第44話 独白⑨ プレイヤー名「アべンジャー」配布シム「ミョルニール」

独白 プレイヤー名「アベンジャー」


本名 薊優香


賞金60億円の使い道:不要。生き残るつもりはない。


初期配布シム「ミョルニール」









 私の両親は〝ハズレ〟の親だったのだと思う。


 結局のところ、私はこの両親を一度も尊敬したことが無かった。


 普通は、何処かで自分を育ててくれる親を尊敬するものなのだろうけど。


 私には、それが無かった。一度も。


 だからだろうか。私には、自分の両親が子供を作った理由がぼんやりとだが察せられた。


 私は「世間体」の為に生まれた子供だったのだ。


 いい年をして


 そう言う、他人からすれば至極どうでもいい、見栄と世間体、虚栄心、そして小動物みたいな怯えの為に、たいして興味もない子供を作った。


 結果として、別に好きでもない、欲しくもなかった置物みたいに扱われる子供が出来上がるわけだ。


 だから、私の親はわが子に、愛情だとか、正義だとか、哲学だとか、生きることの喜びだとか意味だとか、そう言うものを一切与えなかった。


 ただ、「普通の家庭のふり」をし続けなければならないという世間体を維持するだけのモノ。


 それが私だった。


 なので、私のこの人生において行うべきことは、世間(特に親御様おやごさま)に迷惑を掛けず、ただただ、普通に生きること。


 それだけだ。それが私の生まれた意味だ。


 だから、虐げられること自体には、心のどこかで納得もしていた。


 それを跳ね除けて生きるだけの理由が、私には無かったのだから仕方がない。




 のことだって、ルイカくんのことが無ければそこまで問題だとも思っていなかった。


 タマキさんに出会わなければ、きっとそのままだったかもしれない。


 タマキさんは私が生まれて初めて出会った尊敬できる大人だった。


 タマキさんは私に綺麗なものを見せてくれた。


 夢の話や本の中のこと、どれだけ子供を愛しているのかということ。


 タマキさんは本当にこの汚らしい世界に生きているとは思えないくらい、キレイで、温かくて……。


 そうだ。こういう人こそが、生きるべくして生きている人なんだ。


 人として生きていくだけの意味と理由を持っている人なのだ。


 私はこの人の全てに感動したのだ。


 そして――出来ることなら、ルイカくんをタマキさんに会わせてあげたかった。


 タマキさんは、ルイカくんのお母さんだ。一目でわかった。


 横顔がそっくりだったから。いつも見ていた横顔に、そっくりだったから。


 それがわかった瞬間、私は話しかけてしまっていた。

 

 私と言う人間は、稀に思いついたようにバカなことをすることがある。


 我ながらバカだなとは思うのだけれど、でもそのおかげでタマキさんと仲良くなることができた。


 バカもたまには役に立つのだ。というのは意外な発見だった。


 タマキさんと話すのは楽しかった。こんなにも美しくて、夢のような空気の中で生きている人が居るのが信じられなかった。


 タマキさんの周りだけが、私の知っている、灰色で、スカスカで、嫌なにおいのする世界とは別の空気が流れていた。


 でも、私にできるのは学校でのルイカくん事を話してあげることだけだった。


 もちろん、彼を見ていることしかできない私には気の利いたことは言えなかったけれど。


 それでもタマキさんは喜んでくれた。






 その内、タマキさんの勧めで、花を育ててみることにした。家でやると『庭を掘り返すな』と言われてすぐに捨てられてしまうので、こっそり、朝早くに学校に来て花壇のすみに植えてみることにした。


 そもそも無謀だったし、最期にはやっぱり台無しにされてしまったけど、それでもよかった。タマキさんは慰めてくれたし、それは繋がりだったから。


 それに、ルイカくんは気づいてくれた。大丈夫かって、ぐちゃぐちゃにされてしまった私の花の前で、私に言ってくれた。


 嬉しくて、でも緊張しちゃって、たいした会話は出来なかったけど、私はなんだか幸せだった。それでよかった。


 私は本当に、それでよかった。




 ――けれど、あの女だけは見過ごせなかった。


 あの女だけは私がこの手で殺す。


 あの女が私に何かをしたから、じゃない。


 それだけなら、私はあまり気にしてはいなかった。それだけなら。


 私は誰にも顧みられない、日陰の花壇の花みたいに生きていければそれでよかったのだ。


 ただ、時々、好きな人のことを考えて、何事もなく、お日さまに照らされて、あとは何もいらない。


 そんなふうに生きていければそれでよかったのだ。


 ただ、あの女がタマキさんやルイカくんを、こっち側に引き込もうとするのは許せない。


 私だけなら別にいい。私はそもそもそう言うものだから。


 でも、あの人達を貶めることは許せない。


 私が尊敬する人を、あの女が辱めるのを、私は許せない。我慢が出来ない。


 だから、私の全部を使って、あの女を殺す。


 それが私がここに居る唯一の意味だ。きっとそのために、私は今まで生きてきたのだ。





 所有シム:「ミョルニール」


 攻撃特化型のシム。単純な攻撃力、攻撃範囲、投げるだけでいいという使いやすさなど、およそ攻撃性と言う意味では最強と言える。


 さらにレベルを上げることで電撃の攻撃力と攻撃範囲が増大する。そして最大レベルでは死者の蘇生が可能となる。


 反面、防御性能は低く、敵の攻撃を防ぐことは難しい。



 所有シム:「ロンギヌス」


 プレイヤー「ドキュン」を倒し接収。ミョルニールとの併用による相性は驚異的と言える。



 所有シム:「セキトバ」


 プレイヤー「ドライバー」を倒し接収。現在はゲームマスター・ルイカへ与えられている。


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