第8話 雷撃のスマホ
そして次の瞬間、周囲の空間を裂くようにして光が走った。
稲妻――!?
ルイカをはじめ、ゲームマスターたちは一様に目を瞬いた。
薄暗い闇色に染まっていた立体型ディプレイが、その時、あふれんばかりの光で満たされたからだ!
閃光が走る。
とどろきと共に、ハルをめがけて一直線に。
ルイカは絶叫した。
見るからに致命的だった。
投げ放たれたのは『スマホ』だ。
ルイカ達にも与えられていたのと同じ、妙にごついスマホ。
それを、この女は全力で投擲したのだ。
それが、まるで神の槍のように、雷電を帯びて飛来する。
もうだめだ!
そう思った瞬間、しかしその帯電するスマホははじき返されていた。
ハルもまた同じように、スマホをかかげていたのだ。
訳が分からない。だがハルは生きている! でもどうして!?
弾き返されたスマホはまるでヒモでもついているみたいに主の元へ引き戻され、その手に収まった。
まるで意思でも持っているみたいに。
「はぁー、カッケェー……」
着ぐるみが放心したように言い、ルイカは思わずにらみつけた。
「あ! スミマセン。ごめんッス。マジでスミマセン……」
着ぐるみは平謝りした。
帯電するスマホを持つ女は、それからも前進しながら、2度3度とスマホを投げ放つ。
しかし、そのたびにハルはそれをはじき返した。
「とりあえず――は、大丈夫そうだな。お前の彼女のほうが、守りが固い」
どういう理屈なのかはわからないが、そういうことらしい。
そのうちに時間が来たのか、再び前方を塞ぐ壁が天井に吸い込まれていく。
「ハル――逃げてくれ!! 早く!」
聞こえているはずもないが、ルイカは何度も叫ぶしかなかった。
ハルは前方へ駆けだしたが、その無防備な背中を再びスマホが襲う。
そこで間一髪、ハルは一本道の脇にあった扉に飛び込んだ。
「なんだ!?」
「『サイドスペース』だな。アイテムとかが置いてあるスペースだ。たまに罠だったりもするみたいだが……」
「大丈夫なのか!?」
くそ、どうやったら見れるんだ!? 操作が分からず、ルイカは手元のスマホをにらみつける。
「安心しろって。とりあえずは――」
追う女も、ハルを追って同じサイドスペースに飛び込む。
画面が切り替わり、教室ほどの広さの部屋が表示される。
両者が飛び込んだサイドスペースだ。
しかし、その中は空っぽだった。
ハルの姿どころかチリ一つとして落ちていない。
雷スマホの女は髪を振り乱し、猟犬みたいに部屋中を嗅ぎまわったが、ハルを見つけることはできなかった。
「上手くいったな」
「――なにしたんだ?」
深い息を吐きつつ、ルイカは中年に問いかける。
「オレ達は『ゲームマスター』なんだ。こういう状況でもある程度はプレイヤーを誘導できる。今のは使い捨ての『ワープゾーン』を設置しといただけだ」
「ワープ?」
「要するに、別のサイドスペースにワープさせたわけだ。使い捨てのやつだったから。あの女は追ってくることも出来なかった」
中年は得意げに眉を上げた。
ルイカはとりあえず息を吐いた。
完全に理解できたわけではなかったが、とにかく、よかった。
「ま、落ち着けよ。今のでわかるように、おれ達にはこういうことができるんだ。お前の彼女を最後まで生き残らせることだってできるハズだ」
最期まで――!? 一旦は安心しかけたルイカだが、剥き出しになったかのような神経が、その言葉を聞き捨てることを許さなかった。
「待ってくれ、じゃあ、このデスゲームは……」
「そうっスよ」
着ぐるみがそっけない声で言う。
「生き残れるプレイヤーは1人だけ。で、どのプレイヤーを生き残らせるかを、僕らは選ぶことができるんでスよ。それが僕らの決めなきゃいけない「方針」なわけでス」
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