第6話 誤魔化し下手です
駅に着き、車から降りた途端、なかなか多くの視線を感じる。
この車もそうだけど、この二人はすんごい目立つなぁ。
「じゃあここで降ろすよ。アムに学校までの行き方を覚えてもらう必要もあるから」
「えっと、ウィリアムさん、送ってもらってありがとうございます。傘までいただいちゃって」
「これは妹の助けになってくれる事のお礼と思ってくれればいい。それに、俺の事はウィルで良いと言ったぞ?」
めちゃめちゃ高身長マフィア兄さんが、ニコッと
「じゃ、じゃあ、ウィルさんで」
「それでいい。あ、そうだ」
おもむろにスマホを取り出したウィリアムさんは、携帯の画面向けて言い放つ。
「暴れるなよアム」
そう言ってしばし画面を眺めてから、ウィリアムさんはアムに画面を見せつけた。
なるほど。スマホで音声認識した言葉を文字としてアムに見せてやり取りしてるのか。
「Of course.(勿論)」
「Yeah right.(よく言えたもんだ)」
方や満面の笑み、方や呆れ顔。どっちがどっちかは言わずもがな。
「最初は……えーっと、アレはなんて言ったかな。Staff room……教員室……」
「職員室?」
言いたいのであろう答えで問うと、綺麗にパチンと指を鳴らしたウィルさん。
「それだ。そこにアムを連れて行ってやってくれ」
なるほど。転校生だもんね。携帯で時計を見ると結構時間がやばい。アムを職員室に連れて行くまで視野に入れると余裕は無さそう。
「じゃあ行こう。結構時間ギリギリだし」
「了解です!」
アムに言うとビシッと敬礼して見せるのかーわいい。
とてもさっきファッ○ン○ッチとか言ってた子とは思えないなぁ。
ウィルさんに別れを告げて二人、地下鉄の駅まで入って行く。
あ、そういえば……。
「アム、定期は持ってる?」
尋ねた瞬間、アムはいきなり表情を固めた。え、何だ? 忘れてきちゃったとか?
しっかりとこちらを見据えながら、アムは口を開く。
「今、コーマ、私の事アムって呼びました?」
「え、あぁ! ごめん馴れ馴れしかったかな? さっき、ウィルさんにアムって呼ぶようにって言われてからいつの間にか心の内でもアム呼びになっちゃった……ん?」
「Damn it!(ちくしょう)I'll take care of this.(あのクソ兄貴、ぶっ飛ばしてやるんだった)」
「く、口悪っ!」
思わず突っ込んでしまうと、アムはまた信じられないというような顔でこっちを見ている。
「英語、分かるんです?」
「あ、あぁうん。聴き取るのは結構得意で。英文とかは苦手だから成績は普通だけど。母さんが海外で客室乗務員、フライトアテンダントやってるんだ。勉強で映画とかを字幕で見たり、字幕無しで見たりを繰り返してスラングとかは大体分か……アム、急にどうしたの!?」
答えると、冷や汗をダラダラとかき始めたアムさん。
「え、えーっと、では今までの兄への罵詈雑言は……」
「あー、ファッ……」
「コーマ! 定期ならほら! これですよね! 持ってますよホラ!」
「誤魔化し方が力業だなぁ!?」
どうやら、流石に女子なのに、汚い言葉をさも簡単に使うと思われるのは恥じらいがあるらしい。言い方に年季がこもってたけどね。
定期を使って二人、改札口を通ると、アムはおもむろに口を開いた。
「兄さんは、名前のアムールの略と、アヴェ・マリアの略をかけたつもりでふざけてアムって呼んでるんです。AMで、アム」
「あーなるほど」
「そう」
「ぴったりだね」「似合わないでしょう?」
「「え?」」
二人の疑問符がぴったり重なる。
何処か自重気味に似合わないと呟いたアムが、目をパチクリとさせてこちらを見ている。
「ぴったり……です?」
「え、うん。アヴェ・マリアって聖母マリアへの祈りの言葉とか、天使祝詞って言葉だったんじゃなかったっけ? 僕さっき雨宿りしてるアムの事、天使が落っこちてきたのかと思っちゃったぐらいだし……あ」
何言ってんだ僕。いや違うんだ。友達がいなさ過ぎて会話を怠っていたせいで、多分言うべき事と言わない方がいい事の選別がバカになってるんだよ! だから目の前のアムが、立ち止まってめちゃめちゃ顔を真っ赤にして、僕を見つめている事に対し、バカなので彼女からの言葉を待つより他、何していいか分からない。
「兄は、聖母みたいにあれっていう皮肉で言ってるのに、コーマはさっきみたいに私が口汚いのを見た後なのに、そう思うです?」
向けられた真っ直ぐな瞳と、自分の瞳を合わせると、心臓が跳ねたのが分かった。
でも、さっきと違う。問われた事なら答えられる。
「僕がずっと誰かに一番言って欲しかった事を、初めて話したのに言ってくれたから。本心でそう思ったんだよ?」
「え、え? ……私、何かそんな事言ったです?」
「自覚無し!? そっかそっか。じゃあやっぱり自覚無しに人が感動する言葉が出るなんて、天使がぴったりだなぁ」
「今のは明らかに茶化す意図が感じられました!」
「アム、あの地下鉄に乗るからほら早く」
「コーマもわりと誤魔化すの強引じゃないです!?」
そうかもしれない。気恥ずかしくて、アムの方が見れずに誤魔化してしまった。
そして同時に気づく。一目惚れじゃあなくて、これは一言惚れ?
変じゃないってアムが言ってくれたその時から、僕は、この口をとんがらせてぶーぶー言っている杵柄アムールという女の子の事を好きになっていたみたいだと。
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