第36話 妖精たちの作戦②
「王妃サマはお城の中で暮らしているはずだよ。そして王妃サマには、護衛が付きものさ。きっと護衛どもも誤作動を起こして、城内部を歩き回っていることだろうよ。あたしたちは、それらを突破して行かなきゃならない。わかるかい? あたしたちは今から、王妃サマに危害を加えに行く不届き者さ。あんたたちは並みいる兵士たちを、どんどん倒していっておくれ。あたしも手伝うからさ」
彼女の考えた作戦は、お城への道とその内部に詳しい者でなければ、請け負えないものでした。
「俺たちは、王の招待を受けた長老様の護衛で、城へ何度か足を運んだことがある。だが、城の隅々まで知っているわけではないぞ」
「私なら存じています。毎日お城にお花を届けていましたから」
それなら話が早いね、と言いながらエインセルさんは羊皮紙を丸めた束を、どこからともなく取り出しました。いったいどこから、と思ったら、彼女の黒く長い髪に隠れた腰ポシェットには、他にもたくさんのポッケがあって、大小サイズにいろいろと容量もあって、深さにも個性があって、早い話が、彼女の旅支度の全てがそこに収まっていたのでした。
彼女は羽ペンも用意してくれました。インク壷までありまして、私は腰ポシェットの魅力に気づかされましたね。え? 持ってませんよ、そんな便利な物。あ、作るのが面倒だったわけではありませんよ。分厚い生地を縫いつける技術や、革を切る技術が私に無いので、作れないんですよね。いや〜、その技術さえあれば、私でも作れるのにな〜本当に惜しい話です。
あ、お城への内部の地図は、私が作りました。王妃様のお部屋は、最上階の真ん中少し右の、りんごの木が彫刻された扉です。そこまでの道順は、上る階段さえ間違わなければ、すぐにたどり着けます。そう、階段さえ間違わなければ……階段、いっぱいあるんですよね。行き止まりに繋がっている階段もあるんです。不思議な警備のやり方ですよね。王子と一緒に、お城を探検したときに、よく行き止まりで爆笑していました。なぜあんなにおかしかったのでしょうか、今でもときどき思い出すと笑ってしまいます。
「イセラ、この地図さえあれば俺たちだけで突破できる。お前は留守番しておけ」
「え?」
なんてことを言うのでしょうね、このウェルデンギールさんは。冗談は、その長すぎるローブだけにしてほしいです。
「顔色が悪い。まるで土のようだ。そのままでは、いずれ羽まで朽ち落ちてしまうぞ。永遠に飛べなくなってもいいのか?」
「私の顔色、そこまで悪いんですか……?」
妖精は羽から弱っていきます。元気がない日は、羽もしょんぼりと下がります。羽が全て抜け落ちてしまうと、まず助からないと言われていますね。背中と神経も繋がってますから、引っ張られたり扉に挟めると、めちゃくちゃ痛いんですよ。心と体に直接繋がっている、とても繊細な部位なんです。それが朽ちて取れてしまうだなんて、想像もしたくありませんね。
そして、この私の愛くるしい顔が土人形のようだと……光の乙女たるもの、常に輝いていなければいけませんのに、デリカシーのないエルフのお兄さんからも指摘されるほどだなんて、とてもショックを受けましたね。自分自身が、そこまで弱っているのかと思い知らされました。私に時間制限ができてしまったように、感じましたね。
「長老様」
私は、助言を求めて年長者たる長老様に振り向きました。しかし、彼もまた首を横に振るばかり。
「王子は王妃に手を下した者を、決して許さぬだろう。言葉では許してくれていても、愛する親族を手に掛けられたら、誰でも
「いいえ、私が……私が、請け負います」
「イセラ、王子に償いたい気持ちは痛いほどよくわかるよ。じゃが、このような形で重荷を背負うべきじゃない。王子には、お前が必要だ。儂らではないのだ。じゃから憎まれ役は儂らに任せて、お前は王子と共にいなさい」
願ったり叶ったりかもしれません。自分が悪者にならなくて済むんですから。エルフの皆様に機能停止させられた王妃様を、悲しみに沈む王子と一緒に、何食わぬ顔で眺めていればいいんですから。楽ですね。これで私は王子に嫌われなくて済むんです。あわよくば傷心した王子につけ込み、私を唯一無二の支えのように思わせることもできましょう。
……私にそんなこと、できると思いますか? 猫さん。
ここまでお話につきあってくれた猫さんなら、わかりますよね、私の性格が。
「エルフの長老サマまで同行してくれるんなら、あたしの出番はないね。イセラ、あたしたちはここで待っていようか。あんな汚いとこ、大勢でわいわい歩き回るもんじゃないさ。少数精鋭で挑もうじゃないか」
「はい……わかりました」
もちろん、ここで引き下がる私ではありません。エルフの皆様がお城を目指して、その背中が見えなくなるまで、私は、本当にやりたい事を黙っていました。
「あの、エインセルさん、あなたに動かしてほしい道具があるんです」
「ん? 道具?」
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