第3話停車駅
とぼとぼと、ただただ黙って彼らは土の道を歩いた。
時々、牛蛙がなきわめいていた。
星空のもと、歩いていくと、やがて古びた木製の駅にたどりついた。
そこには、もくもくと大量の煙を吐き出しているSL機関車がとまっていた。
機関車のライトがまぶしい。
光が遠くまで照らし、明かりの線がどこまでも延びていた。
機関車両から一人の人物が降りてくる。
金ボンタンの目立つ紺色の機関士の制服を着ていた。大きく膨らんだ胸元がその人物を女性であることを証明していた。赤くむっちりとした口にチュッパチャップスを咥えている。
大きく手をふり、その度にボリュームたっぷりの胸を揺らしながら、彼らを出迎えた。
「よお、エルザ。連れてきてやったよ。まったく、死神のくせに情に流されやがって」
ため息まじりに、男は言った。
やれやれといったようなどこか疲れた、それでいて晴れ晴れとした笑みを浮かべていた。
「ありがとう、貘さん」
エルザと呼ばれた女は素直に礼を言う。
弟の方に近づき、頭をなでる。
「ねえ、君。ポケットを探してごらん」
彼女に言われるまま、弟はズボンのポケットをまさぐると、一枚の切符が出てきた。
「それは、かの有名な銀河鉄道の乗車券さ。君はこの列車にのり、銀河を旅するんだ。まずは白鳥座に行ってカンパネルラと合流しよう。彼が道案内になってくれるよ」
そういうと柔らかな胸元からチュッパチャップスを取り出し、弟の手に握らせた。
チュッパチャップスの袋をとり、弟はそれを口にいれた。
「お兄ちゃん、しばらくお別れだね。僕はお姉さんとこの列車にのるよ。なんだかわかっちゃったんだ。旅はきっと素晴らしいものになるよ。だから、安心してね。心配はいらないから」
そういうと弟はエルザの手をつかんだ。
にこりと愛らしい笑みを浮かべて、エルザは弟の手をぎゅっと握る。
「さあ、行こうか。ねえ、弟くん。トランプしようよ。あたしね、トランプ得意なんだ。旅は必ず楽しいものになるからね。いっぱいいっぱい遊ぼう」
うふふっとエルザは笑うと弟を連れ、列車に乗り込んだ。
列車は甲高い汽笛をならし、発車していく。
ゴウゴウとうなる機関車の音が鼓膜を激しく刺激する。
煙を夜空に流しながら、蒸気機関車は旅立っていく。
追いかけたい気持ちが心のなかに広がるのに、体は石のように動かない。
「そうだ、お前はそれでいい。あの列車に乗るのはまだまだ先だ」
風に飛ばされそうになるハンチングを手で押さえながら、貘は言った。
まったく匂わない煙草の煙を吹かけると、すっと兄は意識を失った。
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