第14話   幸せの反動か

 私の記憶喪失の件を王子が話す前に、まずは長老様から目の前の惨劇の理由を、説明してもらうことになりました。


「う〜む、何から話そうかの」


 エルフの長老様は、長ーい顎ひげをさすりながら、う〜むう〜むと、うなっていました。


「お前さんには、辛い話になるかもしれんが」


「この目の前の惨劇以上に、辛いことなど、ありません」


「ふむ、聴き入れる覚悟があるのだな」


 じつのところ、ちょっと緊張しておりました。


「じつはお前さんが小さな王子と過ごしていたこの国には、誰一人として生きた人間がいなかったのじゃ。この王子を除いてな」


 いきなり突拍子もないことを言われました。もちろん私は、うろたえましたとも。


「え? あの、それはー、つまり〜、どういうことですか? だって皆様、生き生きと暮らしていましたよ?」


「はたから見れば、そうじゃな。だが、皆とっくの昔に、寿命を迎えておった。ここで暮らしていたのは、森中の生気を吸い上げながら、生前と同じ毎日を繰り返して活動する、人形だったのじゃ」


「人形……?」


 信じられますか? 人形だそうですよ?

 でも王様も王妃様も、城下町で暮らす人々も全員、作り物とは思えない表情を浮かべて生活しておりました。


 にわかには信じがたい話です。


「人間の肉体を、見分けがつかぬほど瓜二つの人形にすり替える……そのような奇妙な研究に、成功した者がおった。その者も自ら人形となってしまい、儂らが駆けつけたときには、すでに元に戻せなくなっていた」


「なぜそんな、気味の悪いことを。お人形になってしまった人たちは、どうなってしまうのですか?」


「こうなってしまうのじゃ」


 長老様は街並みを眺めながら、そう言いました。


「やはり生きた人間を、人形にするなんて恐ろしい実験は、反動がひどかったのじゃろう」


「反動で、このようなことになってしまったのですか?」


「そうじゃ。命を弄ぶ術を使うと、このような反動が起きることが多い。いわゆる禁忌の術じゃな」


 ……と、言われましても、私は実際に人形が作られた現場をこの目で見たわけではありませんので、国の皆様のことは今でも人間だと思っていますし、その反動というのも、よくわかりませんでした。


 両腕を組んで、小首を傾げる私に、長老様が、こう言いました。


「いまいち、ピンときていない様子じゃな。では王子、この妖精も連れて行こう。百聞ひゃくぶん一見いっけんにしかずじゃ。儂も同行しよう」


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