第26話 協力者…でいいんですか?
エルフの長老様と別れてすぐ、縄を解いてくれとお兄さんが頼むので、王子はエルフの長老様を呼び戻して、お兄さんを拘束している植物の
これがあると、楽なのだと、長老様はおっしゃいました。
「では、儂は別の家を回るとしようかの。新しい人手も増えたことだし、これからは作業が楽になるかもしれんのう」
ふぉっふぉっふぉ、と朗らかに笑いながら去ってゆく長老様。その小さな背中に、私は思わず「一緒にいてください!」とお願いするところでした。
だって、ねえ? 王子はお兄さんに少しずつ心を開いているようですけど、私は王子に向かって
ふと、お兄さんの視線が、私に留まりました。
「その、鳥籠に入っているのは妖精か? 羽が動いているが」
「あ、本当だ。イセラ、羽も動かないように気をつけて」
自分の羽が無意識でも動くのだと、初めて気づかされました。羽を動かさずにと王子に頼まれましたが、いざやってみるととても難しくて、意識していても微妙に羽が動いてしまうんです。
「初めまして、妖精のイセラです」
もう開き直って、私はお兄さんに簡単な自己紹介をしました。するとお兄さんは、こんなことを言ったんですよ。
「初めましてだ。生きている妖精は、初めて見る……」
どういう意味なんでしょうかね。人生で初めて妖精を目にした、と言う意味なんでしょうか、それとも、死んだ妖精なら見たことがある、と言う意味でしょうか?
妖精は珍しいですから、薬の材料として、内臓や羽を利用されることもあります。とてつもない魔力を患者に授けるとかなんとか。そういった研究をしている人に、捕まえた妖精を高く高く売り渡す商人がいると、祖父から聞いたことがありました。
まぁ、恐ろしいですから詳細は聞きませんでしたけれど。
王子が再びのドアベルを鳴らそうとしたその時、私はお兄さんが布で頭部を覆っている姿に気がついて、それを外すように言いました。お店をしている人は、顔を隠している人を見ると、強盗だと思うのだと聞いたことがありますから。
まあ、盗賊なんですけどね、この人。
「うん……まぁそうだな……」
歯切れの悪い返事とともに、お兄さんは顔の覆いを外しました。大きな黒いバンダナを二枚使って、頭部と、顔の下半分を隠していましたね。現れたお顔は、そこそこなおじさんでした。当時の私は、てっきりお兄さんだと思っていましたから、おじさんでびっくりしましたね。
盗賊のお兄さん、もとい、盗賊のおじさんは、私たちに、これでいいかと尋ねました。
うなずくしかありませんよね。布をとってほしいと頼んだのは、私なんですから。
盗賊のお兄さんは、三十歳代でしょうか、人間のお歳を正確に当てる事は苦手なのですが、王子のお父様は四十歳位でしたので、そこまでは老けて見えませんでしたから三十代だと思いました。
初めてお会いした時よりも法令線が濃くなり、苦労なさってきたのか白髪がピンピンと立っていました。王子のお父様よりも若く見えましたけれども、王子のお父様よりも疲れている顔に見えました。
ここにいる人たちはみんな疲れた顔になっちゃうんですけどね。主に瘴気のせいで。
私もあんな表情の作り方になっていないかと心配になり、両頬に手を添えてムニムニとマッサージしてみました。
気分は自分から上げていきませんと。こんなに恐ろしい状態になっている国で、楽しみを見つける事は困難ですから、ここは私が明るく笑顔を作り、皆様を照らしていきませんとね。
でも、この状況でニヤニヤするわけにも参りませんよね、まるで私がお兄さんの素顔を見てへらへら笑い出したかのようですもの。
うーん、皆様を明るく導くと言うのは、なかなかに難しいかもしれません。
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