第5話 イガグリ頭の伊賀者でござる


「はぁ」

 スーパーのレジ打ちのパート中に、霊鬼れいきは、ためいきをついた。

 また、失恋しつれんしてしまったのだ。

 パチンコで負けてばかりいる彼氏かれしが、暴力をるって来たので、軽くはたいたら窓ガラスをって、ぶっ飛んで行ってしまった。

 それ以来、3日も連絡がなく、コチラから電話しても出てくれない。おそらく逃げられたのだろう。



「この、グレープグミは、美味おいしそうでござる」

「いや、姉さん、この『男汁おとこじるグミ』の方が良いんちゃいますか」

 高校生ぐらいの若い男女が、楽しそうにお菓子かしを選んでいる。

「小太郎こそ、この『豚肉味ぶたにくあじアイス』を買うでござる」

「そんな、キモい物、嫌ですわ」

 2人で、ゲラゲラ笑いながら、お菓子かしを選んで楽しんでいる。

ーー何か、この2人ムカつくわーー

 失恋したばかりの霊鬼れいきにとっては、腹立はらだたしい光景こうけいである。

「オバはん、コレおくれ」

 男の方が、レジにお菓子かしを持って来た。

ーーオバはん、って。こいつ後で殺すーー

 霊鬼れいきはレジを打ちながら、どこかで見た娘だと思い、考えてみた。

ーー誰だったかなぁ…………そうや思い出した、鬼塚が言ってた小娘や!ーー



「みんな、紹介しょうかいするわ。京都DSP[デビルスペシャルポリス]から来た、伊賀いがいがくりすけさんよ」

 DSPでは、不在ふざいである安倍顧問あべこもん左近さこんの代理として、京都DSPから転生者が応援おうえんに来たのである。

 紹介しょうかいされた転生者は、イガグリ頭のえない中年男である。

拙者せっしやが、伊賀栗いがくりすけだ。よろしくお願いしもうす」

「俺は、小太郎、最強の剣士です。こちらが虎之助とらのすけ姉さん、って姉さんませんやん」

虎之助とらのすけは、何処どこに居るのよ?」

 桜田刑事と小太郎が、食堂まで探しに行くと、虎之助とらのすけがテーブルにすわって、スマホの動画を見てゲラゲラ笑っている。

「姉さん、何の動画を見てはるんでっか?」

「桜田と狂四郎が、カフェで、タピオカミルクティーを飲んでいる動画を見ていたでござる」

「どこから、そんな動画が」

 顔を真っ赤にしながら、桜田刑事は虎之助とらのすけからスマホを取り上げた。

「こんな動画は、消去します」

ひどいでござる。せっかく式神しきがみのキツネにたのんでってもらったのに」

「ちょっと岩法師さん!何でキツネを虎之助とらのすけすのよ?」

「いや、拙僧せっそうは知らなかった。何故なぜか最近、キツネと虎之助とらのすけの仲が良いと思ってはいたのだが」

「なるほどね。桜田刑事と狂四郎は出来できてはったんか。知らんかったわ」

 小太郎が感心していると、桜田刑事の左フックが小太郎のアゴ的確てきかくにとらえた。

バキッ!

出来できて無いわよ!」

「クフッ」

小太郎は、その場にくずれ落ちた。

「小太郎!大丈夫でござるか?」

「だっ、大丈夫では、ありまへん、脳がやられました」


「あのぉ、拙者せっしゃ紹介しょうかい途中とちゅうなんだけど」

 伊賀いがが、遠慮えんりょしながら言った。

「すいません、見苦みぐるしい所を見せてしまって」

 桜田刑事は、赤くなったままあやった。

あらためて紹介しょうかいするわ。伊賀栗いがくりすけさんよ」

「お師匠様ししょうさま!」

 いきなり、虎之助とらのすけくりすけきついた。

 まわりりは全員、唖然あぜんとしている。

「いきなり、お師匠ししようと言われても。誰だね、この娘は?」

唐沢虎之助からさわとらのすけでござるよ!」

唐沢虎之助からさわとらのすけ?はて、拙者せっしやが知ってる虎之助とらのすけは、確か男であったが」

「転生したら、何故なぜか妹の千代ちよの姿になってたでござる」

「なんと!そう言えば、おぬしには、妹がると言っておったな」

「そうでござる。見た目は千代ちよだが、中身は虎之助とらのすけでござる」

「そうだったのか、虎之助とらのすけ。たくましくなったな。と言うより、小さくて貧弱ひんじゃくになったな」

くりすけさんって、虎之助とらのすけ師匠ししょうだったの?」

 桜田刑事達はおどろいている

「どうやら、そのようですな」

 くりすけは、とまどいながら答えた。

「姉さんの、お師匠ししようか、すごい人なんやろな」

「お師匠ししよう様は、イガグリ頭の伊賀者いがものと言われるほどの、伝説でんせつ忍者にんじゃだったでござる」

「その説明では、イマイチすごさが分からんが、良かったな虎之助とらのすけ師匠ししよう再開さいかい出来できて」

 岩法師がやさしく言った。

 虎之助とらのすけうれしそうに、ニコニコしている。

「姉さん、良かったでんなぁ」

 小太郎も笑顔である。

安倍顧問あべこもん左近さこん君が不在ふざいの間は、このくりすけさんがてくれるから、みんなよろしくね」

 桜田刑事が、あらためてくりすけ紹介しょうかいした。

「まあ、拙者せっしやが来たからには、戦艦大和せんかんやまとのような、大船おおぶねに乗ったつもりでてくれたまえ」

「お師匠ししよう様は、タイタニック号並みの大船でござる」

 虎之助とらのすけは、大喜びである。

ーー馬鹿ばかか、戦艦大和せんかんやまとにタイタニックって。両方共りょうほうともすぐしずんでるしーー

 狂四郎は、何故なぜだか嫌な予感よかんがした。

「どうしたの、狂四郎君。元気が無いみたい」

 桜田刑事が、心配して声をけた。

「ええ、ちょっと気分がすぐれなくて。少し休めば大丈夫だいじょうぶと思います」



 奈良の飛鳥あすかでは、安倍顧問あべこもん左近さこん修業しゅぎょうはげんでいた。

「どうだ左近さこん式神しきがみの調子は?」

「順調です」

「そうか。お前の集中力しゅうちゅうりょくならおぼえも早いだろう」

「ある程度ていど式神しきがみなら出せるようになりましたよ」

「さすがだな。俺の思っていた通りだ」


 そんな2人を、あやしい男たちが監視かんししていた。

 奈良の鬼武者おにむしゃ部隊ぶたい牛鬼ぎゅうきこと若林である。

やつら、わざわざ奈良まで来て修業しゅぎょうするとは、良い度胸どきょうだな」

 鬼武者おにむしゃのリーダーかくである、加藤である。

「何やら式神しきがみを呼び出しているようですね」

 若林は、慎重しんちょうに2人を観察している。

「今、全員で、かかればたおせます。やりましょう」

 鬼武者おにむしゃの一人が提案ていあんする。

るか」

 加藤は決断けつだんした。


左近さこん、何か感じないか?」

「ええ、するどい殺気を感じます。おそらく鬼どもでしょう」

「来るぞ!」

 安倍顧問あべこもん左近さこんかまえた。


左近さこん。良く見ておけ。俺の最強の式神しきがみを呼び出す」

 安倍顧問あべこもんは一枚の御札おふだねんめ、鬼の方に向かって投げた。

 御札おふだは、みるみるうちに巨大なりゅうのような姿になり、鬼武者おにむしゃ達をおそい出した。

「何ですか、あの式神しきがみは」

「オロチだ。ここのような、広い場所でしか使えんがな」

 オロチを見て、若林も牛鬼ぎゅうきに変化し戦闘せんとうくわわった。

 牛鬼ぎゅうきがオロチをおさえている間に、鬼武者おにむしゃ達は、こちらをおそって来る。

「私もやってみます」

 左近さこん複数ふくすう御札おふだを取り出しねんめると、3体の天狗てんぐが現れ鬼武者おにむしゃおそいかかる。

「一度に3人も出すとは、やるな」

 安倍顧問あべこもん感心かんしんした。

安倍あべさんの、指導しどうのおかげです」

 鬼武者おにむしゃ天狗てんぐ安倍あべ左近さこん戦闘せんとうが始まる。

 左近さこんは、河童かっぱ式神しきがみも3体出して、安倍顧問あべこもんおどろかした。

 左近さこん天狗てんぐ河童かっぱ戦闘せんとう力はすさまじく、鬼武者おにむしゃ達を圧倒あっとうし始めた。

 やっとの事で、オロチをたおした牛鬼ぎゅうきが、鬼武者おにむしゃ達の加勢かせいに来たが、安倍顧問あべこもんあらたに、巨大武者きょだいむしゃ式神しきがみを出したところで、鬼武者おにむしゃ達は戦意せんいうしなった。

一旦いったん、引くぞ」

 加藤の号令ごうれいともに、鬼武者おにむしゃ達は逃げ出した

「情けないやつらだ」

 若林も、しぶしぶ退却たいきゃくして行った。


「やったな、左近さこん

「ええ」

 と、返事はしたものの、左近さこんは、精神力せいしんりょくを使いたしてたおれこんだ。

おそろしく上達じょうたつしたな。後は持続力じぞくりょくさえ付けば完璧かんぺきだ」

 安倍顧問あべこもんは、左近さこん上達じょうたつの早さに感心かんしんしたが、ふと、不安ふあんがよぎった。

 大阪支部にも、襲撃しゅうげきがあるかもしれない。

一応いちおう、大阪にも連絡しておくか」

 スマホを取り出し、桜田刑事に電話をかけた。



 安倍顧問あべこもんから電話を受けた桜田刑事は

「一度、阿倍野あべのに鬼が出たけど、虎之助とらのすけが、やっつけたから心配いりませんよ」

 と、答えた。

虎之助とらのすけが……」

「それに、京都から、伊賀栗いがくりすけと言う転生者が応援おうえんに来てくれているので、しばらくは大丈夫だいじょうぶと思います」

くりすけだと!」

「何か問題でも?そうだ。くりすけさんは転生以前てんせいいぜんは、虎之助とらのすけ師匠ししょうだったそうですよ」

「何だと!」

「どうしたんです?何か様子ようすが変ですけど?」

「京都のやつら、厄介払やっかいばらいしやがったな」

「どう言う事です?」

くりすけは、うでは立つが、一緒いっしょに行動した同僚どうりょうが、不振ふしんな死をげる者が多く、京都DSPでは、要注意人物ようちょういじんぶつになっている」

「何で、そんな人を応援おうえんに?」

証拠しょうこが無いからだ。手強てずよい鬼が多い京都では、くりすけを使い続けるのは、リスクが高い。だからと言って、証拠しょうこも無いのに解任かいにんするわけにもいかない」

「でも、同僚どうりょうの死とくりすけさんは、無関係むかんけいかもしれないですよね?」

「確かに、そうだ。だからこそ厄介払やっかいばらい、されたのだ」

「どうしますか?」

「俺だけでも、出来できるだけ早くもどる。それまで、岩法師の式神しきがみくりすけ見張みはらせておいてくれ」

「わかりました」


 電話を切ると桜田刑事は、岩法師にだけ安倍顧問あべこもんからの指示しじつたえ、式神しきがみのキツネに、くりすけ見張みはるよう手配てはいした。

 そんな時に、大阪府警の近隣きんりんに鬼が出現しゅつげんしたと言う情報が入った。

「みんな出動しゅつどうよ!」

 こんな時であるが、鬼が出たとなるとDSPは、出動しゅつどうしなければならない。

 電話で岩法師につたえ、不安ふあんかかえながら、桜田刑事は現場に向かった。



 居残いのこりメンバーを全員引き連れて、岩法師が現場に到着とうちゃくすると、十人程じゅうにんほどの鬼が、たむろしている。

「これは、わなだな」

くりすけが言った。

「どんなわなだ?」

 岩法師は、桜田刑事から事情じじょうを聞いていたので、くりすけの事を、信用していない。

「全員、殺せば分かるだろう」

 くりすけは、鬼の集団にんで行く。

「お師匠ししょう様!虎之助も行くでござる!」

 虎之助が、くりすけに続き、小太郎、狂四郎も続いた。

 くりすけの強さはすさまじく、一瞬いっしゅんで2体の鬼の首を落とし、3体目にかかろうとした時。鬼達は一斉いっせいに逃げ出した。

「待て!」

 くりすけは追う。それを虎之助とらのすけと狂四郎が追った。

 小太郎も追うが、鬼達が速すぎて、途中とちゅう脱落だつらくしてしまった。


 鬼を追う虎之助とらのすけと狂四郎の前に、突然とつぜん、美女があらわれた。霊鬼れいきである。

「おじょうちゃんは、私が相手してあげるわ」

「おぬしも、鬼でござるか」

 虎之助とらのすけは刀をかまえる。

「俺も相手してくれよ」

 狂四郎は、霊鬼れいきの美しさに目をうばわれいる。

「アンタには用が無いから、あっち行って!」

「ちぇ!」

 軽くあしらわれ、狂四郎は美女をあきらめて、くりすけを追うことにした。

拙者せっしゃねらっていたでござるね」

「そうよ、あの鬼達はおとりよ」

 と、霊鬼れいきが言った瞬間しゅんかん虎之助とらのすけに首を切られた。

 が、切った感触かんしょくは無く、霊鬼れいきの首はつながっている。

「おぬし霊体れいたいでござったか」

 虎之助とらのすけ緊張きんちょうが走った。

霊体れいたいの私をたおせる者などないわ」

 霊鬼れいき余裕よゆうである。

面倒めんどうでござるね」

 虎之助とらのすけは、霊鬼れいき腹部ふくぶ手刀しゅとうを向けて

唐沢家忍術からさわけにんじゅつ火遁かとんじゅつ」』

 と、となえた。

「火などで、霊体れいたいのアタシを、たおす事など出来できないわよ」

「これは、ただの火では無いでござる。悪霊あくりょうをも焼きくす、加具土命カグツチほのお』でござる」

「何ですって!お前のような小娘が、なんで、そんな高度なじゅつを使えるのよ!!」

 霊鬼れいき身体からだは、燃え初めている。

「熱い!」

 必死ひっしに、ほのおを消そうと手ではたくが、ほのおは消えず、霊鬼れいき苦痛くつうの表情をうかべた。

「助けて」

 小さな声で、霊鬼れいきが助けをもとめた。

パン!

 虎之助とらのすけが、両方の手のひらを強くたたくと、今まで霊鬼れいきいていたほのおが、とたんに消えた。

何故なぜ、助けてくれるの?」

 霊鬼れいき不思議ふしぎそうな顔をしている。

「おぬしが、『助けて』って言ったのでござる。では、拙者せっしやは急ぐのでこれで」

 そう言うと、虎之助とらのすけは走って行ってしまった。



 桜田刑事が現場に到着とうちゃくすると、岩法師と小太郎しかなかった。

「他のメンバーは、どうしたの?」

 岩法師は、今までの経緯けいいを話し

「今、しがたまで、キツネがくりすけ監視かんししていたのだが、キツネの気配けはいが消えた。おそらく殺されてしまった」

 と、力なく答えた。

「何ですって!」

ーー何かマズい事が起きそうだわ。とにかく、くりすけを追わなければーー



 狂四郎が追いついた時には、鬼は全員、くりすけに首を切らてたおれており、くりすけは、まだかたなを持ったまま立っている。

 どうやら、最後の鬼をたおしたところのようだ。

「さすが、京都からのすけだ。やりますね」

 狂四郎は感心かんしんして、くりすけに近づいて行った。



 安倍顧問あべこもんは、急いで電車に乗り込み、大阪に向かっていた。

 要注意人物ようちょういじんぶつの、くりすけと、正体不明の虎之助とらのすけ師弟してい関係にあったとは、いや予感よかんしかしない。

 普段ふだんは、速いと思っていた大阪行きの電車が、やけに遅く感じる。

ーー俺の、まわぎであれば良いのだがーー



 やっと、くりすけの所に、虎之助とらのすけ到着とうちゃくした。

「お師匠ししょう様、大丈夫だいじょうぶでござるか」

 くりすけ足元あしもとに、狂四郎が腹部ふくぶから血を流してたおれている。

「狂四郎!」

 虎之助とらのすけは、急いで狂四郎にって声をけた。

「そいつは、鬼にられた」

 くりすけ当然とうぜんように言った。

 狂四郎の容態ようだいを見ながら、虎之助は、くりすけ足元あしもとに、切られて落ちている御札おふだを見た。

ーー確か、これは式神しきがみのキツネの御札おふだでござる。誰かにられようでござるーー

「これは、鬼の仕業しわざでは、ないでござるな」

 虎之助とらのすけは低い声で言った。

「何を言うんだ虎之助とらのすけ。鬼以外に、誰が狂四郎を殺すと言うのか?」

「お師匠ししょう様!何故なぜ、狂四郎をしたのでござる」

馬鹿ばかな事を言うな!拙者せっしや味方みかたの狂四郎を、わけがなかろう」

「この腹部ふくぶきずは、鬼の物では無いでござる。お師匠ししょう様の刀のきずでござる」

「くっ、後で鬼の金棒かなぼうを、しておこうと思っていたが。そうだ、拙者せっしやがこいつをした。さすがに、お前の目は誤魔化ごまかせんな」

 くりすけは、開き直って、虎之助とらのすけに対してかまえた。

何故なぜ、狂四郎をしたで、ござる?」

 虎之助とらのすけも刀に手をかける。


ーー何だか、変な展開てんかいになって来たわねーー

 虎之助とらのすけの後方に、霊体化れいたいかした霊鬼れいきる。こっそり後を付けて来ていたのだ。

 焼かれた部位は、すでに治癒ちゆしており、姿すがたを完全に消してすきをみて、虎之助とらのすけを殺そうと思っていたのだが、なにやらDSPで仲間割なかまわれが始まっているではないか。

ーー敵同士てきどうし仲間割なかまわれは良いけど、あのイガグリ男は、何故なぜ、仲間をしたのだろう?ーー

 くりすけの行動には、敵である霊鬼れいき興味きょうみを持った。


虎之助とらのすけよ、これから鬼も転生者も、全員死ぬ事になる」

 くりすけは、虎之助とらのすけ対峙たいじしている。

「何を、言っているのでござるか?」

「『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』が動き出したのだ、彼らは鬼や異能力者いのうりょくしゃ存在そんざいを、排除はいじょする巨大国際組織きょだいこくさいそしきだ」

「そのダサぎる名前の組織そしきと、お師匠ししょう様と、何の関係があるのでござるか?」

排除はいじょされたくなければ『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』に忠誠ちゅうせいちかうしかない。拙者せっしやは転生してすぐに忠誠ちゅうせいちかった。彼らの力は巨大だ、鬼や警察も彼らの前では無力だ」

「お師匠ししょう様は、DSPを裏切うらぎったのでござるか」

「お前も仲間になれ『国際電器保安協会こくさいでんきほうあんきょうかい』に入らねば、死んでもらわなければならない」

「名前がダサいから、嫌でござる!」

「また、負けいくさをするつもりか。転生前に大阪方おおさかがたいて、徳川とくがわ敗北はいぼくし殺されたのを忘れたか?」

「忘れてはござらんが、そんな、ダサい名前の組織そしきには、入らないでござる!」

「では、死んでもらう」

くりすけは刀をかまえ、虎之助とらのすけの方に向かって来る。

「いかに、お師匠ししょう様といえど、拙者せっしやたおせぬ。拙者せっしやは5万年に1人の逸材いつざいでござる」


ーー何なの『国際電器保安協会』って言う組織そしきが気になるわーー

 霊気れいきは、まだ様子ようすを見ている。


拙者せっしゃはお前の師匠ししょうだ、強さも弱点じゃくてんも知りくしている。組織そしきに入らないのであれば、死んでもらう」

 くりすけは、殺気さっきめて刀をかまえた。

「お師匠ししょう様が、やる気なのなら、仕方しかた無いでござる」

 虎之助とらのすけも、刀に殺気さっきめる。

 師弟していの、すさまじい死合しあいが、始まろうとしていた。



 一方、火星では、『山田タコ14世』が、山田タコ王朝おうちょう建国記念日けんこくきねんびいわっていた。

 貴族達きぞくたちが、宮殿きゅうでんに集まり、豪華ごうかな食事や酒を楽しんでいる。

『山田タコ14世』も、ご機嫌きげんでシャンパン飲みながら、イカゲソを食べていた。

 そこへ、一人の将校しょうこうかけんで来て

「大変です!『タコ山五十六やまいそろく将軍しょうぐん反乱軍はんらんぐんやぶ戦死せんししました!」

 と、報告ほうこくに来た。

 ざわめく貴族達きぞくたちに向かって、シャンパンを持ったまま、山田タコ14世は

「そんな事、どうでも良いや、ないか〜い」

 と、笑顔えがおで、答えた。

「それもそうや、ないか〜い」

 貴族達きぞくたちは、おたがいにシャンパンで乾杯かんぱいしながら、何事なにごとも無かったように飲み食いを始めた。

ーー駄目だめだ。この王朝おうちょうは、ほろびるーー

 将校しょうこうは、あきれはてて、部下を引き連れ、反乱軍はんらんぐんくわわる事になる。



 そのころ、黒瀬は得意先とくいさきまで営業に出掛でかけていた。

 今日は、平日というのにカップルが、やけに目立つ。

 学生のころから、ずっと体育会系たいいくかいけいであった黒瀬は、あまり女性にえんが無かったため、仲の良いカップルを見ると、どうしても嫉妬しっとしてしまう。

 だが待てよ、俺も虎之助とらのすけを連れている時には、他人からうらやましがられているのかも知れないな。

 人には、いろんな事情じじょうがある、一見いっけんしただけで他人をうらやむのはよそう。

 そんな事を考えながら、歩道を歩いていると、何も無い所で、つまずいてしまった。

「クソっ、くつひもが切れた。夏のボーナスで買ったばかりの、グレンソンの高級紳士靴こうきゅうしんしぐつなのに」

ーー不吉ふきつだ。何か悪い事が起きるかも知れんーー

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