陰キャな俺が学年1の美少女と一緒に暮らすことになったようです。

SHIN

告白。

教室にまばらな人がいる、今日は少し早く来すぎてしまった、いつもより早い時間に教室に来るってなんだか落ち着かない。

自分の席に和哉は座る、そわそわする。

喋りたい陽キャ、自習をする人。

少し荷物を整理していると教室に1人の女子生徒が入ってきた、心臓がきゅっと痛くなる。

和也はトンと席に腰掛け、机にバッグの中を広げる同級生の岬、少し大人びた黒髪ロングの少女を見る。

上品な美貌をたたえている、切れ長の目に白い肌、背が少し高くて、ほっそりとしたスタイル、血色のいい赤い唇。

そしてうっとりするほど綺麗な黒髪をしている。

中学校時代元は陸上部で短髪だったが、高校に入ってからは思い切って髪を伸ばしている。

騒がしくなってきた教室の中で涼しげにさっさと予習を始めている。

入ってきた時、一瞬目が合ったかの様に感じたが、きっと気のせいだろう、だとしても散々悩んで決めたことだ。

当たって砕けろ。

思いを中学から持ち越したままもう3年、中学からの和哉の思い人だ。

正直この進学校も和哉が岬に合わせて無理して入学を決めたもの。

中学校の時から相当な美少女だと言われていた岬、しかし大人びた態度や行動から

少し孤立気味で、余りグループの中に入らずに居た、いわゆる高嶺の花というやつで

余り彼女に言い寄る男子は少ない、女子からも美人だがそんなに男子にがっつく訳でもないので

そこまで悪く言われていないクールビューティー、学年1モテる訳では無いが、間違いなく学年1の美少女である。

中3の頃、文化祭の準備の時、遅くまで残って真面目に仕事をする岬に合わせて和哉も残って仕事をしていた。

その時はっきりと好きだと気づかなかったが、みんながふざける中で1人黙々と仕事をする岬を見てて

何か悪い様に感じてしまい、和哉も残って仕事をしてみた、すると案外道具作りは楽しいものである。

岬は最終下校時間の15分前に帰ってしまい、和哉はどうせ残るならととめいいっぱい時間を使って

ギリギリまで残って仕事をしていた、時間を超過して怒られたこともある。

いつもの様に残って二人で仕事をする、ふと疲れて岬の顔を見ると、どきりとする、何かに集中して

打ち込んでいる姿、大人びた表情に目が離せない......しかし上品な顔だ無機質な表情も加えて

さながら日本人形みたいだ......急に意識をしてしまって手が進まない。

いつもの様に岬の帰る時間を迎えた、岬が準備し、帰ろうとする、しかしその日は何故かふと立ち止まって、和哉の方を見た、そして

「和哉君、お疲れ様」

と声をかけていった、和哉は名前を呼ばれたことが初めてだった、もしかして岬が誰か男子に授業以外で

声をかける事自体初めてだったのかもしれない。

和哉の心臓はドクンと強く打った、お疲れ様と言われた後に、目があった。

「......お疲れ様です」

と和哉も言った互いにペコリと会釈をする、岬は出ていく、和哉はその時生まれて初めての恋を意識した。

それから文化祭までの毎日の居残りの時間それは続いた。

だから文化祭が終わってしまうのを非常に和哉は悲しんだ、岬はそれ以降はいつもの通りで

残りの中学校生活、会話することがなかった。

岬がこの進高校を受ける事を知った、夏休み前、和哉もその進学校を受けたいという旨を教師に伝えた

劣等生の和哉が奮起して睡眠時間を削ってまで勉強する姿に両親は動揺した。

それから入学して、今に至る。

それから高校2年生になるまで岬とは1回も喋れていない。

その間、岬から男の噂が聞こえてきたら、岬に彼氏ができたらなんて考えて和哉はゾッとした。

というか岬が男と喋るだけでも嫉妬で狂いそうになる、もっとも岬は淡々と事務的に受け答えしているだけなのだが

そして昨日の夜決めた、当たって砕けろ。

こうなってしまったら振られるの前提でアクションを起こすしかない、万が一の可能性もあるが

何も進まないより、振られたとしても自分の思いを伝えられれば多少何か動くはず.......

これは入学当初から考えていた、しかしビビって何もできなかった。

昨日の夜告白すると決めて、アドレナリン全開で全く寝れていない。

放課後が近づく、胃が痛くなってくる、緊張で授業なんか当然集中できない。

最後の鐘が鳴る、放課後になった、さっさと帰宅部の岬は帰ろうとする。

あ、ちょっと、......まずい人目が気になって話かけられなかった。

岬を追う、ちょっと......、ちょっと......!!ぐんぐんと早足で歩く岬、商店街まで来た。

あれ......俺ってもしかしてストーカーまがいの事してる??、時刻は今4時位、20分間声をかけれずに戸惑いながらずっとつけてきてしまった......。

......どうしようか......ここまで来て家に帰ったら後悔してしまう......が呼び止めたらずっとつけていた事もばれる。

......というか、告白することが前提だとしたら、岬さんと呼び止めて

ごめん呼び止めようとずっと追いかけてしまった岬さん足早くて、......とでも言えば大丈夫か......。

もう、考えるのはやめだ、あそこを曲がったらすぐに声をかけよう。

商店街の裏路地である、喫茶店や民家などがある、和哉は岬に続いて、意を決して曲がる。

......あれ?、男の人、岬が男の人といるなんて珍しい......あれは兄さんとかか......?

制服姿の岬と少し柄の悪そうな30代くらいの男が一緒にいる、......うーん?、岬の兄ってあんな感じなのか?

もしかして援交とか無いよな......、心臓が強く動く、体中に血液がポンプされる、ピリッと気持ちが張り詰める。

じんわりと脂汗をかきながら、少し電柱に近づき、耳を澄ます......。

「うわ~~本当嬉しいよ~~~!!、全然可愛い!!、本当俺これ不安だったんだよ~~~!?、ミサキちゃん本当すっげー可愛い!!」

「先にお金頂いていいですか?」

「あ~~、5万円ね~~、ちょっと待ってて~~!!」

頭が真っ白になった、ズキンと痛みがして胸に穴が空いた気分になった、このまま倒れ込みそう、現実を受け入れられずに頭の中が混乱する。

援交って何だよ......、俺は3年間ずっと好きだったのに、どうしたらいいのか分からず、この場を離れられない。

汗がぽたりと顎から垂れて、コンクリートに落ちる、乾いたコンクリートがそれを吸収しようとする。

岬達の会話が聞こえてくる。

「その格好だと目立つし、ホテルにも入りづらいからさ、そこの駐車場に俺の車停めてるから、乗ってよ、家まで行くからさ」

岬は何も言えずに乗ろうとする、俺は反射的に岬達の前に行く、そして叫んだ。

「おいおい、岬何してんだよ~~??」

二人ともぎょっとしてこっちを見る、僕は続ける。

「なーんだ??、その男は~~??、おいおい浮気かよ??、それは俺への腹いせか~~~??」

「??」

岬は何のことか分からずにひたすら、顔に驚愕と不安と混乱の表情を浮かべている、そんな顔3年間で初めて見た。

男の方は急に目を見開き、顔をひきつらせている、顔が青くなってきた。

「おいテメェいいのか??、犯罪だぞ??」

俺は17年間生きてきて親以外の人に初めて乱暴な口をきいた、必死さがいつものキョドりと不安を覆う。

男の方は完全にビビってる、......こんな喧嘩なんてしたことの無い陰キャな俺に、怒りが俺を全くの別人にする。

「......何だよ、最初からそういうつもりかよ、テメェふざけんなよっ!!......」

男は車まで駆け足で行って、そのまま車を走らせ、そしてどこかに行った、なにも考えずに飛び出して行ったが

俺はいわゆる美人局を演じて、男を払い除けたのだ。

岬が呆然とした顔をきっとしかめ僕を睨んでくる。

「ちょっとあんたいきなり何なのっ!?、いきなり出てきてなにしたいのっ!?、向こう行っちゃったじゃない!!」

「うるせえよっ!!、岬は何してんだよっ!!、よくないだろこんなこと!?」

......思わず呼び捨てで呼んでしまった、というか初めて名前を呼んでしまった、岬もキレる僕に負けずにキレ返してくる

「あんたに関係無いでしょっ!!、というかずっとつけてたの?......キモいんですけど、何でこんなことするの!?」

それは......と、思ったが、僕も感情的になりすぎてて、3年越しの思いをぶちまけてしまう。

「好きな人にこんなことして欲しくないだろっ......!?」

言ってしまった、岬はきょとんとして、すぐに

「はぁ?」

と聞き返してくる。

「だから、俺は岬に告白しようと思ってつけてたのっ!!、なのになんでこんな援交現場にあわないといけないの!?

キモくてごめんな!!、でも最初の言いたいこと言えたし、帰るわっ!!」

俺は好きだとか勢いでこんなタイミングで言ってしまった恥ずかしさと援交現場に出会わせたショックで混乱してその場を立ち去ろうとした

「お前さ、もうこんなことすんなよっ馬鹿っ!!」

「ちょっと待って!!」

岬に強くYシャツの袖を握られる、俺は立ち止まり彼女の顔を見た、彼女の目は少し赤くなり泣きそうになっていた。

じっと見つめ合う、互いに汗をかきうっすらとシャツに汗が滲む、ピンクの下着が透けて見えた。

岬からは、女の子特有のシャンプーや柔軟剤の匂いがする、じわりとかいた汗と交わり、和也の鼻をツンとくすぐる。

そんな岬の切れ長の目は和也を動けなくした。

「私が出すよ」

「それ位持ち合わせてるよ

2人で喫茶店に入り、席に着く、流石にお茶代の500円位は僕も持ち合わせている、......1000円しか無いけど。

よくもまぁ店の前で騒いでた高校生を相手に涼しげな顔してこの喫茶店の店主は仕事をしてられる。

明らかに誰でも分かる援交現場からの俺との言い合いなんて良くない状況だったのは分かってるはずなのに......、50歳位だろうか?

店の中はそんなに洒落てないが、居心地の良さを意識した感じだ、黒を基調とした色で統一されている

俺は古い革のソファーに腰掛ける

辺りを見回す、何冊か適当な漫画や雑誌が置いてある、そして目の前の涙目の美少女を見る。

二人共アイスティーを頼んだ、俺はコーヒーが飲めるしいつも飲むけど、なんとなく岬に合わせた。

運ばれてきたアイスティーに口を近づける、緊張と興奮で喉の乾きが分からなかったが少し飲んだ後に

全部飲み干してしまった、岬も同じことをしていた。

店主はすぐにお冷を持ってきてくれた。

「......ごめんね、心配してくれたのに」

岬が謝ってくる、僕も何か言おうと思ったが言葉が出ない、......そもそも何を言ったらいいのかわからない。

......そしてどこまで踏み込んでいいのかも分からない。

「......初めてだったの」

「......何が?」

「......その、援助交際ってやつ......」

......俺は常習的にやっているのかと思っていた、色々まだ考えるところはあるがとりあえず少し安堵した。

続けて岬は空になったアイスティーのグラスの氷をみつめてカラカラと振りながら話を続ける。

「......怖かったしね、......でもきっとこういうふうに誰か止めてくれなかったら、やっぱり後悔してたと思う

......だから色々ありがと、......やっぱりこんなの良くないよ、......これで良かった」

「あ、良かった、その......単刀直入に聞くけど、なんでこんなことを?」

岬がそういうことを言ってくれて、また安堵する、気持ちがほぐれて聞き返す

「それは......、こういうことって大人になるためには必要じゃないの?、私は早く自立したいの」

「いやそれは違うんじゃない......?、お金に困っているのか......?」

「女が一人で生きるためにはこういうこともしなくちゃいけないでしょ、私はあの男と一緒に暮らすつもりだったの」

またブスリと胸に何かが突き刺さる、ショックで黙った俺に岬が続けて言う。

「......あんまり家庭環境良くないの、家に居たくなくて、お金も欲しかったし、高校生に入ってからはずっとバイト

して過ごしてたけど、もうそれも疲れちゃって......」

あれだけ中学校の時陸上部で短距離強かった岬が、部活に行かなかったのはバイトをしてたから......?

俺は少し勉強をして、だらだら過ごしていた自分が恥ずかしくなる。

「家に戻ると母親の男がいつも居て、最近少し私に乱暴するの」

また俺はショックを受けてしまった、残酷な現実に今日一日でもう何ヶ月分か老け込んでしまったのではないだろうか

俺は救いを求めるかの様に

「乱暴って何を......」

と聞く、自分で聞いた癖にもう何も聞きたくなかった。

「まだ最悪な事はされてないけどね、腕を強く掴まれたりとか、髪引っ張られたりとかそういうのが続いてて

一週間位前に強く腕をひかれて、襲われそうになったの、そして急いで逃げて時間潰して家に戻ってみたいな......ね」

岬の手の熱でグラスの氷はもう溶けている、彼女は氷が溶けた水を口に含む

俺も馬鹿じゃないから状況を理解してきた、という事は

「......それであの男をみつけた......と」

「そう、どうせこんな嫌な世の中苦しく生きるなら、私も利用してやろうって思って」

俺は黙ってしまった、それは違うなんて倫理を説いたところで、こんな自分が言ったところで何も説得力が無い

岬は僕より遥かに大人だ、何かしてあげられることは無いのか......。

「それでその男のところに行って学校とかどうするつもりだったんだ?」

「わかんない、でももう学校どころじゃなかったしね......、このまま辞めて働くってのもありだったと思う

だとしたらうーん年ごまかしてバイトか、それともずっとバイトだとしんどいからお水の仕事とかかも......」

「岬の親はどうするんだ?」

「母親の男が私のこと意識してるのなんとなく母親は気づいてたし、母親は何も気にしないよ、むしろ厄介払いできていいんじゃない?」

「岬は学校には行きたいのか?」

「勉強は好きだよ、大学にも行きたかったけど、もう無理かな......」

「じゃあウチで暮らすかー?」

岬が目を見開く、......あれ俺はなんでこんな事言ってるんだろ......?、ウチはボロいけど無駄に広いし

事情話せばウチの母親も許してくれるだろう、真剣な話し合いとルールが必要だけど。

「......迷惑じゃないの?」

「いや、別に......、来れるなら来たい?」

軽く目を見開きながら頷く岬の前で俺はスマホを取り出し、自営業の家に電話をかける、父親が出る、母親に代われと言う

母親に事情を話す、俺の冗談で妄想じゃないのかと疑われてしまったのでスマホを岬に渡す。

「しっかりと岬さんの親御さんと話さなくちゃ駄目だけど、親御さんが許可貰えたらいいよ」

......多分勘のいい母親は俺が恋をしていて、その相手が岬だと気付いている。

「......あの、母は多分許可してくれると思います」

「色々な手続きとかそこら辺はゆっくり話さなくてはいけないから、今日夕飯にいらして」

「......あ、あのー......ありがとうございます」

岬がスマホを切る、......なんで最後に息子の俺に代わらせないのだろうか。

それはさておき、店主さんが少しはにかんだ笑顔を僕に見せてくる、俺も笑顔で答える。

俺はお冷を流し込み、一緒に家に行こうと席を立つ、岬もすぐにお冷を流し込んだ。

少しはにかみながら店主さんは何も言わすに会計をしてくれた、......この店にはまた絶対来よう。

3年間好きだった子と帰路を共にする、二人で色々な事を話す。

クールビューティーは嬉しくてたまらなくなり饒舌だ、ずっと夢に見ていたシチュエーション。

夕日が照りつける岬の笑顔が眩しい

「私、またバイト入れるよっ、それでなんとか大学とかに行けたらいいなーー」

......それは俺もバイトをしなくちゃいけない展開じゃないか?、まぁそれならサッと稼いだお金を

岬に貸しだぜと言って渡すのもカッコいいな。

「俺の家で働くのもありかもなー、割と人出少なくて困ってるし」

「和也の家って何してるの?」

「旅館」

うわあぁ......!!とますます笑顔になる岬、......そんな立派な旅館じゃないけど。

え?ていうか呼び捨て?、うわあぁ......!!と俺も笑みを隠せなくなる。

ん?というかんん~~~??、あれ......俺は岬とそういえば一緒に住むのか?、なんだこの急展開!!

「和也、中学の時の文化祭覚えている?、ほら私誰もやらないから1人でやっててさ、和也が手伝ってくれてすっごい嬉しかった

んだよ?、ずっと声かけたかったけど、なかなかかけられなかったんだよね~」

商店街を抜けた、道の先、夕日が照らしつける、話し声も騒音も虫の音も、俺はなにもかももう心臓の鼓動の音で聞こえなかった。

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