第5話 四人目の少女「環茉莉花(タマキ マツリカ)」
「これは――どっちかってーとSFじゃねぇかな。ギリギリ今のテクノロジーでも行けるような……」
案の定、着ぐるみと中年はあれこれと好き勝手に感想を述べている。
一人、驚きのあまりに言葉もないルイカに、その真正面に座った少女、つまり4人目だと紹介された少女が視線を向けてくる。
明らかに――小学生だ。
こんな子供まで、仕事とやらのために担ぎ出されたのか?
大粒の瞳が少し惑うようにして、ルイカをとらえる。
まっすぐで他意のない、しかし少しだけうかがうような視線だ。
目が合うと、少女はほほ笑んだ。
いかにも愛らしい容姿の少女だった。
つぶらな瞳は小動物を思わせる。犬猫よりもハムスターか何かだろうか。
本来なら老若男女を問わず、誰もが気を許すことだろう。
しかし、ルイカはこれを黙殺した。
とてもいい印象は抱けなかったからだ。
どこか甘ったれたような、人の顔色をうかがうようなしぐさが鼻についた。
笑顔を返そうとしないルイカに、少女はさも悲しそうに表情をくもらせる。
しかし、知ったことではない。そうでなくとも子供は嫌いなのだ。
「これは君たちの手持ちのデバイスに搭載された「マスターシム」の効果のひとつだよ。これが4枚揃うことで、初めて効果を発揮すると思ってもらっていい」
青い女が、続ける。
いつの間にか、自分も長椅子――というよりは華美な寝台のようなものに寝そべって解説を続けている。
言葉には出さないが、ルイカは憤慨する。どういう態度だ!?
そもそもこの女はいったい何なのだろうか? まさか神だとでも言うのか? ――悪い冗談だ。
しかし、ルイカは声を上げることをしなかった。一々反抗してばかりもいられない。重要なのは一刻も早くハルの元へ帰ることなのだ。
「なんで4人一緒じゃないとダメなんでス?」
一方で着ぐるみが揚々と声を上げる。まるでこれkら遊園地のアトラクションにでも挑戦するかのように。
お気楽にもほどがある。――なんでこいつらはこんな異常な「仕事」とやらに前向きなんだ?
「全会一致じゃないとダメってことなんだろ。俺たちは全員で『ゲームマスター』なわけだからな」
「あー。なーるほど」
ルイカの懸念を余所に、中年と着ぐるみが、また気忙しく会話を交わする。
さっさと話しを進めたいのだが、どうもテンポが合わず、ルイカは間に入っていくのがためらわれた。
そもそも、彼はもともと口数が多い方ではない。――ハルがいてくれたら。
互いに言葉を発しなくても通じ合える相手がいてくれることが、改めてぜいたくなことなのだと、ルイカは思い知る。
ハル。――今はどうしている?
ルイカがこんなことになっているのを知っているのだろうか?
だとしたら、心配しているはずだ。
クソ! 早く、帰らないと。早く、戻らないと……。
「さて、ここでさらに詳細にルールを解説しなければならないのだけれど、残念ながら時間となってしまった」
青い女は横になったまま、声だけは申し訳なさそうに告げる。
「時間? ――おいおい、始まっちまうってことか?!」
中年が声を上げた。
始まる――って何のことだ?
「誰か出てきた」
ルイカの向かいに座っている少女が、画面を真っ直ぐに見据え、つぶやくように言った。
よく通る声だと、ルイカは思った。
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