれている。

「小太郎はアホでござる」

 虎之助とらのすけが笑っている。

ーーひさしぶりに虎之助とらのすけが笑った。小太郎もタマには役に立つではないか。くりすけの件から、ずっと落ち込んでたからなーー

 岩法師も笑いだした。

「笑わんといて下さいよ」

「いや、すまん。でも良いじゃないか小太郎。ゴキブリでも式神しきがみ式神しきがみだ、諜報ちょうほう活動とかに役立やくだつかも知れん」

「そうですよね」

 小太郎も笑った。



 日本テクロノジーコーポレーションの社長室で、鬼塚はアイコスをって、くつろいでいた。

失礼しつれいします」

 と、言いながら、川島と黒瀬が入って来た。

「どうやった?」

「『国際電器保安協会』のエージェントは、2人とも死にました」

 黒瀬が報告ほうこくする。

「そうか、ご苦労くろう

「ただ、社長。2人をったのは我々われわれでは、ないんです。とにかく『国際電器保安協会』の2人は強くて、我々が全滅ぜんめつしかけた時に、通りがかったDSPの小娘に瞬殺しゅんさつされたのです」

「何やて」

「私と若林以外は『国際電器保安協会』の2人に殺されました」

「大変やな」

「その2人を小娘が瞬殺しゅんさつしたんです」

「そうなんや」

「社長、今日は何か、テンションが低いですね」

 川島が心配して言った。

「ちよっと最近鬱うつ気味ぎみなんや」

「ストレスですか?」

「それが、娘がユーチューバーになりたいって言い出してな」

「へえ、娘さんがエクスカリバーに」

「いや、ユーチューバーや!エクスカリバーって何やねん!」

「アーサー王の伝説でんせつけんですけど」

「アホか!娘が、そんなんになりたいって言い出したら、もうヤバいやろ。俺が言うてるのは、ユーチューバーや!動画どうがを作ってネットに流すやつや」

「ああ、最近さいきん流行はやりりの、スマホやパソコンで見れる面白おもしろ動画を作製さくせいする人ですね」

「そうや。それでなやんでんねん」

「そういえば、ウチの息子もプロゲーマーになりたいって言ってました」

最近さいきんは、ゲーマーのプロもあるんや。俺もテトリスやったら上手うまいねんけどな」

「私も、将棋しょうぎゲームやったら自信じしんあるんですけどね」

将棋しょうぎは、昔から普通にプロがあるやろ」

「そう言えば、そうですね」

「ちょっと、お二人とも、話がそれて来てますよ!もっと重大な話があるでしょう」

 2人の会話を聞いていた黒瀬が我慢がまん出来できずに言った。

「なに言うてるねん、俺の娘がエクスカリバーになる事より重大な事なんか無いわ!」

「社長、エクスカリバーじゃなくてユーチューバーでしょう」

 川島がむ。

「ああ、そうか。ユーチューバーやったら別に、なっても良いわ」

「そうですよ、ユーチューバーやプロゲーマーでしたら、エクスカリバーになられる事を考えれば、立派りっぱな職業ですから」

「そうやな。エクスカリバーよりユーチューバーやな。じゃ、今日はこれで解散かいさん

「おつかさまでした」

 鬼塚と川島は帰って行った。

 1人残された黒瀬は、指導者しどうしゃである鬼塚と川島のアホさを加減かげんを見て

「俺も田舎いなかの岡山に帰ろうかなぁ」

 と、つぶやいた。



 そのころ、火星では、銅鬼どうきひきいる反乱軍はんらんぐん連戦連勝れんせんれんしょうしており、『山田タコ14世』をめていた。

陛下へいか、お逃げ下さい。反乱軍はんらんぐんがすぐそこまでせまっています」

 王宮おうきゅうの兵士が、あわてて走って来た。

 しかし『山田タコ14世』は、意外いがいと落ち着いており

「そんなん、どうでも良いやないか〜い」

 と、言いながらワインを飲んでいる。

 まわりりの貴族きぞくや兵士達は、あきれて、逃げて行ってしまった。

 反乱軍はんらんぐん王宮おうきゅうの中に、なだれみ『山田タコ14世』は一人取ひとりとかこまれてしまうが、何故なぜだか平然へいぜんとワインを飲んでいる。

覚悟かくごしろ『山田タコ14世』!」

 銅鬼どうきやりを、高くかかげてさけんだ。

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