コイスルオトメ
ペラリ、とページをめくる音。少しゴツゴツした指が左から右に移って、また戻ります。しばらくして、またペラリ、という音とともにあなたの指が動きます。
ペラリ、ペラリ。わたしの目もそれに合わせて、キョロリ、キョロリと動きます。
「どうしたの?」
急に声をかけられて、はっとします。
「何をそんなに見てるの?」
不思議そうに首を傾げる彼の言葉に、わたしは「何でもないよ」と首を振りました。「そう?」と呟いて、彼はまた視線を本に戻しました。
どうしたのって言われたら、そりゃあなたを見ていました。髪を、目を、鼻を、唇を。首筋を、手を、指を。そうしてそれを見ながらわたしは、ふしだらなことを考えました。
いつか、わたしは彼に抱かれることがあるのでしょうか。その薄い唇から愛を紡がれて、熱い口づけを交わし、お互いに求めあって、ぐちゃぐちゃに溶けてしまうような──そんな夜を過ごすのでしょうか。彼のゴツゴツした指が、わたしに触れるのでしょうか。そうしたら、どんな心地がするのでしょうか。
そんなことを考えては、ゾクリ、とします。いますぐにでも、叶えて欲しいと。
髪は固そうですね。きっと、わんちゃんみたいな触り心地なのでしょう。
奥二重なのですね。その瞳で見つめられたら、きっとおかしくなってしまいます。
ダメですね。こんな何気ない時にさえ、あなたのことばかり考えてしまうのです。あなたはどんな風にわたしを抱きますか。どんな風にわたしに触れますか。
あぁ、止まらないのです。あなたへの思いが、妄想が、この胸いっぱいに、膨らんで──。
「……」
不意に、彼の手がわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でました。少しだけそっけない、でも優しい手。
「見過ぎ」
ふにゃ、と笑みをこぼした後、「照れる、」と付け加えた彼は、また本に視線を戻しました。
──あぁ。
そうやってあなたはわたしに触れるのですね。触れられた箇所が、熱をおびていくようです。
彼は、わたしがどんなことを考えてるかなんて知りもしないのでしょう。あなたの一挙一動を取り上げては、こんなにも、妄想が止まらない。でも、許してくださいね。気味が悪いなんて思わないで。だってこれは──コイスルオトメの、特権でしょう?
だから、わたしはこうやって、今日も妄想に耽るのです。
──もし、あなたとお付き合いをしたら……なぁんて。
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