第42話 独白⑧ プレイヤー名「探偵」配布シム「リングオブ・アンジェリカ」
本名:槇原五郎
賞金60億円の使い道:特に無し。誰か困っている人にでもあげてほしい。お金で楽になれる人にはそれがいい。
初期配布シム「リングオブ・アンジェリカ」
なんと言いましょうか。わたくしと言う人間は昔から、手癖の悪い人間でした。
窃盗と言うか、まぁ今風に言うなら万引きと言うべきでしょうか。そう言うことをやってしまうのです。
でも、そうなったのにも、訳があるのですよ。
なんと言いますか、わたくしと言う人間は、どうも存在感と言うものが薄いらしいのです。
誰もわたくしのことなど見てもいないと言いますか。
なんというか、あまりにも簡単すぎるのです。
そのせい、と言ってはなんですが、かつてはもっと重い罪も犯しました。口に出すのもの憚るような。
バカなことをしたものです。そのせいで刑に服していたこともあります。もう、ずいぶんと前のことです。
それも簡単すぎたせいなのです。なんというか、つい、やってしまうんですよね。
それで、捕まって、そういうことを繰り返してしまいました。
不思議なんですよ。つい、なんて言うと、みなさんとてもお怒りになられるんですが、そうじゃないんです。
自分でも、不思議なくらい。やるかやらないかと言う判断がブレるのです。
やらないという決定を、手のほうが拒否するのです。
止まるはずの所で止まらないのです。
不思議なのですよ。
わたくしと言う人間は、幾度となくそんな恥の上塗りをして、生きてまいりました。
そんなわたくしではありますが、実は今、探偵事務所――いえ、正確には興信所に務めているのです。
学がないもので、結局何が違うのかが、よくわかりません。
これまでろくな職にも付けなかったのですが、ある特技のおかげで、そのような職業の方々に重宝されるようになったのです。
わたくしは誰かの「罪」が見えるのです。
見えると言っても、なんとなく、ピンとくる程度のものなのですが。
ああ、これは、この人は、何処かで罪悪感を感じているのだと、解るのです。
ええ、私もずっと罪悪感を持ってまいりました。それが高じて自分以外の罪にまで鼻が利くようになったということなのでしょう。
それはそうです。私ほど罪悪感に苛まれている人間はいないのです。だって、気が付いたらやってしまっているのですから。
自分では止められないのですから。
なのに、加害者になってしまっているのです。それは、罪悪感もひとしおと言うものです。
だからね、わたくし、あの娘に声を掛けたのですよ。
もうね、見ていられないぐらいの、罪悪感に焼かれていたのです。
あの歳でね。わたくしの、そう孫ほどの歳でね。
孫どころか、わたくしには子供もいないのですがね。
そんな年頃の娘が、業火みたいな罪悪感に焼かれているのです。
声を掛けざるを得ませんでした。
結局、何があったのかを聞くことは出来ませんでした。
しかし、彼女が、その火を消すつもりがないということはわかりました。この娘にとってはそれは罪悪感でも何でもなく、ただの「罪」でしかなかったのです。
普通では抱えることすらできないそれを、当然のように背負って当然のように生きている。それは彼女の、にわかには信じがたい、生き方なのでした。
わたくしは、この娘が、いとおしくなりました。
わたくしにはできなかった生き方です。わたくしは、火消しに躍起になって、他人の火まで消して回っていたというのに。
若さなのでしょうか? いえ、わたくしがこの歳だったとしても、とても背負えない火だと思いました。
気高さを感じました。悪として生きるのだという、高潔さとでも申しましょうか。
わたくしは、この娘を助けようと思います。
それは、この娘の「罪」と言う業火に、薪をくべるようなものです。
しかし、それでも思ってしまうのです。もしも自分にも、こんなふうに、自らの罪を罪とも認めず、当然のように背負ったまま生きる道があったなら、
それは、とても、得難く、尊い生き方だったのではないか、と。
所有シム 「リング・オブ・アンジェリカ」
ステルス型シム。起動することで姿を消すことが出来るようになる。
さらに、あらゆる探知系の機能もすりぬけることが可能。
レベルを上げることで姿を消していられる時間が飛躍的に伸び、また周囲のプレイヤーやエネミーにまで影響を及ぼすことができるようになる。
所有シム「ムラマサ」
プレイヤー「記者」より寄与。事前に接触があった模様。
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