酒を飲んだら男友達が女になっていた話。

「いやー今日は飲んだ飲んだ」

「そんなに酔っ払って大丈夫か? タクシーを呼ぶか?」

「うーん、そうだな~。ちょっと足も覚束ないし、呼ぶかな」

「まったく、そんなになるまで飲むなよ」

「仕方ないだろ、お前と飲んだのは久しぶりだったんだから。何年ぶりだ?」

「社会人になる前が最後だったから、三年ぶりだな。大学生の頃はよく飲んだのにな」

「そうだな。知り合ったのは大学だったけど、なんでか気が合ったんだよな。でも、お互いに仕事が忙しかったから仕方ない。……あ、そうだ。仕事で思い出した。この前、営業回りの途中でサボってた時のことなんだけどさ」

「サボるなよ」

「まあまあ、話を聞けって。車を停めて休んでたんだけど、すぐ側の公園で子供らが遊んでたんだわ。っで、そこに変わった子も混じっててさ」

「どんな風に変わってたんだ?」

「女の子にしか見えない男の子なんだよ」

「マジで!」

「うん。ああいうのって漫画の中だけだと思ってたわ」

「ああ、俺もびっくりだ。そういうのはフィクションだと思っていたからな」

「まったくだ。――あ、わるい。タクシーを呼ぶために電話してくるわ」

「おう。――それにしても姿か。つまり幽霊とか、そういう奴だよな。……ん、女の子にしか見えないのに、なんで男のあいつが見えたんだ? え、もしかしてあいつってか? 性転換手術を……」

「いやー良かった良かった」

「どうした?」

「じつはタクシーが近くを走ってるらしくて、すぐに来てくれるってよ」

「そうか……」

「ん、どうしたよ。なんか深刻な顔してるけど」

「いや、その……。お前に聞いておかないと行けないことがあるんだ」

「なんだよ。俺達の仲だろ。気にせずに言えよ」

「じゃあ率直に聞くぞ」

「ああ」

「いつだ? お前のを入れたのは、いつ頃のことなんだ?」

「俺の所? 雌? ……家で新しく雌の犬を飼い始めたことを言ってるのかな?」

「どうなんだ。隠すなよ」

「いや、べつに隠してたつもりはねえよ。まあ、去年だな」

「去年! なんでだよ!」

「仕事が忙しくてストレスがヤバかったんだよ。っで、愚痴る相手が欲しくてさ」

「愚痴だったら俺が聞くだろ!」

「いやー仕事の愚痴はちょっと……」

「親御さんは知ってるのか?」

「ああ、知ってるよ」

「なんて言ってるんだ?」

「可愛いって」

「嘘つけ!」

「嘘ってなんだよ、見たこともねえくせに」

「見てるよ! 現在進行形で見た上で言ってるよ! まったく可愛くない」

「あん? なんかムカつくな。そこまで言うならうちに来いよ。なんなら散歩もやらせてやるよ」

「え、俺がさせる方?」

「当たり前だろ」

「お前、すごいアブノーマルだな。初っぱなから野外かよ。せめて家の中だけで楽しめよ」

「家の中を散歩なんて聞いたことねえよ。っで、俺とお前、リードはどっちが?」

「そんなこと聞くなよ。俺は初めてなんだぞ。せめて引っ張って行ってくれ」

「あ、お前、初めてなの?」

「当たり前だろ!」

「じゃあ何を持っていくかと知らないだろ」

「持っていくって何を?」

「袋とかだな、ちゃんとフンの始末とかしないといけないから」

「フンの始末!? そこまで本格的にやるのか!?」

「大事なことだぞ。飼い主はペットの面倒をちゃんと見ないと行けないからな」

「俺達の関係が変わってるじゃん!」

「変わってねえよ。なんで俺達の関係が変わるんだよ。っで、どうするんだ? 来るのか、来ないのか」

「お前、本気で俺を誘うのか?」

「まあ、お前だったら家に上げてもいいかな」

「そこまで俺を……。でも新境地を開拓するのは怖いな」

「新境地ってなんだよ。俺の家を何だと思ってるんだ?」

「愛の巣?」

「気持ちわりいな。なんだ、酔ってるのか?」

「酔わせたのはお前だろ! 次から次へとグラスに注いできたくせに」

「親切心で注いでやっただけだろ。――あ、ほらタクシーが着いたってよ。行くぞ」

「やめろ! 俺はまだ心の準備が出来てないんだ!」

「準備なんか要らねえだろ!」

「じゃあ明言してくれ、俺達はずっと友達だって」

「はあ、なんで?」

「安心したいんだ! どんなに発展しても、体だけの関係で留りたいんだ!」

「気持ちわりいよ。むしろ心だけの関係がいいわ」

「心だけの……。そうか、わかった。お前がそこまで言うなら、俺も覚悟を決める。だけど、これだけは言ってくれ」

「なんだよ」

「優しくするって」

「もう一人で帰れ」

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