第5話   カラクリの付いたポスト

 手紙の内容、その答えは……なぞなぞです。


 私たち妖精族も使うエルフ文字で書かれた、なぞなぞでした。



 親愛なる妖精さんへ

 この鳥籠は、問題を順番通りに解いていき、その答えとなる数字のボタンを押してゆくと、外へ出られる仕組みになっています。

 どうか頑張って、全問正解を目指してください。



 ……と、お手紙には書いてありました。


 針金でできたポストの下の方に、123の形をした三つのボタンが並んでいます。


 でも、変だと思いませんか?

 手紙には、私が逃げるための手がかりが書いてあるのです。


 そんなことをしたら、私はもちろん、逃げてしまいますよね?


 この青年は、私を捕まえたいのでしょうか、それとも、逃したいのでしょうか?


 是非とも後者であってほしいと願いつつ、私は下記の問題たちに、宣戦布告をいたしましたとも。絶対に全問正解してみせると。



 では、最初の問題です! 猫さんも一緒に、考えてみてくださいね。


 それでは問題その1です。

 鳥籠の中の妖精の名前は、次のうちどれでしょうか。

1・クインセル

2・エインセル

3・メガネザル


 なぜ私の本名が知られているのでしょうか。妖精は強い絆を結んだ相手にしか、自分の名前を教えません。

 きっと問題の作者は、どこかから私の情報をかすめとったに違いありません……可愛い過ぎるのも困りものだなぁと、このときの私は、そう思っておりました。


 さあ、答え合わせのお時間です。

 私の名前は、エインセル。ですから、2の形をしたボタンを押しました。


 針金たちがカチンカチンと鳴り、小さな歯車たちがきゅるきゅるきゅる、と回転して、びっくりした私は肩をすくめて、あたりを見回しておりました。


 今思えば、たとえ間違った答えのボタンを押してしまっても、針金細工の反応がなければ、総当たりで別のボタンを押せば開いたのではないでしょうか。


 当時の私は、なんとかここから出たい、その一心で、何も深く考えることができなかったんでしょうね。けっして私が単細胞とかアホとか、そういった問題ではなかったのだと思います。ええ、ご賛同願います。状況が悪かったのです。そうですよね、猫さん?


 では、次の問題です。

 問題その2。鳥籠の中の妖精の愛称は、なんでしょう。

1・イセラ

2・イセセ

3・シリル


 ……ここで私は、自分の愛称まで知られている事実に、衝撃を受けました。思わず身内の妖精たちを、疑ってしまいましたとも。

 そして悲しくなりました。私が花束を贈りたい意思を貫き通しただけで、身内の反感をめちゃくちゃ買ってしまったのかと、絶望しました。


 ま、そんなわけなかったんですけどね。非常事態に陥ると、誰でも混乱してしまうものです。


 さて、答え合わせのお時間がやってまいりました。

 私の名前はエインセル。愛称は、イセラです。以後、お見知り置きを〜。


 こうして地道に問題を解いてゆくことで、鳥肌が立つような感情に支配されてしまうのは、誰しも望むことではないはずです。


 私は、ズルをして鳥籠を破壊できないかと思案しながら、辺りの仕掛けを観察しました。鳥籠の鍵は複雑で、全てのポストと一つの鍵が、細かな針金細工でつながっております。

 試しに針金を歯でグギギギと噛んでみましたが、あごが疲れたうえに歯がギーンと痛くなっただけでした。イタタタ、今思い出しただけでも、とても痛くなります……。

 しかたがないので、おとなしく問題を解いてゆくことにいたしました。


 コホン、では問題その3。

 鳥籠の中の妖精が毎年、花束を届けている相手の名前は?

1・クインセル

2・エインセル

3・メガネザル


 ……あれあれ〜? なんだかこの問題、見覚えがありませんか?


 そうです。問題その1と、まったく同じ選択肢なのです。これは問題を作成した人のミスですか? 当時の私は、そう思いました。


 ええ、絶望しましたとも。出題ミスをされたうえに、毎年花束を贈っていた相手に心当たりがありませんでした。


 私は今年から、王子に初めて花束を贈るのです。花束を誰かに贈るという行為も、今年初めてのことです。


 ……だから、毎年贈っていた相手なんていません。名前も、わかりません。


 それが当時の私の答えでした。ボタンは、怖くて押せません。もしも間違ったボタンを押したら、どうなるのか、手紙には書いてありませんでしたから。


 なにか仕掛けが動いて、永遠に閉じ込められたりしないかと、不安な想像ばかりが頭を巡りました。こんな状況ですもの、前向きに構えるのは限界があります。


 とりあえず、この問題はパスです。飛ばして、次の問題へ移りましょう。


 問題その4です。

 鳥籠の中の妖精が毎年、花束を届けている相手の愛称は?

1・イセラ

2・イセセ

3・シリル


 ……あれあれ〜? またも見覚えのある名前ばかりですね。そうです、問題その2と選択肢が同じなのです。


 これも出題ミスだと思った私は、ボタンが押せなくて、パニックです!


 なんとかして脱出しようと、床を走って思いきり壁をキックしました。


 鳥籠が大きく揺れます。

 私は何度も何度も、走っては壁をキック。

 となりの部屋でお茶を飲んでいた青年が、カップを片手に、駆けつけてきた頃には、私の入った鳥籠は、床に落下して横倒しになっていました。


 はしたない女の子だと、非難しますか? 猫さんだって、パニックになれば、あちこち走ったり、壁を登ったりするはずですよ。


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