第2話 手紙
これは、都会から電車で30分ほど離れた郊外の何の変哲もない築十数年のアパートと、そこに住むしがないIT会社勤務の男性のお話です。
それは金曜日の夜のことでした。彼は先日まで会社のプロジェクトの納期前ということもあり、帰りが遅い日が続いておりましたが、昨日無事システムの納品を済ませ、久しぶりに早く帰ることができました。
まだ陽が完全に沈み切らず、鮮やかな橙色に染まった空を映す窓から涼しい夜風が入り込む比較的過ごしやすい秋の夕暮れの内に自宅に帰ることができ、夕食前に忙しくて溜まっていた洗濯物や掃除に取り掛かっておりました。
帰りが遅いと、騒音の関係で洗濯機を使うことも難しく、掃除も掃除機の音や物を片付ける音も想像以上に周りに響いてしまい、手を付けられないでいたのでした。今日はまだ夜も早いので、明日の休日を待たずに全部こなしてしまおうと思った次第です。
そうして何度も着て皺が入ったシャツにアイロンを当てたり、溜まっていたゴミをまとめていると、中身をしっかり見る気にもなれないほど溜まったDMの中に奇妙なものが紛れ込んでおりました。
それは一通の封筒にも入っていない簡単に折り畳んだだけの手紙でした。
裏を見ても差出人も宛先も書かれておりませんでした。
不思議に思って中身を開いて見てみると、そこには紙一面にびっしりと漢字でも英語でもない文字が書かれておりました。
彼は書かれているものが何かはわかりませんでしたが、君の悪さから思わず手紙を投げ捨ててしまいました。
しばらくじっと投げ捨てた手紙を見つめ、いったいこれは何なのか、何のためにこんなものが投函されたのか、そんな思考が脳内を駆け巡っていきました。
少ししてから現状を把握できるようになってから、いつの間にか酷い動悸がしていた胸に手を当てて、ゆっくりと深呼吸をしました。
二度三度、深く呼吸をして動悸を抑え、恐る恐るもう一度手紙を手に取ります。
やはり、解読できない文字で紙が埋め尽くされていました。それは多少和風のテイストを感じる文字でしたが、見たこともない文字でした。それ以外は文字も墨で書かれているだけの手紙でした。
「おそらく、宗教勧誘の類の手紙か何かだったんだろう。不思議な勧誘方法もあったもんだ。」と、前に宗教の勧誘が来たことを思い出して、そうやって手紙の奇妙さを自分に納得させました。そしてそのままゴミ袋に他の紙ごみと一緒にまとめておきました。
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