第6話 バビエル・ロドリゲス登場でござる

伊賀いがくりすけ虎之助とらのすけは、対峙たいじしており。まさに、超一流の忍者にんじゃ同士どうし死合しあいが始まろうとしていた。


「いかに、お前が5万年に一人の逸材いつざいでも、拙者せっしゃには、まだ教えていない秘術ひじゅつがある。拙者せっしやが負ける事は、決して無い!」

 くりすけは刀をさやおさめると、何やら呪文じゅもんようなものをとなえ出した。

 すると、くりすけ身体からだいくつも分裂ぶんれつして行き、合計七体のくりすけあらわれた。

「これぞ、イガグリ忍法にんぽう北斗死殺ほくとしさつじゅつ』だ、このじゅつからのがれた者は、15人しかおらん!」


ーー15人もるのよかよ!ーー

 かくれて見ている霊鬼れいきは、思わず声に出しそうになった。


流石さすがは、お師匠ししょう様。やるでござるな。まるで、北斗神拳ほくとしんけんみたいでござる」

 虎之助とらのすけは、感心かんしんしている。


「では、拙者せっしやじゅつを出すでござる。このじゅつから、のがれられなかった者は、一人もないでござる」

 虎之助とらのすけも何やらとなえ出した。

 すると、虎之助とらのすけが着ている服が変化して、ピンクのセーラ服となり、かたなは丸い玉が付いたぼうに変わって、魔法セーラ戦士ポピリンに変身した

「じっちゃんの名にかけて、お仕置しおききでござる!」

 と、さけんだ。


ーー全員に逃げられてるやん!じっちゃんって誰だ?ーー

 こいつら、アホすぎる。霊鬼れいき必死ひっしに口をおさえて、出そうになる声をおさえた。


流石さすがは、高弟こうていであるな、すさまじいじゅつだ。だが、お遊びはここまでだ。そろそろ、死んでもらうぞ」

 くりすけは、一体にもどると、ゆっくりと円をよう近付ちかづいて来る。


拙者せっしやは、戦いたくないでござる」

 虎之助とらのすけは、まだ、魔法セーラ戦士ポピリンの姿のままである。


「イガグリ忍法にんぽう金剛鉄こんごうてつ』のじゅつ。このじゅつを使用している間、拙者せっしや身体からだはがねよりかたくなり、いかなる攻撃こうげきかない。生涯無敗しょうがいむはいじゅつだ」

 走りながらも、くりすけこぶしは、虎之助とらのすけ心臓しんぞうねらって向かって来る。


ーーお師匠ししょう様は、本気ほんきでござる。このままではられるーー

 そう感じた虎之助とらのすけは、修業しゅぎょう時代じだいの事を思い出した。

「良いか虎之助とらのすけ万物ばっぶつすべて大地から生まれて来る。このはがねよろいですら、もとは鉄をふくんだ石から作るのだ。そして、いずれは大地にもどり土にかえる」

 幼少ようしょう時代じだい虎之助とらのすけは、くりすけの話を真剣しんけんに聞いている。

「よって、この世にこわせぬ物は無く、すべてての物は、土にかえす事が出来できるのである。修行しゅぎょうめば、手刀しゅとうで、このよろいつらぬく事が出来できる」

「では、お師匠ししょう様は、このよろいつらぬけるのでござるか?」

 くりすけは、近くの岩に深々ふかぶか手刀しゅとうして

「今の拙者せっしやうででは、この岩までだが、技術ぎじゅつきわめれば、どんな物でも手刀しゅとうつらぬけるようになる。このはがねよろいも、いずれは土にもどる物だ、つらぬけぬわけがない」

 と、説明する。

すごいでござるね」

 虎之助とらのすけは、尊敬そんけい眼差まなざしで、くりすけを見ている。


 気が付くと、自分の手刀しゅとうが、くりすけむねつらぬいていた。

「お師匠ししょう様……」虎之助とらのすけは、泣いていた。


 死合しあいが終わったのを見届みどどけると、霊鬼れいき実体じったいあらわして近付ちかづいて来た。

 上着のポケットから、何が取り出すと

「これを、使いな」

 と、虎之助とらのすけにハンカチを渡す。

「かたじけないでござる」

 ハンカチを受け取って、虎之助とらのすけは泣き続けた。


ーーこれじゃ、とても殺すどころじゃないわーー

 泣きじゃくる虎之助とらのすけを後ろに、霊鬼れいきって行った。



 桜田刑事達が到着とうちゃくした時には、狂四郎が救急車きゅうきゅうしゃ搬送はんそうされる所であった。

 どうやら、虎之助とらのすけんだようだ。

大丈夫だいじょうぶ?狂四郎君!」

 桜田刑事がけ寄るが、返事は無く、救急隊員きゅうきゅうたいいん搬送はんそうされて行った。

 後は、たおれているくりすけそばで、泣きじゃくる虎之助とらのすけだけである。

「姉さん!何があったんです?」

 小太郎が虎之助とらのすけに聞くが、虎之助とらのすけは泣き続けている。

くりすけは、息絶いきたえている」

 岩法師が、くりすけ近寄ちかよ確認かくにんした。

 桜田刑事と岩法師には、安倍顧問あべこもんからの情報じょうほうで、何が起こったのかさっする事が出来できたが、小太郎には、さっぱりわからない。

「小太郎。虎之助とらのすけは、そっとしておいてやれ」

「はい」

 そう言われ、小太郎も虎之助とらのすけ様子ようすを見て、何かを感じ、虎之助とらのすけからはなれた。



 ビジネス街の高層ビル最上階では『大阪鬼連合団体』の臨時りんじカンファレンスが行われていた。

 議長は、鬼塚である。

「今日はみなさんに、大切なお知らせがあります」

「やっと、あの小娘を殺ったんですか?」

 中年の男が聞いた。

全然ぜんぜんちがいます。霊鬼れいき姉さんから、『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』と言う組織そしきが、鬼と転生者の抹殺まっさつした、との情報じょうほうがありました」

「『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』とは、どんな組織そしきなのですか?」

「それが、良くわからんねん」

「鬼をふくめた、異能者いのうしゃ排除はいじょが目的の国際的組織こくさいてきそしきのようですね」

 川島が説明せつめいする。

「そんな組織そしきが、あったのですね」

 カンファレンスの参加者達は、おどろいている。

「何でも、中世ヨーロッパの魔女狩まじょがりの時代から、あるそうです」

 川島はくわしく知っているようだ。

「えらい昔から、あんねんなぁ」

「それが日本にまで進出して来るとなると、対応たいおうを考えねばなりません」

「そうやなぁ」

悪魔払あくまばらいや吸血鬼きゅうけつき退治たいじもしていたそうです。鬼は英語にやくすとデビルですから、当然とうぜんねらわれます」

「俺らも悪魔払あくまばらいされるんか、いややなぁ。そう言えば、霊鬼れいき姉さんがDSPにも『国際電器保安協会』のメンバーがもぐんでいて、れいの小娘に始末しまつされたそうや」

「それで、結局けっきょく霊鬼れいきさんは、小娘をたおせたのですか?」

 若い男性がたずねた。

「何か、一度負けたらしいねんけど、霊鬼れいき姉さんは、そのまま田舎いなかに帰ってもうた」

「あの、質問しつもんがあるんですけど」

 先ほどの、若い男性が手をげた。

「なんや」

「小娘に負けた鬼は、よく田舎いなかに帰りますけど、田舎いなかって、いったい何処どこなんです?」

「さあ、岡山県とかちゃう」

「昔話で、鬼ヶ島とか、ありますもんね」

「じゃ、鬼は全員、岡山県出身なんですか?」

「そうちゃうの」

「鬼の田舎いなかは、秋田県じゃないですか?」

「それは、『なまはげ』や」

『大阪鬼連合団体』の臨時りんじカンファレンスは、特にるものも無く、続くのであった。



 安倍顧問あべこもんは大阪に到着とうちゃくすると、すぐに警察病院けいさつびょういんへ向かった。

 何とか一命いちめいをとり止めた狂四郎の病室に入ると、桜田刑事が待っていた。

「狂四郎の容態ようだいは、どうだ?」

された後、すぐに仙道せんどうで出血をおさえたみたいで、命に別状べつじょうは無いそうですが、しばらくは入院が必要だそうです」

「話せるか?」

「今は寝ていますが、会話は大丈夫だいじょうぶです」

「何が起こったのか、くわしく聞きたいのだが」

「とりあえず、私が知ってる事を話しますね」

 桜田刑事は、岩法師と狂四郎・虎之助とらのすけから、それぞれ事情じじょうを聞いており、大体だいたいの事は把握はあく出来できた。

虎之助とらのすけは、今どうしてる?」

相当そうとう落ち込んでるみたいで、宿舎しゅくしゃの自分の部屋で、ずっとテレビで野球やラグビーを見ています」

おそらく、現実逃避げんじつとうひしているのだろう。今まで、ほとんど興味きょうみが無かった物を熱心に見て気をまぎららわせているのだと思う。しかし、その『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』と言う組織そしきが、気になるな。少し調べてみる」

 安倍顧問あべこもんは、病室を出ようとした。

「どちらに行くのですか?」

「まず、大阪府警に行って、手掛てがかりが無ければ警視庁けいしちょうる弟に聞いてみるつもりだ」

 そう言うと、安倍顧問あべこもんは行ってしまった。



「桜田刑事……」

 狂四郎が目をました。

「どうしたの?狂四郎君」

「すいません、僕が油断ゆだんしてたんで大袈裟おおげさな事になってしまって」

「ごめんなさい。くりすけの事は、安倍顧問あべこもんから電話で気を付けるように、言われていたのに、アナタにつたえていなくて」

「いえ、実は、始めから僕は、くりすけあやしんでいたのです。僕ら仙道士せんどうしは、直感ちょっかんうそ見抜みぬける事があるので。ただ、京都DSPの人を、うたがっている事を口外こうがいするとマズいのでだまっていたのですが」

仙道士せんどうしってすごいわね」

「僕は、まだ未熟またみじゅくです。さっき誰か来てませんでしたか?」

安倍顧問あべこもんが来てたけど、アナタを起こすのは遠慮えんりょしたみたいね」

「確か、あの人は、警察の顧問こもんですよね?」

「そうよ」

「僕をした後、くりすけが『警察内にも『国際電器保安協会』のメンバーがるって言ってました」

「なんですって!」



 関西国際空港かんさいこくさいくうこうに向かう旅客機りょかっきに、その男はっていた。

 ジャンボジェット機の座席ざせきせまいようで、居心地いごこち悪そうにすわっている、筋肉質きんにくしつの大男である。

「もうすぐ関空かんくうか」

 タイメックス社の腕時計うでどけいを見ながら、つぶやく。

 彼は、出来できるなら母国製ぼこくせいの物を、使用したいという愛国心あいこくしんの強い男である。

 腕時計うでどけいもアメリカ製の物を使うようにしているのであるが、現在のアメリカは、腕時計うでどけいを作っているメーカーが少なく、タイメックス社かスマートウォッチかの2たく状態じょうたいであり、仕事柄しごとがら衝撃しょうげきに強いタイメックス社製を愛用している。

 彼は『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』のエージェントである。

 しかも、異能力者いのうりょくしゃ対抗たいこうするため戦闘用せんとうよう骨格こっかく筋肉きんにくに強化手術をほどこした強化人間きょうかにんげんである。彼は身体からだの、ほとんどが強化きょうかされており、もはやサイボーグと言っても、さしつかえない。

 名を、バビエル・ロドリゲスと言い、ロサンゼルスから、日本の異能者いのうしゃ抹殺まっさつするために、やって来たのである。

ーー日本のデビルと異能者いのうしゃ皆殺みなごろしにしてやる。殺し終わったら、アニメグッズを、いっぱい買って帰ろうーー

 バビエルは笑みをうかべ、魔法セーラ戦士ポピリンのフィギュアを買っている自分の姿すがた想像そうぞうした。

 愛国者あいこくしゃのバビエルではあるが、日本のアニメとコミックも愛するオタクでもあった。

 空港に着いて、ゲートを通ろうとした時、金属探知機きんぞくたんちきのブザーが、けたたましくった。

ーーしまった!俺の身体からだは、半分はんぶん機械きかいだったーー

「お客様、ちょっとこちらへ」

 警備員けいびいん別室べっしつに連れて行かれそうになった。

「ワタシ、日本語わかりませ〜ん」

 と、誤魔化ごまかしたが、当然とうぜんの事ながら無駄むだであった。


 バビエルは、アメリカに強制送還きょうせいそうかんされた。

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