第8話 職員室では穏やかに
アムと
「あ、島原くん。先に行ってて」
「ん?
「アムを職員室に連れて行かないといけないから。道案内をね」
「なるほど。もし君が遅れそうだったら事情説明しておくから。エンジンなら大丈夫だろう」
「ありがとう。じゃあ後で」
「うん、杵柄くんもまた後でな」
「See you.シマバラ」
手を軽くあげた動作で、またねの合図と察したらしく、アムはバイバイと手を振り僕の隣をちょこんと付いてくる。
一階の下駄箱から入って階段を登らずに一番奥の突き当たりの部屋だ。
一番奥だから歩いている間、かなりの視線がこっちというか、アムに注がれている。
「おー。やっぱり日本の学校は制服のおかげで統一感というやつが凄いですねー。私が通った時の反応も誰も彼もが似たり寄ったりです」
「まぁ、学校で制服着た、アムみたいな可愛い海外留学生の子が現れたら、日本の学校なら何処でも同じ反応だと思うよ」
「へー、え、今コーマ、私の事可愛いって言いまし」
「ここが職員室。先生たちが集まってる部屋なんだ」
「何事もなかったかのように!? コーマ、あの、あの」
アムが話に突っ込んでくる前に、急いでガラッと扉を開けると、担任の先生が扉の前で両腕を組んで待ち構えていた。
「あ、穂村先生」
「おぉ、
「え、えぇ。そうですけど、えらく待ち方の用意がいいですね?」
「先程、杵柄のお兄さんから連絡が来ていたんだ。自分の代わりに、西東が留学生を連れてくるとな!」
「あぁ、なるほど、ウィルさんが言っておいてくれてたのか」
この100デシベルレベルの大きな声で、ジャージ姿で出迎えてくれたのがうちの1-Eクラスの担任、
暑苦しさには定評があり、名前が珍しいからか、ずっとエンジンがあだ名になっているらしい。ん? って事は?
「アムはうちのクラスなんですか?」
「あぁ! 1-Eという家族が増えるぞ! やったな西東!」
「あ、はい、いや、なんかそのフレーズはよろしく無い気がしますけど、嬉しいですね、はい」
ははっと笑ってその熱さを受け流したふりをして、アムの方を見ると、何故かウィルさんを毒づく時よりも酷いドス黒い瞳をしていた。穏やかじゃない、というかタダごとじゃ無さそう。
「ど、どうしたのアム。一緒のクラスだったよ」
言った瞬間、アムの表情がいつものように天使のような可愛らしい表情へと変わる。
「ふぅ、良かったです」
なるほど、僕と同じクラスになれるかどうか、不安になっていたとかだろうか。
海外から来て知り合いが一人もいないし、ましてやアムは耳が特殊だから、そりゃ僕と同じクラスが都合が良いことに越したことないもんな。
そこは別に僕と一緒にいたいからとかじゃなく。
「どうやってコーマと同じクラスにしてもらおうか、何十通りかの方法のうちどれにするか考える手間が無くなりました」
「どうあっても同じクラスになるつもりだったなぁ!?」
流石アムさんである。そもそも別のクラスに入るつもりが無かったようだ。
というか、方法なんてそう何十通りも無いでしょ普通。絶対いくつか法に触れてもおかしく無いよ。
だってドス黒い顔で左手をパキポキ鳴らしてたもん。なんか喧嘩前の歴戦の喧嘩師みたいな顔だったもん。聞くのが恐ろし過ぎて気づいてないフリしてたけど。
戦々恐々としていると、アムは朗らかな笑顔で握手を求めたきた。
「何にせよ、これからクラスでもよろしくですコーマ」
「うん、こっちこそ」
握手に応じて、苦笑いをこぼすと、不意の言葉がかけられた。
「本当に杵柄には西東の声が聞こえてるんだな」
感心した様子の穂村先生。ウィルさん、電話で僕の声の事も話したのだろうか。
「よし、西東についでに、本日から杵柄に学校を案内する使命を課す。学校側も杵柄の事情は当然把握しているし、聞いている。いきなり日本の学校で一人は不安だろうからな。日本で出来た友人の君が案内してあげると安心だろう!」
うんうんと、熱く告げる至極真っ当な判断。ただ、残念ながらさっきの僕とアムさんのやり取りはしっかり聞いてないのか、当人は不安というか、絶対に自分の意思を曲げずに、ありとあらゆる方法で学校生活を
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