少女Aの独白
ちょっと、しがない私の思いを聞いてくれませんか。
先日、隣のクラスに、転校生が来たらしい。
それがかなりのイケメンだそうで。しかも偶然にもその人は、私の友達の美佳ちゃんが朝、遅刻ギリギリで走ってたときにぶつかってパンツを見られた相手で。さらにさらに先生に隣の席にされちゃったらしいんだよね。うけるよね。
あと、別のクラスの夏菜ってのが、ちょっと前に蜘蛛の巣に引っ掛かったカエルを助けたらしいんだけど。それが実は、何だか呪いをかけられたとある国の王子だったらしく、今、「うちの国の妃になってくれないか?」と話を持ちかけられているらしい。悪い人ではないし、なによりその王子のこと好きになってしまったから迷っているんだって。まぁそりゃ、まだ高校生だもんね。……すごいよね。
で、夏菜から聞いたんだけど。その夏菜の友達の菜緒って子、今、理科担当の大橋先生と付き合ってるんだって。もともと菜緒の片思いだったらしいんだけど、二人でこそこそ理科室で逢瀬を繰り返し、めでたくお付き合いすることになったんだって。普通生徒に手を出したら何らかの処罰があるはずだけど、大橋先生はみんなから信頼があつかったこともあって、お咎めなしだったんだって。
みんな祝福してるって。おめでたい話でしょ。
あと、うちの学校の生徒会長、イケメンだけど俺様でドSって有名なんだけどさ。それに何故か気に入られた私の友達の詩織が、いきなり副会長に抜擢されたとかで、毎日慌ただしく過ごしてる。最初は気にくわないって愚痴ばっかだったけど、今はそんなに愚痴らない。こっちから話をふると、顔を赤くするんだよね。どういうことだろうね。
あと、小学校以来会ってなかった友達の理佐と最近偶然会ったんだけど。理佐、今、超金持ち学校に通ってるらしくて。そこでS7っていうイケメン7人集団に目をつけられて、毎日大変だって言ってた。地味で目立たなかった理佐は、自分でも驚いていた。どうして、私が!? って。私に聞かれても困るんだけどね。
あ、そうそう。うちのクラスのおとなしい咲希、有名バンドグループと繋がりがあるらしい。そいつらがプライベートの時に落とし物を届けたとかで、仲良くなったらしいけど。中でもボーカルといい感じらしいってもっぱらの噂だ。
……とまぁ、ここまでいろいろ言ったけど。少女マンガじゃあるまいし!
本当に、おかしい。何かがおかしい。だって、そんなの、あり得ない。だって、ここは、リアルの世界だよ!? 王子とかイケメンとかバンドマンとか! 人のことなめてんの!? あり得ませんよね!? ていうかあり得ないっていってください!!
……っと。すみません、LINEきたみたいで。
差出人は清己だ。あ、清己っていうのは、私の幼馴染みなんですけど。頭悪いバカ男で。腐れ縁ていうか、幼稚園から今までずるずると一緒にいるっていうか。ってごめんなさい、あいつのことなんかどうでもいいですよね、なにいってんだろう私。本題に戻りますね。本題に。
……。
……ごめんなさい、ちょっとLINE確認します。すぐ済むんで。付き合ってもらってるのに、ごめんなさいね。えっと、なになに?
“今日暇?
暇なら帰りマック行こ
お前の奢りで(笑)”
……だそうで。
何なの? こっちの都合知らないで。急に誘ってくるとか。暇? とか聞くなよ。そんな風に聞かれたら、無理にでも暇作るっつの。奢りとか、ふざけてるでしょ。ほんとに、もう!
……え? にやけてる?
……。
何言ってるんですか、気のせいっすよ! あー……で、なんの話してましたっけ?
* * *
長々と愚痴ってごめんなさいね。でもまぁ、最後にこれだけは言わせてください。
私には、運命的な出会いも訪れないし、劇的な恋愛もできないだろうけど──それでいいや。私は普通に恋をして、小さなことに一喜一憂しながら、毎日を過ごします。少女マンガじゃあるまいし。
……え? 清己?
だからなんの話ですか? 私には、さっぱり。
あ、LINE。あいつもう終わったみたい。じゃあ、私いきますね。話聞いてくれてありがとうございました!
また、どこかで。
(去り行く少女Aの足取りは軽く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます