第2話 最狂の鬼が登場でござる

「ちょっと姉さん、俺の唐揚からあげ取らんといて下さいよ」

DSP(デビルスペシャルポリス)の宿舎しゅくしゃでは、メンバーみんなで昼食を食べていた。

唐揚からあげの1つや2つで、細かい事を言うんじゃないでござる」

「1つ2つじゃなくて、4つ全部取ってますやん!俺の唐揚からあげ定食が、白飯だけになったやないですか!」

 小太郎は抗議こうぎしている。

「その白飯も、よこすでござる」

「むちゃ言わんといて下さいよ」

 虎之助とらのすけが来てからは、いつもの事であるが、生真面目きまじめ左近さこんにとっては、どうにも落ち着かない光景こうけいである。

「おい!お前らいい加減かげんにしないか!」

ついに、左近さこん怒鳴どなった。

「小太郎が怒られてるでござる」

 虎之助とらのすけは笑っている。

「いや、怒られたのは姉さんですやん!」

拙者せっしゃは悪くないでござるよ。小太郎は、わがままでこまるでござる」

ーーこいつには、何を言っても駄目だめだーー

左近さこんは、あきれて、怒る事をあきらめた。

ーーこいつ[虎之助]が来てから落ち着いて、食事も出来ないーー

いらついている左近さこん岩法師いわほうしを見てみると、だまって黙々もくもくと食事をしている。

ーさすがに僧侶そうりよだけあって、物事にどうい精神力の持ち主だなー

左近はあらためて岩法師に感心した。



そのころ宿舎しゅくしゃの近くでは、桜田刑事と若い男がって歩いていた。

男は長身ちょうしん細身ほそみ体型たいけいで、端正たんせい顔立かおだちをしており、女性に好かれそうな雰囲気ふんいきをかもし出している。

狂四郎きょうしろう君、ここがDSP(デビルスペシャルポリス)の宿舎しゅくしゃよ」

応仁おうにんらんれた時代から転生して来た狂四郎は、現代の平穏へいおんさに、なかなかれず、うんざりしていた。

幼少ようしょうころより戦う事しか知らなかった狂四郎は、DSPに入れば鬼と戦えると言われ、期待きたいしていて来たのである。

「みんな新人を連れて来たわよ」

 転生者全員が2人を見た。

「新しい仲間の狂四郎君よ、みんな自己紹介じこしょうかいしてね」

 桜田刑事は、いつもよりテンションが高い。おそらく狂四郎がイケメンだからだと思われる。

 転生者のメンバーは、桜田刑事に言われて、とりあえず自己紹介じこしょうかいを始めた。

左近さこんです」

 まずはリーダーの左近さこん名乗なのった。

拙僧せっそう岩法師いわほうしもうす」

 僧侶姿そうりょすがたの岩法師が名乗なのる。

「俺は小太郎。剣の達人や」

 若い剣士けんしの小太郎が名乗なのる。

虎之助とらのすけでござる。ここの事は何でも拙者せっしゃに聞くと良いでござるよ。それから、ごはんは半分、ボスである拙者せっしやによこすでござる」

 虎之助とらのすけが、食事を半分はんぶん要求ようきゅうして来た。

 桜田刑事は虎之助とらのすけ指差ゆびさし「この娘の言う事は無視して良いわよ、バカだから。わからない事は、私かリーダーの左近さこん君に聞いてね」と、笑顔で言った。

「何言ってるでござる!拙者せっしやが一番の物知ものしりでござる。さては拙者せっしやがAカップだからってめてるでござるな」

「アンタみたいな、Aカップの貧相ひんそうな小娘はめても良いのよ!何故なぜなら、私はDカップだから!」

ーーガーン!ーー

 虎之助とらのすけは、転生して以来いらい、始めてはげしい衝撃しょうげきを受けた。

「うわ〜ん!ひどいでござる!」

 泣きながら、虎之助とらのすけ宿舎しゅくしゃを飛び出して行った。

ーーしまった!言いぎたーー

 桜田刑事はあせった。

 さすがに、左近さこんや岩法師も少し引いている。小太郎にかんしては、口を開けたまま呆然ぼうぜんとして、こっちを見ている。

ーーヤバい、何とかしなくてはーー

 桜田刑事は、虎之助とらのすけと一番仲の良い小太郎のそばに寄って

「これで、虎之助とらのすけにお菓子かしでも買って、なだめて来て」

 と、500円玉を小太郎の手ににぎらせた。

 呆然ぼうぜんとしていた小太郎は、われに返って

「姉さん!待って下さい!」

 500円玉をにぎりしめたまま、走って虎之助とらのすけを追いかけて行った。

「何か見苦みぐるしい所を見せちゃって、ごめんなさいね」

 桜田刑事は、れくさそうに狂四郎にあやまった。

ーー本当に見苦みぐるしい所を見てしまったーー

新田狂四郎にったきょうしろうだ、よろしく」

 気を取り直して、残った2人に挨拶あいさつした。

「ちょうど昼食中だ、狂四郎君も、一緒いっしょに食べないか?」

 左近さこんが声をけた。

「アンタが、ここのリーダーか?」

一応いちおうそうだ」

「アンタが、ここで一番強いのか」

「そうでも無い」

 左近さこんは、無愛想ぶあいそうに答えた。

「じゃ、となりぼうさんか?」

 左近さこんと岩法師は、狂四郎の物言ものいいに、少し腹が立って来た。

ーー虎之助とらのすけといい、この狂四郎といい、最近の新人は態度たいどがなってないな。少し教育してやらねばーー

「一番が拙僧せっそうだとしたら、どうなんだ?」

 岩法師にしては、とげのある言い方である。

「いや別に。何か強そうに見えなくてね」

「では、後で拙僧せっそう稽古けいこをつけてしんぜよう」

ぼうさんと稽古けいこか、退屈たいくつそうだな」

退屈たいくつなど決してさせぬ」

 左近さこんは岩法師の意外な一面を見た。普段ふだんは冷静な岩法師が、熱くなっている。

 まあ、僧侶そうりょでも怒る時は怒るか、当たり前の事だな。左近さこんは、生意気なまいきな狂四郎の事を、岩法師にまかせる事にした。



「どうや、若林。ぼちぼち牛鬼ぎゅうきの身体にもれて来たやろ?」

「そうですね。スピードとパワーがすごいんで、最初は戸惑とまどいましたけど、何とかなのれました」

 若林は、鬼塚や川島から訓練くんれんを受けて、少しずつではあるが、牛鬼ぎゅうきの力を自分の物にしつつあった。

「そろそろ、実戦で力試ちからだめしをしてみるか?」

「どんな相手ですか?」

「DSP(デビルスペシャルポリス)に、ちょっと手強てずよい小娘がおってな、そいつをってもらおう思てんねんや」

 DSPの手強てずよい小娘?もしかして、それは虎之助とらのすけさんの事では?

「いや、女性をるのは、ちょっと無理ですよ、自信がありません」

 とりあえず、ここはことわらなければ。自分は虎之助とらのすけさんとは戦いたくない。

「なんやて!これは社長命令や、出来できんかったら、ワレ首やで!」

 首と言われても、ここは引き下がるわけにはいかない。何故なぜなら、僕は虎之助とらのすけさんが好きだから。

「かまいませんよ。しつこく牛島建設から、ウチに来ないかってさそわていますし」

 思い切って、以前から声をけて来る、牛島建設の話をしてみた。

ーー何やて、牛島建設って言うたら、東京に本社がある大手ゼネコンやないか。鬼武者おにむしゃ部隊ぶたいもあって、関東最大最強の鬼の総本山そうほんざんやんけーー

「うっ、ウソやん、冗談じょうだんやんか。成績優秀せいせきゆうしゅう牛鬼ぎゅうきでもある若林君を、首にするわけないやん」

 鬼塚は、あせった。牛島建設は日本テクノロジーコーポレーションより、大きな会社である。せっかくの牛鬼ぎゅうきを取られたく無い。

冗談じょうだんでしたか、ちょっと本気っぽかったですけど」

「全然、本気なわけないやん。ワシら、なんぼ鬼や言うたかて、女子供をおそうかいな」

「そうでしたか。うたがってもうわけありませんでした」

「そうや、ワシは日頃ひごろからみんなに、女と子供だけはおそったらアカンって、くちをスッパクして言っとるんや。それをしたら、もう人間やない、鬼やって。まあ、鬼なんですけどね」

「ちょっと何を言ってるのか良くわかりませんが。とにかく、女性はらなくて良いって事で、いいんですね?」

「君には、最初からオッサンの転生者をたおしてもらおうと思てたんや。後で黒瀬に指示しじを出しとくから、二人で行って来てや」

承知しょうちしました」

「ほな、頑張がんばりや」

 若林が退出した後、鬼塚はアイコスを吸いながら「ほんま最近の、ゆとり社員はあつかいにくいわ」と、つぶやいた。

 アイコスを吸い終わると、電話を取って

「おう川島か、ワシや、金鬼きんきべ!あの虎之助とらのすけとか言う小娘ブチ殺さすさかいに!」と、怒鳴どなるように言った。



 オフィス内で働いている黒瀬には、新たななやみが増えた。

 日本テクノロジーコーポレーションは、鬼が牛耳ぎゅうじっているとはいえ、9割以上の職員は普通の人間であり、黒瀬が鬼武者おにむしゃである事を知っている者は、ほんのわずかしかない。

 最近、どうも女性職員が、よそよそしいので、鬼特有おにとくゆう地獄耳じごくみみで女性達の噂話うわさばなしいてみると、黒瀬が未成年みせいねんと思われる若い娘を連れまわしており、ロリコンと淫行いんこううたがいを、かけられているらしい。

 確かに、あれから何度か虎之助とらのすけから呼び出され、その都度つど、食事をおごらせれている。それを誰か知らんが、女性職員に見られたらしいのだ。

ーー何で俺がこんな目に、殺すとおどされながらおごらされているだけなのに。本当に俺は、ついていないーー

 落ち込んでいる黒瀬のディスクの内線ないせんった。

「鬼塚だ。手がいたら、すぐに社長室に来てくれ」



 社長室に呼び出された黒瀬は、以前の自分とは違い、おどおどしている事に気が付き、意識して背筋せすじばしながら社長室に入った。

 まさか、虎之助とらのすけと会っている事が社長の耳に入ったのでは、と警戒けいかいしていると。

「来たか黒瀬。お前にたのみたい事があるんやが」

 どうやら、思っていたのと違う要件ようけんらしい。

「なんでしょうか?」

牛鬼ぎゅうきの力をためしてみたい。DSPのさむらい陰陽師おんみょうじが良いと思うんだが、若林一人では、良くわからんやろうから、一緒いっしょに行ってもらいたい」

「私と若林2人で、ですか?」

「そうや。ただ、今回は牛鬼ぎゅうきの実力を見るのが目的やから、お前は手を出さなくても良いからな」

「わかりました。それで、あの小娘はどうします?」

「よっぽど、あの小娘がこわいみたいやな。安心して良いで、小娘は金鬼きんき始末しまつする事になったから」

「わかりました」

 社長室を出ると、安堵あんどの気持ちと同時に不安がおそって来た。

 あの金鬼きんきか、四天王の中でも最強と言うより最狂さいきょうの鬼じゃないか。残虐ざんにんで恐ろしく強い、女子供であろうと平然へいぜんと、なぶり殺してかららう悪鬼あっきだ。

 しかも身体からだはがねよりかたく、かたななどの武器での攻撃こうげきは通用しないとなると、さすがの虎之助とらのすけでも、勝ち目は無いだろう。

 まあ、虎之助とらのすけが消えてくれるのは、黒瀬にとってよろこばしい事ではあるのだが。



 営業部の部長である日下くさかは、ご機嫌きげんであった。何故なぜなら、ひさしぶりに若い娘がえるのだから。

 日頃ひごろは、眼鏡めがね似合にあ堅物かたぶつイケメン部長で通っているが、正体は四天王最狂の人食い鬼『金鬼きんき』である。

 最強や最悪では無く、最狂と言われるのには理由がある。人食いに関しては、四天王で一番イカれているからだ。

 普段ふだんは『大阪鬼連合団体』から派手はでな人食いはひかえる様にと言われており、我慢がまんしているのだが、今日は社長から直々じきじきに転生者の娘をって来い、という指示しじがあった。

 それも、とびきりの美少女らしい。どうやって殺して、どこからうのか、想像しただけでも、ヨダレが出てくる。

 黒瀬から、その娘が良く現れる商店街も聞いている。娘は商店街のコンビニで、お菓子かしを買うのが好きらしい。

 早く行っていたい。

「部長、今日はご機嫌きげんがよろしいみたいですね、何か良い事でもありましたか?」

 あまりにも日下くさかが、ニヤついているので、営業課長の増田がたずねた。

「ちょっとね。別にたいした事はないザンスよ」

ーー出たな。1年に1度出るか出ないかの、超ご機嫌きげんの時に出る、日下くさか部長のザンスぶしが!ーー

 増田はひさしぶりに、ザンスぶしを聞いた。

「そうだ。僕はこれから得意先とくいさきの所に行って直帰ちょっきするから、後は、よろしくザンス」

ーーさっそく、今からお楽しみかよーー

「わかりました。お気を付けて」

 増田に後をまかせて、日下くさか部長は、娘がよく立ち寄る商店街へと、ニヤつきながら向かった。



 岩法師は、人気の無いグラウンドで、稽古けいこしょうした立ち合いを行なっていた。相手は、当然の事ながら、狂四郎である。

 見届け人として左近さこんだそったが、左近さこんことわり一人で出掛でかけて行ってしまった。

 おそらく、また剣の稽古けいこに行ったのであろう。

「では、まいるぞ狂四郎」

 岩法師は薙刀なぎなたを狂四郎に向けた。

「来い!坊主ぼうず

 対する狂四郎は、日本刀である。

 岩法師の薙刀なぎなたが狂四郎の顔をねらって振りかざされた。

 狂四郎は、難無なんなくかわして岩法師にりつける。

 岩法師は、すぐさま身をかわす。

 双方そうほう互角ごかくに戦っていたが、やや狂四郎が優勢になって来た。

「おぬしの様な若造わかぞうに使うのはひかえておったが、悪いが法力ほうりきを使わせてもらう」

 岩法師の姿が消えた。

「消えた。これが法力ほうりきか?」

 狂四郎は気配けはいを感じ取ろうと、五感ごかんました。が、岩法師の居所いどころはわからない。

「ならば、俺も仙道せんどうを使わねばならないな」

 狂四郎はかまえを変えた。

「オッサンに使うのは始めてだが、やむをない。新田流仙道『透視術とうしじゅつ』」

 両手の指を眼鏡めがねように丸くして、のぞき込んだ。

「あれっ、何にも見えないや」

ポカッ!

「痛っ!」

 狂四郎は、頭を軽く岩法師になぐられた。

「バカ者!」

 岩法師が姿を現した。

拙僧せっそうの姿くらましのじゅつを、透視術とうしじゅつで見つけるのは、間違まちがってるだろ!」

「そうかなぁ?」

透視術とうしじゅつってものは、邪魔じゃまな物体をかして見るじゅつだろう。消えている拙僧せっそうを、さらにかしてどうする、よけいに見えにくくなるわ!」

「そう言われれば、そうなのか。俺は幼少ようしょうの頃からいくさばかりで、勉学べんがくをするひまが無かったから、難しい事は、わからないや」

ーー最近の転生者はアホばかりなのかーー

 岩法師は、狂四郎のアホさ加減かげんに、あきれてしまった。

「いや、大して難しくないと思うが。それに、さっきお前『オッサンに使うのは始めて』と言っていたが、もしや女性に使った事は無いだろうな?」

「ある!」

 狂四郎は、胸を張って堂々と答えた。

ボカッ!

 岩法師は、狂四郎の頭を強くなぐった。

「何しやがる、この生臭なまぐさ坊主ぼうず!」

えらそうに言うな!現代では犯罪だぞ。われらは仮にも警官だ、ここで女性を透視とうしなんかしたら、桜田刑事に射殺しゃさつされるぞ」

「そうなのか?」

「そうである」

 その時、式神しきがみのヤモリが岩法師のもとけ寄り、何か報告した。

「なんと!それはマズい」

 岩法師がヤモリと話しているのを、狂四郎は不思議ふしぎそうに見ている。

「急用が出来た。稽古けいこは、また今度だ」

 岩法師は、素早すばやく走り去って行った。

「今から良い所なのに、何だあのクソ坊主ぼうず

 狂四郎は、ふくれている。



 そのころ、黒瀬は若林を連れて転生者のさむらい僧侶そうりょさがしていた。

 黒瀬が一般の鬼にも指示しじを出し、街中まちじゅうの情報を集めていると、それらしき男が大阪府警おおさかふけい近隣きんりんの公園にるとの情報が入ったので、さっそく現場へと向かった。

 その男は、公園で竹刀しない素振すぶりをしている所であった。

「若林、やつは確か転生者のさむらいだ。牛鬼ぎゅうきの力をためして来い」

 若林の両手が、金属の様な巨大なつめに変化した。

「わかりました、行って来ます」

 竹刀しないっていた左近さこんは、背後はいごに殺気を感じ、竹刀しないを捨て真剣しんけんに持ち替えた。

「何者だ?」

「悪いが死んでもらう」

 若林の左爪ひだりづめびて左近さこん心臓しんぞうねらう、左近さこんは左へ体をかわしつめけた。はずであったが、つめも左に曲がり心臓しんぞうさろうとする。

 左近さこんは刀でつめを切ろうとするが、かたくて切れない。

「これはマズい」

 左近さこんは若林に向かって走り、素早すばやく刀を振り下ろすが、右爪みぎづめふせがれた。

 その瞬間しゅんかん左近さこんに向かっていた左爪ひだりづめが、左近さこん背中せなかさった。

「しまった!」

 ひざをつく左近さこんに、容赦ようしゃ無く両爪りょうづめおそい、左近さこん心臓しんぞうつらぬいた。と、若林が勝利を確信した時には、左近さこんの姿は消えていた。

「逃げられたな」

 黒瀬がつぶやいた。

やつは、どこに?」

 若林はあたりりを見回みまわしている。

「今日は、もう良い。始めてにしては上出来じょうできだ、社長も満足されるだろう」

 黒瀬と若林は目的をたし、日本テクノロジーコーポレーションへ、引き上げて行った。



 コンビニで小太郎にお菓子かしを買ってもらった虎之助とらのすけは、少しずつ機嫌きげんなおって来ていた。

「姉さん、もうそろそろ宿舎しゅくしゃに帰りましょう」

「そうでござるね、帰ってばんごはんを食べるでござる」

「いや、夕食には、まだ早いと思いますけど」

 川沿かわぞいのベンチにすわり、2人で街並まちなみをながめながら、コンビニで買ったアイスクリームを食べていた。

 そんな、虎之助とらのすけと小太郎の様子ようすを、少しはなれた所から1人の男が見ていた。

ーー商店街しょうてんがいのコンビニからけて来たが、うまそうな娘だ、ゆっくりあじわってってやる。それにしても人気ひとけの無い川辺かわべに来たのは好都合こうつごうだ、まずは邪魔じゃまな若い男を始末しまつしてから娘をうかーー

 男は大きな一本角いっぽんづの頭部とうぶにあり、全身金色の金鬼きんきの姿へ変化した。右手には大きな金棒かなぼうを持っている。

 金鬼きんきは持っていた金棒かなぼうを、高速で小太郎に目掛めがけて投げつけた。

ガキーン!

 小太郎の刀が金棒かなぼうはらい落とす。

「何者や!」

 小太郎達が気付きづいた瞬間しゅんかん、小太郎は金鬼きんきなぐり飛ばされた。

「うへぇー」

 小太郎は、んで行った。

「くせものでござるな」

 虎之助とらのすけの刀が金鬼の首をる。

カキーン!

 金鬼きんきの首は切れず、なんと虎之助とらのすけの刀がれた。

「俺は金鬼きんき。刀ごときで、俺の身体からだきずを付ける事は出来できぬ」

 金鬼きんき右腕みぎうで虎之助とらのすけろす。

ーーとりあえずうでの一本でもつぶしておくかーー

「刀でれないとは、面倒めんどうくさいでござるね」

 虎之助とらのすけ金鬼きんきうでを軽くかわし、手刀しゅとう金鬼きんきの首に向けて振り切った。

ーー何かヤバいーー

 金鬼きんきは、咄嗟とっさ後方こうほうに飛んで両手で首をガードする。虎之助とらのすけ手刀しゅとうとどいていない、首は無事だ。

「そんな、やわな手刀しゅとうで俺の首は、切れぬわ」

 そう言いながら金鬼きんきは、虎之助とらのすけなぐりつけようとしたが、金鬼きんき両腕りょううでが無くなっていた。

「あれ?」

 金鬼きんきが下を見ると、地面に自分の両腕りょううでが落ちている。

ーーなんのうでなど、すぐに再生するーー

 金鬼きんき両腕りょううでを再生しようとすると、ズバッ!と音がして、急に視界しかいさかさまになった。

ドサッ!

 金鬼きんきの上半身が地面に落ちた。

 虎之助とらのすけ手刀しゅとうk金鬼きんき胴体どうたいを、ぶった切ったのである。

何故なぜ、俺の身体がれるんだ!」

唐沢家忍術からさわけにんじゅつ『手刀かまいたち』でござる、れぬ物は無いでござる」

ーーこいつ、化物ばけものだ!ーー

 金鬼きんきは急いで両手を再生し、足のわりに手で走って逃げた。

「おーい!下半身を忘れてるでござるよー」

 虎之助とらのすけの声が聞こえたが、金鬼きんきは持てる力をすべて両腕りょううでに使って必死ひっしに逃げた。

 あんな化物ばけものと戦ったら、殺される!

 金鬼きんき恐怖きょうふにかられ、無我夢中むがむちゅうで逃げ続けた。

 虎之助とらのすけは、逃げた金鬼きんきかまわず、たおれている小太郎に

「小太郎、大丈夫だいじょうぶでござるか?」

 小太郎をこそうとした。

「うっ、すいません姉さん」

 起き上がろうとした小太郎であったが、間近まじか虎之助とらのすけの顔を見て ーー可愛かわいいーー と思ってしまった。

 転生する前は、ほとんど女性とせっする機会きかいが無かった小太郎は、もう少しこのままでいたいと思い

「頭を打ったみたいで、少し休むとおさまると思うのですが」

 と、うそをついてしまった。

「小太郎は、まだまだ未熟みじゅくでござるな」

 虎之助とらのすけ膝枕ひざまくらをしてもらって、小太郎は幸せであった。

「さっきの鬼は、どうなりました?」

「あの金鬼きんきと言うやつは、下半身を置いて逃げたでござる。両手で器用きように走って逃げて、なかなか面白おもしろい鬼でござった」

「えっ、金鬼きんきって、かなりの大物ですやん。姉さん、よくたおしましたね」

「確かに、今までの鬼とはちがったでござる。刀でろうとしたら、刀がれてしまったでござる」

刀無かたななしで、どうやってたおしはったんです?」

拙者せっしやは元々忍者でござるよ、もちろん忍術にんじゅつでござる。でも、忍術にんじゅつは気と体力を使うから、刀でり殺した方が楽でござる」

「へえ、そういうもんなんですか」

「それより小太郎。まだ、起き上がれないでござるか?」

 返事が無い。

「小太郎?」

 小太郎は、ねむっていた。

 まだ18歳である小太郎は、虎之助とらのすけ外見がいけんは別として、実際じっさいにはDSPで一番若く、まだ、あどけなさが残っている。

 虎之助とらのすけと出会う前から、凶悪きょうあくな鬼と戦い続けて、精神的せいしんてきつかれていたのかも知れない。

「しょうが無いでござるね」

 虎之助とらのすけは、しばらく小太郎を膝枕ひざまくらのままかしてあげる事にした。



 DSPの宿舎しゅくしゃに、岩法師が左近さこんかついでもどって来た。

「どうしたの?左近さこん君、血が出てるじゃない!」

 桜田刑事が、あわてながら言った。

牛鬼ぎゅうきにやられた、拙僧せっそう応急処置おうきゅうしょちはしたが重症じゅうしょうだ。手当てあてたのむ」

「とにかく、警察病院けいさつびょういんへ運びましょう」

桜田刑事は車に左近さこんせ、岩法師と警察病院へ向かった。

「それで、アンタは大丈夫なの?怪我けがしてない?」

拙僧せっそうは大丈夫だ。ヤモリから知らせを受けて、けつけたのだが。『姿すがたくらまし』を使って左近さこんを助けるのが精一杯せいいっぱいで、牛鬼ぎゅうきと戦うどころでは無かった」

「それが賢明けんめいよ、牛鬼ぎゅうきのことは、左近さこん君を病院に運んでから考えましょう。一応いちおう安倍顧問あべこもんには連絡しておくから」



 桜田刑事と岩法師が左近さこんを病院へ送りとどけて、宿舎しゅくしゃもどって来ると、ちょうど虎之助とらのすけと小太郎が帰って来た。

「ただいまでござる」

「あれ、お二人さんも、出かけてたんですか?」

 小太郎が聞いて来た。

左近さこん君が牛鬼ぎゅうきおそわれたんで、病院に運んで来たところよ」

左近さこんさん重症じゅうしょうなんですか?」

 小太郎は心配そうである。

「命に別状べつじょうは無いらしいけど、しばらく入院する事になるわ」

左近さこんは、入院ばかりしてるでござるね」

 虎之助は《とらのすけ》、興味きょうみなさそうにスナック菓子がしを食べている。

「鬼と言う者は、そんなに強いのか?」

 岩法師より先に帰っていた狂四郎が聞いた。

牛鬼ぎゅうきは特別よ。普通の鬼なら、左近さこん君が負けるはず無いもの」

ーーそうなのか。俺も早く鬼と戦ってみたいーー

「まあ、拙者せっしやより強い鬼は居ないから、心配しなくて良いでござるよ」

 虎之助とらのすけが、狂四郎に向かって言った。

ーー確か桜田刑事が、この娘はバカだって言ってたな。可愛かわいい娘だが、真面目まじめに話を聞くのはよそうーー

 狂四郎は、自分のアホさをたなに上げて、バカである虎之助とらのすけを相手にしない事にした。



 日本テクノロジーコーポレーションのオフィスで働きながら、黒瀬は金鬼きんき虎之助とらのすけの事が気になっていた。あれから2日経っても日下くさか部長は出社して来ない。

 給湯室きゅうとうしつでコーヒーを入れていると、突然とつぜん誰かにむなぐらをつかまれた。

「誰だ」

 良く見ると、日下くさか部長である。

「黒瀬君、話がちがうじゃないか」

「どうしたんです部長、休んでいたのでは?」

「あれほど化物ばけものとは聞いて無かったでゴンス!あれは人でも鬼でも無い、おそろしいバケモノだ。両手と下半身をり落とされて死ぬ所だったでゴンス。今朝やっと体が再生出来たところでゴンス」

ーー出たっ。5年に1度出るか出ないかの、日下くさか部長の超不機嫌ちょうふきげんな時にしか出ないゴンスぶしだーー

 黒瀬は久しぶりに、ゴンスぶしを聞いた。

「でも、金鬼きんきである部長とり合ったんでしたら、相手の娘も無事では無いでしょう?」

「何をぼけた事を言ってるんでゴンスか君は!僕は、かすりきず一つわせられなかったよ。もう、トラウマになって、しばらくは若い女がこわくなったでゴンス」

「それは災難さいなんでしたね」

「正確な情報をくれないと、こまるでゴンスよ。僕は、まだ死にたくないでゴンスから」

ーー金鬼きんきを、これほどまでにおびえさすとは、予想よそう以上におそろしい娘だーー

 なやみのたねであった虎之助とらのすけが無事で、何故なぜ安堵あんどした黒瀬であった。



 大阪府警に近隣きんりんにある、家電量販店ヤマダカメラの1階フロアに、夕刻時ゆうこくどきになると、ほぼ毎日の様に現れる少女がた。

 フロアの内壁うちかべかがみになっており、少女はかがみうつった自分の姿を見る。

 かがみである事は、虎之助とらのすけ承知しょうちしているのであるが、全身がハッキリうつる、この場所が気に入っていた。

 何故なぜなら千代ちよに会えた気がするからである。

 服装は当時の千代ちよとは違い、短パンにブラウスを着てスニーカーをいているものの、かがみの中には千代ちよ本人がるように思える。

 背丈せたけは5尺2寸(約156cm)ほどで、華奢きゃしゃな体型であり千代ちよそのものである。

 ただ一つかなしいかな、Dカップはあったと思われる千代ちよとは違い、バストが何故なぜかAカップである、という事だけである。

 しばらくかがみながめてから、虎之助とらのすけ宿舎しゅくしゃへの帰路きろに向かう。

 そんな虎之助とらのすけを、けて来る男がる。

 普段ふだんであれば、気配けはいで、すぐに気が付く虎之助とらのすけであるが、千代ちよに会った余韻よいんが残る今は、まった気付きづいていない。

 男の正体は、銀鬼ぎんきと呼ばれる凶悪きょうあくな鬼である。

 銀鬼ぎんき虎之助とらのすけに対して、復讐ふくしゅう心に燃えていた。

 用心ようじんして、殺気さっきを消しながら付けて来る。虎之助とらのすけ路地ろじに入ると、銀鬼ぎんきは後ろから音もなくおそいかかった。



 自分のオフィスでアイコスをっていると、川島が入って来た。

「社長。日下くさかから連絡がありました」

 鬼塚は、笑みを浮かべながら

「やっと、あの小娘をったんか?」

 笑顔で聞いた。

「それが、一方的いっぽうてきにやられて逃げて来たそうです」

「何やて!」

ーーそんなアホな、あの金鬼きんきが一ー

「あと、長期休暇ちょうききゅうかを取って、しばらく旅に出るゴンス。と言ってました」

「あちゃ、あいつがゴンスを言い出したら、もう駄目だめや。わりの者をさがさなアカン」

「今日、自分のオフィスから、私物しぶつを持ち帰ったそうです」

「あいつ逃げやがったな」

「しかし、金鬼きんきほどの鬼が逃げ出すって、いったいどんな娘なんですかね?」

「なんや、見た目は、可愛かわいらしい娘らしいで。年はウチの娘と同じぐらいちゃうかな」

「じゃ、高校生ぐらいですね」

「そうやな。娘も高校ぐらいになると、あつかずらくなって来てな。学校から帰って来たらすぐ部屋にこもって、スマホばっかりさわっとるわ」

「ラインやらSNSちゅうヤツですかね」

「たぶん、そんなんやわ。親にスマホ代出させといて、愛想あいそないでしかし。先月なんか三万円ぐらい請求せいきゅう来たで」

「それは、ちょっと高いですね。ゲームか何かに、課金かきんしてるんちゃいます?」

「そやろ?でも、注意しよう思ても、なかなかむずかしいねん」

「女高生ともなると、うかつに部屋に入れませんもんね」

「ほんまやで。小さいころは、なついてたんやけどな」

「彼氏とか連れて来たら、どうします?」

「嫌やな。タトゥーとかピアス付けてる奴やったら、しばいてまうわ」

「でも、彼氏しばいたら、娘さんおこるでしょう?」

「そうやねん。どうしょうか?」

「恋愛って、周りが反対したら、よけい熱くなりますから、物分ものわかりの良い父親をえんじた方が良いですよ」

「そうやな。君トコは、どうやねん?」

「ウチは、男の子2人なんで、そんなに気は使わないですね」

「やっぱり、男の子の方が楽なんかな」

「そうでも無いですよ。嫁さんから、2人共言う事を聞かないって、いつも愚痴ぐちられてます」

反抗期はんこうきやな」

「そうですなぁ。って!違いますよ、金鬼きんきの話をしに来たんですよ!」

「ああ、そうか。金鬼きんきの話をしてたんや」

「あの娘どうしましようか?」

「どうするって言われても。そや!金鬼きんきには弟がおったやろ、確かギン‥何とか」

銀鬼ぎんきですよ。ギンまで言ったら、もう出るでしょう」

「そう、その銀鬼ぎんきに、仇討かたきうちさせたらどうやろうか?なんや弟の方も、相当そうとううでが立つちゅう話やで」

「そうですね、かなりの手練てだれだと聞いています。それに銀鬼ぎんきは兄の金鬼きんきと仲が良いですから、かたきちたいはずです。じゃ、さっそく手配てはいします」

 川島が上着のポケットから、スマホを取り出すと同時に着信があった。

「はい、川島です」

 川島はスマホの電話に出た。

「何だと!ふざけた事ぬかすな!」

 川島がスマホに向かって怒鳴どなっている。

「分かった、社長には、俺から報告しておく」

 電話をえると、すぐに「どないしたんや?」と鬼塚が聞いてきた。

「私の部下からの報告によると、銀鬼ぎんき独断どくだんで例の娘をおそい、かえちにあって命からがら田舎いなかに逃げ帰ったそうです」

「だめ駄目だめやん」

 鬼塚と川島の話し合いは、驚くほど無駄むだであった。



 宿舎しゅくしゃの夕食の時間には、入院中の左近さこんのぞいたメンバーがそろっていた。

 狂四郎は、どうしても昼間の稽古けいこ納得なっとくがいかないようで。

「岩法師、もう一度、俺と勝負してくれ」

 と、たのんだが

ことわる。左近さこんが入院中に、怪我けがでもされたら、DSPの戦力が落ちる」

 岩法師に、もっともな理由でことわられた。

「そんなに稽古けいこしたいのなら、拙者せっしや稽古けいこしてやっても良いでござるよ」

 虎之助とらのすけは、夕食を口にみながら提案ていあんした。

駄目だめですよ。姉さん相手なら狂四郎が死んでまいますやん」

 小太郎が止めた。

「そうでござるね。拙者せっしやの強さは、虎の子もビックリでござるからな」

「さすがは姉さん、上手うまい事、言いはるわ」

 小太郎と虎之助とらのすけは、ゲラゲラ笑っている。

ーーこの2人はバカだから、何を言ってるのか、さっぱり分からんが、岩法師はあなどれんーー

稽古けいこより、お前達は戦の多い時代に生まれたゆえ、勉学べんがくをする機会きかいが無かった様に思う。それで、拙僧せっそう寺子屋てらこやようみんな勉学べんがくを教えようと思うのだが、どうであろう?」

 岩法師が提案ていあんする。

「それは、ありがたい。よろしくたのむ」

 狂四郎はうれしそうである。

「俺も、お願いします。まだ、現代の事が良くわからなくて」

 小太郎も乗り気である。

拙者せっしやは、かしこいから大丈夫だいじょうぶでござるよ」

 虎之助とらのすけだけことわった。

ーークッ!こいつ一番バカのクセに。仕方しかたないが、おだててみるかーー

「いや、かしこ虎之助とらのすけこそ、名誉めいよ教授きょうじゅとして参加さんかしてしいのだが」

 岩法師は、心にも無い事を言ってみた。

「そうでござるな。拙者せっしや知識ちしき若輩じゃくはいの者に伝えて行くのも、博識はくしき者のつとめでござるな」

ーーやはり、バカなだけあって、だましやすいーー

 むろん岩法師は、虎之助とらのすけ教授きょうじゅにするつもりは無い。みんな一緒いっしょ生徒せいととしてあつかう予定であるが、とりあえずは出席しゅっせきさせる必要がある。出席しゅっせきさせてしまえば、勉強にはなるだろう。

 ひょいと、虎之助とらのすけが狂四郎の夕食のアジフライを1つ取った。

「何しやがる!」

 狂四郎は、当然とうぜんおこった。

「モグモグ、拙者せっしやはボスだから、1つもらうでござる」

「俺は、お前の子分じゃねえぞ!」

 虎之助とらのすけは、狂四郎がおこっている事をまったく気にせず、食べながら狂四郎のアジフライを、もう1つ取った。

「このアマ!もう、かんべんならねえ。くらえ!新田家仙道にったけせんどう透視術とうしじゅつ』」

 狂四郎が、両手の指を丸めて眼鏡めがねの形を作り、虎之助とらのすけ透視術とうしじゅつを使おうとした瞬間しゅんかん

ボカッ!

「女に、そのじゅつは使うな」

 岩法師が、岩のような大きなこぶしで、狂四郎の頭を思いっきりなぐった。

「くふっ!」

 狂四郎は、そのまま、朝まで失神しっしんした。

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