第42話 この話の『悪役』について
さて、涙無しでは語れない、王子との和解を終えた後、私はさっそく王様のいそうなお部屋をお尋ねしました。
王妃様がお会いしたがっている旨も添えて。
「父上に? 僕ももう何年も見ていないから、今どうなっているのかわからないけど、危ないから近づかないほうがいいよ」
王子が眉間にしわを寄せ、首を横に振りながら、こんなことを言ったんです。
どういうことでしょうか。お小さい時は、あんなに仲が良かった親子でしたのに。
「あの、王子、危ないとは?」
「父上は、たぶん僕が生まれるずっと前から、とっくにおかしくなってたんだと思う」
「えっと……まぁ、あの……こんな国を創ろうと、行動に移された時点で、相当に恐ろしい人だとは思いますけれど、あなたのお父様でありますし、王様でもありますから、危ないからと放置されるのは……なんだか、お気の毒が過ぎる扱いといいますか……」
「わかったよ。イセラは母上の願いを引き受けちゃったもんね。それじゃあ、一緒に探そうか。でも会うだけ会ったら、すぐ逃げようね」
に、逃げ……?
「あの、王様とケンカでもされたんですか?」
「うん……」
「仲直りなどは、叶いそうにないのですか?」
「無理」
まさかの、即答です。
「……左様でございますか」
あの王子がですよ? 誰をも寛容に受け入れてしまう、ちょっと心配な性格のあの王子が、無理だと即答なさったんです。子供の頃は、ご両親とあんなに仲が良かったのに、いったい何が起きたのでしょうか。
私の記憶がところどころスッパ抜けているせいで、当時はただただ王子の不機嫌な顔に戸惑うばかりでした。王子がこんなにも不快な感情をはっきりと表に出すのって、大変珍しいことです。子供の頃の泣いたり喚いたりは仕方のないことですが、大きくなった王子は悟ったような、あきらめを覚えてしまったような、それでも前へと進んでいく勇気のある人でした。
こんな恐ろしい国と、国民とに向き合い、その最期を見届けようとしている強いお人です。ですが、その国民の一人に、王様は入っていないのでしょうか。
……。
猫さんは、物語に「悪役」がいると盛り上がりを感じるタイプですか?
私も、自分が主役になった物語を想像するときは、盛り上がるシーンはぜひとも加えねばと考えていました。しかしですよ猫さん、じつは主人公が二人いて、それが私と王子で、しかも「悪役」が王子のお父様で、私は王子とお父様が仲良くお話ししている姿を、今も胸に刻んでいて……。
二人の主人公のうち片方にとって、戸惑いが生じる「悪役」って、盛り上がりますかね?
まあ、盛り上がるか下がるかは、この
それでは、会いに行きましょうか、王子のお父様である「悪役」に……。
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