JUMP!


 走る。駆ける。跳ぶ。

 笑う。笑う。笑う。

 その流れにのれていない私は、ぼんやりとそのオレンジ色の球を眺めた。運動音痴。私を表す分かりやすい言葉だ。鈍いし、トロい。コントロールは最悪。力も弱い。そんな私には、球技大会なんて行事は煩わしいだけなのだ。いや──煩わしがられているのは私なんだろうな。私、足手纏いだし。私は小さく苦笑した。無論、誰にも見られないように。

 考えている間に、試合は終わっていた。うちのチームが勝ったみたいだ。二回戦もやるようだ。


──最悪。


 私はため息をつきながらコートから出た。



 * * *



 二回戦待ちで、他のクラスの試合を眺める。私はと言うと、ぼんやりとボールを見ていた。太陽みたいなオレンジ。自在に操って、ゴールへ。みんなキラキラと輝いている中、私は暗闇でおろおろしている。光には届きそうもない。


「楽しくない?」


 バスケ部の佐山さんが話し掛けてきた。どうしよう。どう答えるのが妥当だろう。


「ごめんね? 運動苦手だから、どう動いていいのか分からなくて」


 私は笑顔を作った。佐山さんは困ったように笑う。


「そんな固くなんなくてもいいんだよ? たかが球技大会なんだし」


 そう割り切ってしまえば楽だけど──影が言うんだ。こっちにいたほうがいいよって。お前には光は眩しすぎるって。


「できないよ……私みんなの足ひっぱるし、私が動いたら負けちゃうよ?」


 自分で言って悲しくなってきた。ちゃんと笑えているだろうか? 


「……」


 佐山さんは少し黙ったあと、手に持っていたボールをくるくる回しながら言った。


「勝ち負けより、楽しい楽しくないのが大事!」


 佐山さんはボールを私に渡してにっこり笑った。


「誰も責めたりしないよ? 失敗したっていいから楽しもうよ」


 手のひらの太陽が、優しく光った気がした。私は、ずっと待っていたんだ。こういってくれる人を、手を差し伸べてくれる人を──光に導いてくれる人を。


「……うん!」



 * * *



 走る。駆ける。跳ぶ。

 私は、一歩踏み出してみる。


 笑う。笑う。笑う。

 光に手が届くといい。

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