第2話 異変②

 朝の7時、目を覚ますとアラームの鳴っているケータイにそう表示されていた。とりあえずアラームを止めると、まだ寝足りないんだと言わんばかりにもう一度布団の中へと潜っていく。どうしてこんなに目覚めが悪いのか、理由は明白だ。

 つい5時間前、僕の身に説明のつけようがないことが起こったのだから。思考は停止しかけながら、僕はなんとかあのことを解釈しようとしていた。自分なりに出した結論としては、「実は夢だった」としか言いようがなかった。

 しかし僕は、あの光景が目に焼き付いて離れないことをしっかりと認識している。光に触れた指に今でもあの感触は残っているし、頭は働いていなかったがあれが夢ではないことはわかる。

 脳の出した答えと実際の記憶の矛盾が僕の心をさらに不安にさせていく。そのせいで昨日はよく眠れなかったのだ。

 だがこのまま寝ている訳にもいかない。今日は月曜日、学校がある。ただでさえ疲れているのに、学校となると気が重くなるのだが、、重い体を起こして僕は洗面台に向かった。

 洗面台に行く前にリビングの方が気になったが、今は何も考えない方がいいと思ったので無心で顔を洗い、歯を磨いた。部屋に戻ると制服を用意する。畳んである綺麗なシャツに袖を通し、胸元に「Ⅲ-2」と刻まれたバッジを取り付ける。これはいわゆる三年二組というのを表すためのやつだ。

 準備が終わると朝食を取るためにリビングへと向かった。何も考えないようにしていたが、気にはなってしまう。不安を抱きながらもリビングへと向かった。

 しかしリビングに入ると自然と安堵のため息をついていた。

「あんた朝からため息なんてしないでよ。」

 そう文句を言ってきたのは僕の母である。

「すみませんねー」

 と適当に返したあと、ダイニングテーブルのところにある4つの椅子のうちの一つに座り、トーストを手に取った。あんまり食欲はなかったけど、残すと怒られるので一緒に置いてあった牛乳で適当に流し込んだ。

 もうそろそろ家を出る時間なのだが、僕にはどうしても聞きたいことがある。

「昨日の夜さ、窓開けて寝た?」

 聞きたかったことはこれだ。きっと開けていないであろうことは分かってはいたが、聞かずにはいられない。

「は?何言ってんの、開ける訳ないじゃない。」

 予想していた通りだった。本当は「昨日暑かったから開けて寝たのよ〜」なんて言って欲しかったのだが、その夢は見事に打ち砕かれてしまった。

「あ、でも昨日お父さんが『窓の外が眩しくて俺の未来も眩しいよ!』とか言ってたわね」

「まじか!!え、でも意味わかんない」

 今僕は二つのことに驚いている。一つ目は昨日父もあの光を見たということ。二つ目はなぜ窓の外が眩しいと自分の未来も眩しいのかということ。昔から父は能天気でふざけたことを言う人だと改めて理解した。

「まああの人の頭の中には宇宙人が住んでるからね〜」

「いやそれどっかのSF映画じゃん!」

 そう突っ込み、僕は部屋の壁掛け時計の時刻を確認した。7時30分、もう家を出なきゃいけない時間はとっくに過ぎていた。

 聞きたいこと、話したいことは山ほどあるのに今は猛ダッシュで駅に向かわなければならない。もう帰ってきてから話すしかないかと思いながら、なんとか電車には間に合った。

 学校の最寄駅の天上駅に近づくと、同じ制服の人も多くなってくる。その中でも多くは英単語帳やら参考書を必死に見ている。どこか焦っているようにも感じられる彼らの顔を見て深いため息をついたところで誰かに話しかけらた。

「おはよ」

 目線を向けた先にいるのは友人の湯崎だ。湯崎友和、僕と同じ三年で陸上部、この時期は部活で何かと忙しいはずだから、てっきりもっと早い時間の電車に乗って朝練にでも言っているもんだと思っていた。なのできょとんとした僕に対して「何その顔」とバカにされてしまった。

急いで僕もおはようと返すと、疑問の視線に友和も気づいたらしく

「ああ、朝練?」

と察してくれた。ウンウンと頷くと

「いやー、今日寝坊しちゃってさ、最近忙しくてねぇ、」

ともっともな意見をもらえた。

「最近部活組は忙しいよね」

「そうだね、今年はすげー早い奴何人もいるから顧問も気合だしちゃってさ、俺みたいなのろまも巻き添え食らってる訳」

 苦笑いで答えていたけど、少し悲しさも含んでいるように思えた。その悲しさは部活の大変さからきているのではないことは分かっていた。分かってはいたけど、お互いあのことについては触れないようにしている。

 そんな会話を続けているうちに電車は天上駅に到着した。勢いよく降りていく生徒の波に流されて僕も学校へと向かった。


 


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夢の中で @hoodie

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